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星使いの勇者  作者: 星宮 燦
第三章 星と悪童
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3ー73 不完全な記憶たち

「【固形大気】【空間転移】」


 上空に足場を作り、そこに地面ごと街全体を転移させる。

 後で文句を言われたらアルトムートのせいにしよう。


 移動させる理由は、城を壊さないため。

 僕もテスカも本気を出せばこんな城は簡単に壊せる。

 多少防御魔法が使われているようだが、この程度の防御、軽く破れる。



小宇宙(コスモス)】を使えばいいのではと思うかもしれないが、相手は人工的に作られた魔獣だ。

 始まりの迷宮で戦った黒龍エラティディアのようなイレギュラーがいた場合、非常にまずいことになる。


 別に僕自身は困らない。


 ディアーナが困るのだ。


小宇宙(コスモス)】を貫通した魔法やスキルがディアーナにいる人間を殺さないとも限らない。

 結界が破壊された不意を突かれて、対応が間に合わないという可能性が拭えない。


 どんな細工が施されているかわからない以上、危険な要素は排除する。



 その結論が、ディアーナを物理的に地面から切り離し、【小宇宙(コスモス)】なしで倒すこと。


 大丈夫。

小宇宙(コスモス)】が無くたって勝てるから。


 それに、【進化】は今が一番強い。


 初めから全力だ。


「【十二善霊宮(アルス・パウリナ)】」


 狙うのは超短期決戦。


 真価を発揮した【十二善霊宮(アルス・パウリナ)】の本気。

 それは自身の手掌がが触れているものの時間を自由な操作すること。


「【遡転(ニル)】」


 その中の技である【遡転(ニル)】。

 その効果は時間を巻き戻すこと。



 術式対象を星そのものに設定するため、当然魔力の減りは恐ろしい。


 でも、今は大丈夫。


 だってーー



 その時。



「詠唱術式の使用を拒絶いたします」


 戦場全域に絶望が響いた。



「は?」


 途端に消える【十二善霊宮(アルス・パウリナ)】。



 そして、一瞬の間をおいて襲いかかる代償の頭痛。


「ガァっ!?……gぅあぁあああ゛あああ゛あ゛!!【星の記憶(ステラメモリ)】か?そんなはずはっ!?」




星の記憶(ステラメモリ)】から与えられた膨大な情報。

 その津波のような情報量によって脳に欠落が生まれることがないように、術者には情報過多による脳の負担をほとんど無視できるだけの情報処理能力が与えられる。



 ーーのだが。


 それは当然、詠唱後に得られる能力。

 詠唱なしでは付与されない。


 普通はそれで問題ないのだ。

 その処理能力が不可欠になるほどの知識が与えられるのは、詠唱が必要な【星の記憶(ステラメモリ)】使用時のみ。

 詠唱の拒絶によって情報処理が並の速度に戻ったとしても、同時に【星の記憶(ステラメモリ)】も使用不能になるのだから、なんら問題ないはずなのだ。


 そもそも今は既に【星の記憶(ステラメモリ)】を切っている。

 だから追加で入る情報なんて存在しない。

 するはずがない。





 優人知らない。

星の記憶(ステラメモリ)】は不完全であることを。



 与えられる情報自体に間違いはない。

 優人が理解している【星の記憶(ステラメモリ)】の術式情報にも誤りはない。


 ただ、情報が足りなかったのだ。



星の記憶(ステラメモリ)】は星の全ての情報を術者に与えるわけではない。

 術者が望んだ知識に関連する情報を流すのだ。

 そのため、優人はステータスボードに記載されている以上の術式情報を把握していない。



 ステータスボードに記載されている情報に致命的な不足があるなどとは夢にも思わなかった。

 そんなことがあるはずない、と信じ切っていた。


 故に起こった最悪。



 不完全な【星の記憶(ステラメモリ)】は星から入力された情報を脳に仮留めする。


 一旦入力しておく。

 定着させるのはまた後。


 膨大な情報を一旦保持して、時間をかけて徐々に脳に浸透させる。


 つまり、詠唱を強制解除された時、脳はちょうど、情報を定着させている最中だったのだ。


 しかし、不完全な術式を想定しないステータスボードは、完成形である『入力された情報の即時定着』を記載する。

 そのわずかな差が現状を生み出した。




 解除後、定着できていない情報は脳を離れる。

 定着された1割足らずの情報を残し、ほとんどの知識が忘却される。


 その時に起こった情報の逆流。

 本来、起こるはずがない、情報の突然の離別。

 なんの前触れもない突然の消滅。


 並程度に低下した脳の処理能力はこの情報を処理しきれなかった。


 情報の逆流による痛みと、処理負荷による痛み。

 その二つが同時に優人の脳を締め付ける。


 結果、脳が軋む。


「っぅーーー!!あグッ、グぅ……」


 即座にテスカが前線から帰還。

 僕を守るようにエネルギーシールドを展開する。




 まずは街を……


 気を失えば空に浮かぶ街が落下する。

 そうなれば街の人間に命はない。


 ただ、今術式を発動させてその後戦線復帰できるかどうか……



 テスカ1人にこの軍は荷が重い。

 今は気絶しないことに賭けて、処理に専念した方が……


 ……いや、賭けるのは論外だ。もし万が一落下が始まれば数千人を殺してしまう。



 究極の選択。

 両手に命を吊り下げた究極の天秤。


 選べない選択肢に思考は鈍くなる。


 その間も魔物の群れは容赦なくテスカの結界を削る。

 いくら天獣種であるテスカでも1000を超える敵を抑えるのには無理がある。


 ガラスの砕けるような音と共に何枚もの盾が壊れる。




 マズいっーーー




 奇跡が、起きた。


『補助スキル【脳内処理】を得ました。進化に際し、肉体を再構築いたします』


 失われたはずの【進化】の詠唱効果が発動する。


 同時に肉体が再構築。

 頭痛が治り、情報が処理しきれた、いつもの状態の身体が新たに生まれる。



「すぐに終わらす」


 再び使用不能になる前に。


「【観象 天覧 妖夢の玉殿(たまどの) その王たるは十二の番神】【永遠(とわ)を崇めよ 溯逆(そぎゃく)を拝せよ 不死の(ことわり)(のり)(しめ)せ】」


『詠唱術式の使用禁止』は前の肉体に課された命令。

 今の肉体にその制限はない。


「テスカ!街をありったけの結界で固定しろ!絶対に引き込まれるな!!」


「!?」


 疑問符を浮かべるテスカを目の端で捉えたが、待つ時間はない。

 もう、賭けるしかないんだ!!


「【インタステラ】」


 操作し切れる自信はなかったけど、ここまできたらもうやってやる。

十二善霊宮(アルス・パウリナ)】のような、強力だが殲滅までに時間がかかる技はこの場に不向きと判断した。


 発動直後、周囲の魔物が一点に引きつけられる。


【インタステラ】は星間移動の術式。

 事前に魔力のマークをつけた相手を、同じく魔力でマークをつけた地点へ移動させる。


 マーク方法は対象に触れること。

 その権限は術者とその従魔、眷属に与えられる。


 つまり、先ほどテスカの結界を一度でも攻撃した奴は対象に選べる。




 7割の魔物が引き寄せられる。

【インタステラ】自体に殺傷能力はないが、一点に集めたら、当然魔物同士で押し潰しあう。


 この一撃で7割を葬る。

 そしたら後は詠唱無しでもなんとかなる。



「……つまんねぇな。死んどけよ雑魚」


 知っている声が響く。


 咄嗟に【インタステラ】を継続したまま、そこに向かって空気の剣を飛ばす。


 そこにいたのは、以前ディアーナを訪れた時に会った青年だった。



「間抜けな死に面拝んでやろうと思ったのに死なねえなんてな。シラけたぜ。俺は帰る」


「ふざけんな。返すわけねえだろ」


「お前ごときに俺を止めれるか?」


 そう言って指をパチンと鳴らす。

 刹那、周囲にいた魔物が弾け飛ぶ。


「……お前の従魔か?」


「来たる日、この大陸に災禍を起こす。俺が戦うのはそのときだ。尤も、お前の相手は俺じゃないけどな」


 ……来たる日?



 だったら壊すだけだ。

 尚更ここでお前を殺さないといけない。


「【月蝕(ルナ・エクリプス)】」


 出力が大幅に上がった、星をも滅ぼす腐食毒。

 禍々しい気を放つそれは、瞬く間に周囲一帯を黒で塗りつぶす。


「じゃあな」


 ……っーー届けっ!!


 しかし、男の体はそのドス黒い毒を簡単に避ける。


「カノア。帰るぞ問題ねェよな?」


 突然、虚空に向かって少年はそう言い放った。


「仕方ないですね。手伝いくらいはしてあげましょう」


 すると、ため息の後に、青年の目線の先から声が返ってきた。



「【小宇宙(コスモス)】!」


 ここで殺す。

 あのどこかに消えた魔物の群れごと始末する。





 ここは作られた宇宙の中。

 そこに一枚の灰色の板があった。


 檻のように何かを取り囲む灰色の板があり、中に閉じ込められていたのは先ほどの男だった。


 コツン、と板を叩く。

 途端にカシャンと割れて消える。



 優人は敵にまたしても逃げられたことに、ようやく気がついた。


次話は今回の件の裏話です。

敵陣営の動きについて書きます。

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