3ー69 いずれの伝説
杖を作る時、真っ先に考えるのは、長さだ。
多くの貴族は短い物を使う。
なぜなら貴族は魔法陣を使った魔法を多く使うからだ。
魔法陣には要素を付け加える効果があり、日常的に使う魔法で重宝される。
ただ、魔法陣は魔力を込めた杖で直接描かなければならず、どうしても細かい作業になる。
そうなると長い杖は使いにくい。
椅子に座って机にある何かに魔法陣を刻むならば、杖の長さは20センチあればいい。
出力ーーすなわち術式効果は長い杖に対してどうしても下がってしまうが、どデカい杖で下手くそな魔法陣を描いて、陣そのものに欠陥があっては笑うしかない。
結果、多くの人が短い杖を持つようになった。
現在、大きな杖を持つ人は戦い以外の脳がない脳筋人間か、ごく一部の天才のみとなっている。
杖は刻まれた術式の弊害で互いに反発するため、1人一本しか持てない。
だが、難しいが、2種類の形態への変形を管理できないこともない。
実際、稀に見る天才はそれができる。
それができる天才か、出力頼みの馬鹿だけが長い杖を持つとされている。
「じゃあ長いやつにしようか」
だが、僕はそうしない。
イメージ通りの長い杖を粘土細工の要領で作っていく。
ゴテゴテした装飾はいらない。
持ちやすく、滑りにくく、振り回しても折れず、魔物を撲殺しても曲がらないような杖。
それが杖の正しい使い方かと問われれば否と答えるだろうが、やはり硬さは重要。
まっすぐな柄。
無骨な杖先。
鋭い刃物が光を反射してキラリと光る。
うん、上出来だ。
あとはさらに出力を上げる機能をつける必要がある。
それに必要なのが遥香なのだが……
「そこか」
遥香は純恋の真後ろの席にいた。
まあそんなことだと予想はしていたが、予想に違わず、姉に張り付いていた。
……まだ苦戦中だな。
これも予想通り。
こっちの予定を考えると手伝ってやりたいところだが、生憎教えるのは得意じゃない。
とは言え、要件を勝手に言うのも気が引ける。
……メフィアと純恋をできる限り手伝って、その後遥香を手伝うか?
いかなる時でも最優先は純恋。
次点でメフィア。
その次に遥香をはじめとするいつものメンバー。
とは言え、魔力の込め方は感覚の問題だから、他人に教えるのは困難だ。
だから教室内を周回している先生達も、軽いアドバイス程度に収めている。
それを素人の僕が教えて果たして意味はあるのだろうか。
「………」
……いいや、デザイン考えよ。
僕はデザインを凝る方向への逃げを選んだ。
***
メインの装飾は何にしようか。
杖を召喚する時にイメージが必要になるので、簡単かつカッコいいものがいい。
それから、当然ながら、杖を振るう妨げにならないように派手すぎないものを。
思考の末、たどり着いたのは『ツタ』だった。
雰囲気の良い装飾になると同時に、ツタという道を通すことで、それを魔力の線に見立てて、手掌から供給する魔力を効率よく流すことができる……と思う。
早速ツタのような線を杖に巻きつける。
見た目も考えて、サインポールみたいにぐるりと巻きつける。
……もう完成でいいかな。
遥香の手を借りた最終段階は終わってないが、9割方終わったと言っていいだろう。
「何?」
振り返ると、魔力を込め終わった遥香がこっちを見ていた。
「遥香、終わったんなら手伝ってくれ」
「嫌だけど」
まあここまでは予想済み。
「何欲しい?」
「姉さん」
「あげない」
この展開は知らない。
「何手伝えばいいの?それによって値引きしないこともない」
絶対値引きしないやつじゃん。
「代理祝福?みたいなスキルあったろ?あれで【連鎖魔力】と【創造】貸して欲しい」
「じゃあ大金貨5枚」
つまり5000万円。
「お前もう2度と純恋と2人きりで会えると思うなよ。僕がずっとくっついてるからな」
純恋が困るだろうから冗談で済ますけど。
しかし、遥香にとってそれは冗談にならない。
「いや、ごめん!もっと安くするから!大銀貨一枚でいい!」
つまり10万円。
ぼったくりにも程があると思うが、払えないことはない。
……まあいっか。スキル借りるんだし。
どうせこのお金はグループ内で回る。
関係の浅い奴に渡すわけでもないので許容範囲という答えが浮かぶ。
「いいよ。大銀貨一枚で貸してもらう」
「【代行祝福】」
スキル発動と同時に脳内に無機質な音が響く。
『綾井遥香から【創造】と【連鎖魔力】を貸与されました』
じゃあ完成させよう。
さっき作ったツタの部分に【連鎖魔力】で魔力を流し、その通路を杖の魔石の一部を原料とした【創造】で本物の魔力回路へと昇華させる。
ただの『魔力が流れやすい通路』から『魔力を流すために作られた伝導効率の良い通路』へと変質する。
「うん。完成だ」
この日、いずれEXランクに位置付けされるスタッドの原型が誕生した。
次話は天野竜聖視点のお話です。