3ー68 魔力を込めよう
入学式の翌日から早速授業が始まる。
いずれクラス分けがあるらしいのだが、今のところは全員合同授業だ。
というのも、今日はスタッドというものを入手するらしい。
いわゆる、魔法使いの杖だ。
側近で一年生なのは僕と純恋、メフィア、ミーアだけである。
レインミルとルーナは2年生だそうだ。
そのため今日はこの4人で行動することになる。
今日の授業は入学式を執り行った大講義室で行うことになっている。
理由は言わずもがな、人数が多いからだ。
一年生全員、およそ200人が集まるため、普通の講義室では入りきらないのだ。
そのため今は寮から大講義室に移動中。
「あら?講義室の形が……」
そんな感じで教室に着くと、なんと教室が変形していた。
入学式の時は真正面にステージがあったのだが、そのステージが消えていた。
これも魔法の力だろうか。
適当な席に座って雑談を交わしていると授業になり、先生が入室した。
なんと7人も来た。
「本日は皆様にスタッドを獲得していただきます。では皆様、ご自身で持参された魔石に魔力を込めてください」
拡声の魔術具を通した声が響く。
そして壁で反響して、響く。
とにかくうるさい。
聞こえればそれでいいだろ、とでも言うかのように、爆音で声が反響する。
初回から酷い目にあった。
***
各自で用意した魔石というのは、文字通り入学前に各自で倒した魔物の魔石のことだ。
スタッドというのは魔石を材料に作る杖なのだ。
まず、魔石を学校に提出し、先生がそれに何かの魔法を使う。
そうすると提出した魔石が特殊な魔石になり、それに生徒が魔力を注ぐことで持ち主登録がなされる。
そこからは術者の自由に変形できる。
剣にでも盾にでも槍にでもできる。
質量に限界があるため、イルテンクロムほどの汎用性はないが、所持中のバフ効果と魔法発動効果を加算すると、意外に便利な物が出来上がる。
そんな物を作るために今から魔石に魔力を注ぐ。
ーーところがこれが案外難しい。
思えば魔石に魔力を注いだ経験など、イルテンクロムの例しか思い浮かばない。
周りの生徒も経験は少ないようで、苦戦している。
感覚は掴んでいる。
風呂場の湯船で体を揺らして、大きな波を起こす感覚に近い。
魔力を送るのにリズムは関係ないように思えるが、波を押し出す感覚は近い。
勢いでいけばできそうな気がしないでもないが、一つ、問題がある。
それは僕が扱っている魔石だ。
この魔石、何を隠そうテスカの魔石である。
そう、テスカに尊い犠牲になってもらったのだ。
ーーというのはもちろん冗談で、偶然テスカの牙が生え変わったのだ。
それに魔力を込めて魔石化させ、学園に渡した。
テスカの歯の生え変わりはサメの生え変わりと似ていて、何度でも生え変わる。
しかもわずか3日で生え変わりが完了する。
だが、無理やり抜こうとして抜けるようなものではないので、今回生え変わったのは本当に運が良かった。
今回生え変わったのは一本だけ。
どうしようかと思ったのだが、純恋と遥香が僕が使っていいと言ったので遠慮なくもらった。
純恋と遥香は、アルメフィアのレベルアップ時に倒した幻獣種の亀型魔物の心臓の魔石と、ディアーナの上級の迷宮で倒した幻獣種の鷲型魔物の心臓も魔石を使っている。
アルメフィアは真獣種上位の鳥型魔物の心臓の魔石だ。
スタッドの原料となる魔石の持ち主とスタッド所有者のレベル、もしくは獣種に差があると魔力の反発でスタッドが扱えないことが多々ある。
夜間の力は天獣種近くにのぼるアルメフィアだが、レベル自体は真獣種上位。
本人の言葉もあって、真獣種の魔石に決まった。
因みに、なんで僕が天獣種のテスカの魔石を使えるのかというと、テスカが僕の従魔だからである。
だから、もし純恋や遥香が望んでも、テスカの魔石は僕にしか扱えないというわけだ。
「ん〜むずいな」
正直舐めていた。
まさかこんなところで詰まるとは。
感覚はわかるんだけどなぁ……
なら後は勢いとか?
でも壊したら終わりだし。
ちなみに自分で用意した魔石を壊したら、学園が用意した原獣種の魔石が与えられる。
落差がひどい。
まあそれは置いておいて。
……ん〜、自分の魔力を動かす時は水を意識する。魔力を貯めている心臓が一つだけ高い位置にあって、そこから体全体に水を行き渡らせる感じ。だったら魔力を注ぐ点をテッペンにしてそこから魔石全体に魔力を行き渡らせる感じか?
ふと思いついた。
すぐさま実行。
両手で魔石を包み込むようにして持つと、一点から魔力を注ぐ。
この一点を基点として全体に魔力を流し込む。
じわじわと魔石が染まる。
淡い金色に変化を始める。
およそ1分後。
僕の手の中には完全に染まって一つの魔石が転がっていた。
色は金色。
祝福が絡むと言われているのに光の神を意味する金色に染まったということは、ラツィエルの眷属という立場が関係しているのだろう。
「優人くん出来たんですか?」
「ああ、多分」
先生に見せて、合格と言われたら授業は終わりだ。
「先生、終わりました」
「確認しますから見せてみなさい」
大柄な男性教師の掌に拳大の魔石を見せる。
それを先生がじっと見つめる。
「合格だ。だが、この授業は終わりだが、まだ時間がある。授業が終わるまでスタッドの形を決めて試しに作ってみなさい。決まったら我々に言うように」
途端にどよめきが上がる。
「もう終わったのか!?」
「こっそり練習してたんじゃないのか」
「おかしいだろ!なんなんだアイツは!」
「君は合格が早い。これほど早い例はなかなか無いものだからな、皆驚いているのだ」
なるほど。
まあ、貴族の子なんて大半が自尊心の塊ってフェルテが言ってたからな。
自分より早いやつを認めたくないんだろ。
どうでもいいので席に戻って、杖の形を考え始めた。