3ー66 新たな側近
「側近が決まりましたわっ!」
入学式が終わり、部屋でしばらく雑談をしていたところにアルメフィアからそんな話題が放り込まれる。
どうやら側仕えと文官が決まったらしい。
実際には朝の時点で決まっていたようだが、入学式がまだだったため、僕らに言ってなかったらしい。
側近は学園で決まる。
入学までは各家庭が決めた側仕えを側につけているが、将来のことを考えると同年代の側仕えが必須。
そのため、他国の人間とも交流が図れる学園でほとんどの場合、側仕えは決まる。
ミズガルズ貴族学園は全寮制で、他生徒の普段の様子も観察できるため、上っ面だけ取り繕った人はすぐにバレるのだ。
だから、良い側近選びの場としては最適と言うわけである。
「誰なんだ?」
正直言って、僕は国内の貴族の名前すらも把握できていない。
だから名前を言われたところでどこの誰だか分からないと思うが、話の流れ的に聞いておくのだ。
「側仕えがルーナ・トレス・イシュタリアとミーア・シエ・ユーフォリアです」
フェルテさんの子と……意外だな。
「男爵の子なのか?」
別に身分が低いからダメとか言う決まりはないが、男爵家で王族の側仕えは本当に珍しい。
「男爵の子ではあるのですけど、『呪いの姫君』の蔑称があっと時にも私を嫌わなかった者ですから」
「なるほど。ってことはヴァイスターク王国の人間か」
まあ、この短期間でメフィアが他国の友人を作れるとは思えないから当然か。
「続いて文官ですね!」
男がいますように。
「レインミル・ドイス・レヴィツァーンとヴィユノーク・ドイス・ナスターに決めましたっ!ヴィユノークは殿方ですね」
……知っている。2人とも。なんでだ?
関わりがあった記憶はない。
名前を知っている同世代の貴族など、メフィアを除けばルーナくらいだ。
いつ知ったんだ?貴族の名前一覧を見せてもらったことはあるけど……
そう言えば、ミーアのことも覚えていた。
関わりなんて無いはずなんだけど……。
「どうかしましたか、優人?」
「いや、なんでもない」
「ならいいんですけど。あ、護衛騎士ももう2人くらい増える予定なのでお願いしますね、2人とも。まだ決まってはいませんが」
「わかった」「はい」
そんな時。
「……ん?」
【空間探知】にこちらに近づく何かが映った。
「ああ、来たようですね。新しい側近の皆さんを呼んでいたのですっ!」
「あの、立っていた方がいいですか?」
「そうしてください。護衛騎士が主人と共に座っているというのは職務放棄に取られかねませんから。後ろに立っていてください」
アルメフィアの口調が僅かに変わり、跳ねるような語尾が消えた。
どうやら緊張しているらしい。
まあそれも当然か。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だろ」
「他人事みたいに言う」
「私も今のメフィア様なら大丈夫だと思いますよ」
3人で応援と軽口の応酬。
これで少しは気軽に出迎えればいいのだが。
「いいですよ。もし大丈夫でなかった時は後で問い詰めますからね」
不安は杞憂だったようだ。
元、呪いの姫君は悪戯っぽく微笑んだ。