3ー65 何を成すか
今日の戦いには一つの大きな目的がある。
勝つーーとかいう漠然なものではなく、理由のはっきりとした目的がある。
それこそがアルメフィアの護衛騎士としての立場。
僕はは勇者であるとともに、ヴァイスターク王国の男爵でもある。
よって、男爵が王女の側にいるためには周囲からの評価が絶対条件となる。
そのために僕はこの戦いを利用させてもらうことにした。
ここの勝利をそのまま僕の強さの評価にしてやろう。
そのためにも、僕には必要なものがある。
それは勝利ではない。
僕が求めるのは……
「圧倒的勝利ってやつさ」
***
「貴様ァア!!」
戦いは一方的に進んでいた。
当然、優人有利な方向に。
「辛いだろう。苦しいだろう。レベルでは渡り合えるだけのものがある。それなのにこんな補助スキル一つでわずかな勝機を無にされるってのは」
だからこういうのは嫌いなんだ。
絶対ってのが絡む能力はこういう『魅せ』が必要な時しか基本使わない。
「おかしいだろうがっ!!」
そう、おかしいんだ。
でもそれが魔法だ。
夢とか幻想とかそういうものを詰め込んだものが魔法ならば、スキルは理不尽の押し付け合いだ。
思わずふざけるなと激昂したくなるような圧倒的強さを見せつけて、その力が持つふざけた能力を互いに押し付ける。
それがスキル。
それこそがスキル。
だからこそ!!
「僕はスキルが好きだ!枷なき自由なこの【星】と【進化】が!」
「それは私も……同じことだ!!」
「もう止めようじゃないか。ズルいとか、ズルくないとか。そんな堂々巡りは放り出して、思う存分押し付け合おう」
「なぜだ!私たちは……」
「だって僕らは神に愛された人間なんだから」
被せるように言葉を放つ。
力を持つものとして。
天稟を与えられたものとして。
思う存分、理不尽をぶつけ合おう。
その方法は違えども、互いに奇跡のような選別にしがみつき、理不尽をばら撒くことを許されたんだから。
勇者として、異天児として。
巡り巡って出会った奇跡。
ならばすることは決まっているだろう。
「……悪くないな。その理由は」
そんな呟きが聞こえた。
「思う存分、押し付け合おう!理不尽を!!」
「吹き飛べ勇者!!」
あらゆる障害を何も言わせず押し除ける【スラッガー】。
圧倒的火力の暴力である【星】。
互いに、相手にとって不足はない。
***
「フッ、クッ……フハハッ……私の負けだ」
もう何もいうまい。
そう言って対戦相手の男は膝をついた。
満足。
もう十分だ。
優人も、その相手の男も、もう楽しんだ。
楽しんで、楽しんで、その果てに雌雄が決した。
なら結果に文句はない。
互いに本気。
一瞬の油断が命取りとなるその真剣勝負に文句などあるはずがない。
「判定の前に、少し話せるか?」
「なんでしょうか?」
自分を負かした優人に対話を持ちかけてきたことに少なからず驚いた。
「貴様は何がしたい?その強大な力を持って何を成したい?」
「それは…………」
『理不尽を無くす』とは言えなかった。
国、そして大陸を知った今、この願いがどれだけ無謀なことかよく分かる。
「私は何も浮かばない。ただ力を振るうことしかできない縛られた鳥だ。貴様は……何を見ている。どんな夢を見るんだ」
異天児は強く、そして不自由だ。
生まれの身分がどうであれ、必ず国に縛られる。
彼にはどうか、自由な強者として君臨してほしい。
何かを為せと言うのではない。
どこまでも羽ばたける強い何かを持ってほしい。
そして、大切な者を失ってほしくない。
家族から尊敬を受け取り、愛情を受け取れなかった自分のようにはなってほしくない。
自分の枷を外してくれた者への小さな感謝の表れだ。
男は優人にそんな考えを抱いた。
「貴様は強い。だが、同時に弱い」
「目的が無いからってことか?」
「いや、そうではない。貴様は夢がありすぎる」
「有りすぎる?」
寝転んだ姿勢のまま、男はフッと笑った。
僕の問いには答えない。
自分で考えろということだろう。
「貴様は強い。それは認めよう。仮にあのヴァガネなんたらが無くとも私は負けただろう」
まあ、勝てただろうな。
本気は出したが、まだまだ限界は程遠い。
その思考に異を唱えるかのように、男は言葉を続けた。
「私はまだ弱い。だが貴様に一つ、言うことがある」
重傷をそのままに、力強い言葉が耳に届いた。
「止まるな。恐れるな。もし間違おうが、貴様はこの道を進み続けろ。違えることは許さぬ」
「それはどういう……」
「弱者の戯言だ。だが、忘れるな。オマエは強く、そして脆い」
「そう、か……」
理解はできない。
でも、大切なことだと直感的に分かった。
グッと首をわずかに上げると、審判に声をかけた。
「審判、私の負けだ。結果を言え」
それはそうだ。
さっさとしないとこの男が死ぬ。
僕の能力に都合よく他人を癒す能力はない。
「勝者、梶原優人!」
それと同時に再び控えめな拍手が上がり、僕は退場する。
あとは学校に任せよう。
多分なんとかなるだろう。
そして、待機の部屋に入る直前、運ばれている男に向かって声をかけた。
「先輩、お名前は……」
「ネビュラだ。ネビュラ・トレス・アースノイト」