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星使いの勇者  作者: 星宮 燦
第三章 星と悪童
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3ー63 理不尽な要求

「おめでとうございます!メフィアさん」


 控え室に戻ったアルメフィアに真っ先に駆け寄ったのは純恋だった。



 実際のところ、アルメフィアのレベルアップ計画で最も頑張ったのが純恋だ。

 得意でもないのにあだ名呼びを発案したり、感性こもった会話が下手な僕とアルメフィアの緩衝材になったり、戦闘面でのアドバイスをして仲を深めたり。

 いろんな面で大きなサポートをしてくれた。


 それだけ頑張ったんだから、アルメフィアが勝った時の喜びもひとしおだろう。

 抱き付かんばかりにベタ褒めしていた。


 なかなか見ない珍しい姿を見れたアルメフィアに少しだけ感謝した。



「優人も褒めてくださいねっ!」


 ひとしきり純恋と(じゃ)れあったあと思い出したかのように僕にもせがんできた。


 チラリと純恋の方に視線を向ける。


 苦笑を浮かべて頷く純恋。


「おめでとうございます」


 そう一言だけ言って頭の方に手を伸ばす。

 アルメフィアは僕の手を握って動かすと、頭をぐりぐりとおしつけた。

 どうやらこうされるのが嬉しいらしい。


 他の人の目があるときはできないから、だそうだ。



「優人も頑張ってくださいね。(あるじ)としては貴方に負けてもらわれると困りますからっ」


「大丈夫ですよ。勝ってきます」


「勝ったら何か買ってあげましょう。褒めて甘やかすのは純恋の仕事ですから」


 よく分かっていらっしゃる。




 ***




 試合は続く。

 次の試合のエニアドは棄権した。


 なんでも、ほぼ即死の技らしい。

 耐性と運次第で何とかなるらしいが、かなりの確率で即死。


 だから棄権するらしい。


 棄権の理由的に、上級生が技を食らうことが前提となっていて、エニアド側が一歩引いた形になったが、そうは言っても試すことはできない。

 たかが交流試合で国から預かった異天児を失うわけにはいかないのだ。

 学園は棄権を認めた。


 次のオルガ。

 敗北。


 どの試合よりも相性最悪だったのもあるが、少しその戦いに疑問を抱いた。


 ……スキル……使ったか?


 彼女のスキルが司るものは完璧な循環と円環。

 しかしその戦いは魔力操作による身体強化を用いた戦闘だった。


 おそらく僕よりも正確な魔力操作と強化率に加え、敵の思考全てが見えているかのような鮮やかな試合展開を見せ、観客を沸かせていたが、そのスタイルはスキルではなく魔法のものだった。

 秘密……ねえ。

 スキルを使う義務はない。

 純恋だってスキルは使っていない。


 だけどさ、秘密はどうしても気になるじゃないか。


 押すなと書かれたボタンを押したくなったり、泳ぐなと書かれた川で泳ぎたくなったり、入るなと書かれた工事現場に入りたくなったり。


 やっぱり知りたいな。


 これは僕の持論だけどさ、秘密は暴くためにあるものなのさ。




 ***




 そして次が僕。



 なのだがーー


「次の対戦者は梶原優人様。ですが、どうやら最強を自負しているようですので最後にまわし、先に残りの九重様と小見山様を先に終わらせます」


 会場から歓声が上がる。


 あの司会、余計なことしやがったな。


 今期の勇者最強を名乗った覚えはあるが、世界最強を名乗った覚えはない。

 あの言い方では僕が世界最強を謳っているように聞こえるではないか。


 まじでふざけんな。

 これで負けたらキスなしになるんだからな。




 ***




「また後でな」


 そう言って蒼弥は観衆の前に進み出た。

 会場は『負けろ』と『雑魚勇者』の罵声の嵐。


 どう考えても自分が原因である。

 9割司会が悪いが、何だか申し訳なくなってくる。



 でもまあ……


「……大丈夫だろ」


 だってアイツの力はーー







 鐘の爆音と共に敵の男が駆け出す。


「【身体超強化】ァア!」



 男のスキルは【身体強化】。

 単純明快、身体能力を向上させる。


「落ちろ」


 例えそこに加重のデバフが掛かろうとも、それを弾いて余りある圧倒的高純度なバフ。

 それが男の能力だった。



 単純明快、故に厄介。


 デバフは無駄。

 燃やしても余裕で耐える。

 氷漬けにしても砕いて進む。

 窒息させようにも呼吸は数時間は不必要。


 金剛石をデコピンで砕く超強化である。


 どんな小手先の技も、圧倒的ステータス上昇の前には無力だった。


「おいおい俺が可愛がってやるからこっちに来いよォ。逃げてばっかじゃつまんねぇぞォ?」


 搦手を基本とする【堕天】が最高に相性の悪い能力である。


「【斯くて楼は終わりを告げ】」



 しかし。


「【(くろ)(かむり)(ふち)へと沈む】」


「待てっ!!何をっ!」



 学園は、上級生は知らない。



「【天上天下に相違なく】」


 九重蒼弥がスキルの詠唱が出来るということを。


「ハァアアアアアアアアっっ!!」


 男が駆け出す。

 何が起こるかは知らなくても、危険だということは分かったらしい。


 拳を大きく振りかぶり、殺さんとばかりにそれを振り抜く。


「【夢の(うつつ)現世(うつしよ)に】」


 しかし、それが当たる前に詠唱は終わる。



 蒼弥は至近距離に迫った拳を簡単に避けると、後ろに大きく跳んで距離をとる。


 それを追いかける上級生の男。


「落ちろ」


 しかし、詠唱術式の発動を許してしまう。


「っう……!何だこれはァ!」


 途端に動きが鈍る男。

 その元凶は分かりきっている。

 だが原因が分からない。


 スキルは解けてない。

 それなのにこの超減衰。


 明らかにデバフの域を超えている。



「何したんだテメェ……」


「詠唱による効果だ」


「だからそれが何か聞いてんだよォっ!」


「ステータスの数値を落とした。それから【身体超強化】の出力も落とした。速度も力も、知能も、防御力も、体力も。今のお前は俺と同じかそれ以下だ」



 使用上、自分以下には低下させられない。

 しかし、一つでも相手より秀でた部分があれば、そこは残る。

 つまり、ステータス上で蒼弥に勝つことは不可能なのだ。


 それだけではない。


 自分以下にはできない。

 ただしそれは術者自身が持つモノに限った話。


 つまり。


 蒼弥の持っていない【身体超強化】は際限なく下げられるのである。



 理不尽も理不尽。


 どれだけ努力を重ねても、『落ちろ』の一言で努力は霧散する。


 自分がこの程度なんだから、お前も俺に合わせろよ。


 そう言って相手を否定する。

 努力?才能?運?奇跡?


 古来の力を取り戻した【堕天】はそれら全てを嘲笑う。



 お前の事情なんか知ったことか、と。

 お前は必ず俺以下なんだ、と。


 理不尽な要求を罷り通す。



 その上で。



「ぐうっゥーー!」


「単純に落とす力も使えるぞ」


 加重効果がのしかかる。

 バフがあった時はいざ知らず、ひ弱な今は重すぎる。



「体力はもっと下げようか」


 か弱い男に悪魔の笑みを向ける悪魔、九重蒼弥。

 自分のステータスも下がることを承知でさらに体力を下げにかかる。





 ところで、バフ効果を持つ【身体超強化】が限界以上に落とされたらどうなるのだろうか。

 九重蒼弥は危険な疑問を浮かべた。


「試してみるか」


 自分は困らないからお試し使用。

 気軽に使える相手がいるというのは素晴らしい。



 限界を超えてバフは落ちる。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()



 もはや男は指一本動かせない。


 対重力系攻撃に不親切な硬い床はめり込むことすら許さず、男を床と圧力で押しつぶす。





 詠唱終了から僅か10秒。


「降参だ!俺の負けだ!」


 男は白旗を高々と掲げた。





「ごめん。俺、これ魔力切れまで終われないんだ」


 低下した力を取り戻した後も、対戦相手の男は悪魔の手を逃れられなかった。


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