3ー62 太陽と霊獣
「……ちょっと舐めてたな」
ヴァイスターク王国に割り振られた円形闘技場の観覧席で小さく呟いた。
「何がですか?」
「いえ、正直もっと敵は弱いと思ってました」
大量の氷塊を囮にした最後の攻防は見事だった。
僕も多分、騙された。
まあ、騙されてリカバリーできるだろうけど。
それは置いておいて、騙されたのは騙されただろう。
大量のハンデをつけるものだから無意識に敵を弱く見すぎていたらしい。
2回戦目で戦う遥香を眼下にそう思った。
今戦っている敵も動きは悪くない。
杖のバフのおかげで有利になっているようにも見えるが、決して素の力が劣っているわけではない。
遥香の戦闘スタイルは雷魔法を用いた高速移動を交えた速度のある戦闘だ。
通り過ぎた時に雷剣で切りつけてダメージを与える。
雷剣には術式阻害の効果があるため、大魔術の行使を邪魔しつつ消耗させる戦法だ。
名付けて『通り魔戦法』。
すれ違いざまに切り裂く通り魔戦法である。
悪辣極まりない。
さらに、雷剣には攻撃のたびに攻撃力が上昇する力もあるため、尚更タチが悪い。
しかし、そんな遥香と対峙するのは速度特化のデバフ使い。
強みである速度を潰され、一方的にやられている。
相性が悪いのもあるが、剣を避け方、それから足運びが滑らかだった。
「遥香も負けかな」
「そのようですね。では、わたくしはそろそろ準備のため下に降ります」
「だったら私がついていきます」
「僕もついていきます。どうせ後3試合で僕の番なので」
それに弱い今のアルメフィアを1人にしたくない。
移動中に危険がないとも限らない。
3人で移動を開始した。
***
一階に移動した頃、遥香の試合が終わっていた。
勝ったのはなんと遥香。
何が決定打だったのかは知らないが、案外遥香は舞台上でピンピンしていた。
……何か隠し球でもあったのか?
まあいいや、重要なのはアルメフィアの試合だ。
呪いの姫君の二つ名が広まっているということは、アルメフィアの弱点も露見している可能性が高い。
というか、露見していると見るべきだろう。
弱点はと太陽。
今は真昼。
狙ったかのように太陽は真上から闘技場に照りつけていた。
「じゃあ行ってきます!勝ったら褒めてくださいね」
「分かりました。訓練の成果を存分に発揮してください」
案外晴れやかな顔でアルメフィアは出て行った。
「……メフィアさんは私が褒めます」
「いいけど……だったら僕が勝っても純恋褒めてよ?」
「キスがいいですか?今してもいいんですよ?」
小悪魔のような表情を浮かべる純恋。
その愛らしい少女の頭に手を乗せて、
「……ご褒美にとっとく」
未練がましくそう返した。
***
「【煌落天】」
対戦相手の男はそう言った。
【煌落天】。
その能力は太陽にまつわる事象の操作。
勇者安田佳穂と同様のスキルであり、広範囲の殲滅戦を有利とするスキルだ。
しかし、今回のポイントは『太陽にまつわる』という点。
アルメフィアにとってこれ以上ない最悪の相性である。
ーーしかし。
「【黒喰】」
刹那、男の腕が消えた。
「ーーは?ギャァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」
続いて響き渡る悲鳴。
どんなスキルが来るかは分からなかった。
だが、アルメフィアは戦闘スタイルを事前に決めていた。
それは超短期決戦。
一撃も受けることなく絶え間ない攻撃で気絶まで追い込む。
しかし、上空には既に二つの太陽。
いたぶるつもりだったのか直接的な攻撃ではなく、デバフの攻撃だ。
直接的な攻撃ではないため発動が早く、発動を許してしまった。
だが。
「【黒喰】【永燈】」
既に男の両腕は奪った。
あとは殴るだけ。
降参か気絶まで殴り続ける。
「【蝕闢】」
毒の付与を行う。
あたりに不気味な煙が立ち込め、男が鋭い悲鳴を上げる。
殴る、殴る、殴る。
どれだけ悲鳴を上げてもやめない。
「降参してください貴方では勝てません」
「ふ、ざけるなぁぁああああああ!!!」
太陽が落下を始める。
発動者にバフを、敵にデバフを与える技のため速度はないが、アルメフィアにとっては近づくだけで致命傷。
彼女には時間という名の敵がいた。
「【黒喰】っ!」
再び男の腹を不可視の顎門が襲う。
やがて。
「気絶が確認されたため、交流試合3回戦目を終了します」
僅かに上擦った司会の声が闘技場に響き渡った。
【煌落天】は安田佳穂と同じ能力です。