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星使いの勇者  作者: 星宮 燦
第三章 星と悪童
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3ー61 第一回戦

 純恋の能力である【浄化】は補助系の能力だ。

 自身に状態異常完全無効があるため、純恋自身に浄化は必要ない。

【浄化】は味方がいることを前提とした力なのである。


 それなのに個人戦。


 浄化の本領が発揮できないこの場で純恋はスキルを完全に奥にしまった。

 相性が悪いというのがどの程度で、相手の能力がわからない以上、無闇に傷を治すことも危険だと考えたのだ。


 純恋が使っているのは水操作の補助スキル。

 水を固めて不形態の武器を使って戦っている。


 見た感じ、上手い。

 互いにスキルを使わない状態で戦っているが、今のところ純恋が押している。


 形を変える武具で傷をつけつつ、杖から魔法が放たれる前に水で作られた縄や針の連射で妨害して一方的に攻撃している。

 迷宮で何度も見た戦い方だった。




 その流れが変わったのは敵の女がスキルを使った瞬間。


 パキリ、と水が凍てつく。


 急いで凝った部分の水を切り離すが、どこまでも氷は追いかけてくる。


「【インフェルノ】っ!!」


 埒が開かないと考えた純恋の掌から紅蓮のレーザー砲。


 照射された部分が溶けて液体に戻る。

 しかし、炎によって視界が狭まった瞬間、女はすでに動いていた。


「縛れ」


 氷が蠢く。


 地面をつたって足を縛る。

 その後上から氷柱の雨。


「盾っ!」


 水の盾が展開され、殺意のこもった一撃を受け止める。

 が、氷柱を包容した盾は凍りつき、純恋の管理を外れて落下を始める。


 逃げようにも足が縛られて動けない。



「もうあの火は撃てないわ!!あなたの体も燃えるわよ!」


 勝ち誇った声が響き渡った。






<綾井純恋視点>



 押しつぶされる前、優人くんに言われた言葉が脳裏に甦った。


『勝とう。ハンデはアリの上級生に勝とう。勝って奴らを見返そう』


 優人くんは私なら勝てると言ってくれました。

 だったら応えるしかないでしょう。


 私は左手の中で圧縮していた力を解放する。


「【インフェルノ】!」


 小さな火球が地面へと飛ぶ。

 そしてそれが床に触れる。


 刹那、爆音と共に闘技場が炎と煙に包まれた。




「っ〜!」


 近すぎた。

 私も、相手の人も。


 爆心地から近すぎたせいで全身が痛い。


 水で衝撃を緩和したことで致命傷は抑えましたし、服が破れるという非常事態も防ぎましたが、それでも痛いっ!


 相手のスキルが氷の操作という水対応のスキルと分かった以上【浄化】を封じる意味はありません。

 即座に解放して衝撃による痛みを緩和します。


「では次です」


 土埃の中からいつまで立っても敵が現れない状況に対して、純恋は警戒しながらも闘技場を水で満たす。

 自分の足を水で固定することで水面に立ち、波の振動から敵を探る。

 メフィアさんとの訓練中に身につけた技術です。



「……いない!?」


 まさかーー殺してしまった!?


 そんなはずはっ!


 ……あり得ないことではないです。


 私は衝撃が来ることがわかっていたので対応も容易でしたが、相手の人はそうもいきません。


 絶望的な状況に悲鳴をあげそうになりながらもふと上を見る。




 そこには巨大な凍星。

 それが数十個純恋の元へ殺到してきていた。


「【インフェルノ】!」


 本当は水の槍で迎撃するところ。


 ですが、水を使っても氷に吸収されてしまいます。

 そのため【インフェルノ】に頼らざるを得ません。


 そして放った赫い光が氷塊にぶつかる。



 その瞬間、全ての氷塊がバラバラに砕けた。


「ーーぇ?」


 空を埋め尽くす無数の氷塊。

 咄嗟に小さくなった氷にレーザーを放つ。


 しかし、砕けない。


 ーーまずい。



【インフェルノ】は出力が上がり続けるレーザー砲。

 その特異な性質によって、オリジナルに劣る補助スキルであるにも関わらず、スキルと遜色ない出力を行使できている。


 しかし反面。

 スキルと同一の特性を持った代償として捧げたのは出力上昇のスピード。


 1秒足らずで不可壊を破壊する超出力を見せたオリジナルと異なり、このレプリカは5倍近くの時間を要する。



 空一面に広がった氷を破壊するにはそれなりの時間を要した。




 即座に込める魔力を増やして出力を上げる。

 しかしおよそ3秒かかる。


 降り注ぐ塊は100近く。

 避けられるものを除いても10は壊さないといけない。


 それなのに距離は10メートルもない。


 ーー早く……!



 もう一つ壊れる。

 続いてもう一つ。


 下に広がる水を消して落下することで距離を取り、時間を稼ぎつつ破壊を続ける。


 もう一つ、さらに一つ。

 そして5つ目が壊れる。


 水はもういいです。

 全部、【インフェルノ】に全てを賭けます!



 残り10メートル。


 二つ破壊。


 残り6メートル。


 残り二つ。


 残り3メートル。


 後一つ。



「もう少しでーー」



「もう終わり」


 首筋に冷気を放つ鋭い何かが添えられていた。


「ーーいつ……!」


「私は初めから下にいましたけど?氷の中で息を潜めていましたの」


 ーーだから振動がなかったんですね。



 ようやく合点がいきました。


 たとえ死体があったとしても、振動は伝わります。

 それなのに何も反応がなかったので場外に出たのかとも考えていましたが、上ではなく下で氷の中で待機ですか。


 先に水で軽く埃を払えば分かっていたかもしれませんね。



「私の負けです」


 純恋の宣言によって、一試合目が終了した。

競技場は壊れていません。

特別硬い素材に防護魔法を何枚も重ねているので。

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