3ー60 交流試合という名のストレス発散場
「それでは新入生交流会を始めます!」
学園長の長くて何のためにもならない話がようやく終わり、バレないように小さく伸びをした時、拡声の魔術具からそんな放送は聞こえた。
途端に陰惨な雰囲気の漂っていた講堂内が歓声に沸き、拍手が起こる。
司会の男は歓声を無視して仕事を推し進める。
「新入生交流会とは、学年の隔たりをなくすことと、目指すべき上級生の姿を知るために行われる、上級生との交流試合です!選手はすでに決定しています。名を表示された者は半の鐘の後、闘技場へ集まりなさい」
……これは、あれだな。上級生の尊厳を守って下級生をボコすストレス発散の儀式だな。
証拠を出せと言われても何も出せないが、こういう流れは知っている。
ラノベで読んだ。
そんなことを考えているうちに正面のスクリーンのような物に表が映し出される。
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綾井純恋
綾井 遥香
アルメフィア・ユノ・ヴァイスターク
オルガ・テトラ・ノエイデン
エニアド・リィ・オルトクラフ
梶原 優人
九重 蒼弥
小見山 紗夜
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「普通に考えたら実技上位者って感じですけど……」
「わたくしを入れたということは裏がありますね」
「メフィア様を陥れるためにわざと真っ昼間の試合に出させるってことですか?」
「メフィア様に参加の拒否権は無い。呪いの姫君の名を広めたいバカが学校側にいるんだろ」
「それならばわたくしはその計略を正面から叩き潰しますわっ!」
本日も元気一杯のアルメフィアである。
すでに狂戦士2人に育てられた影響が出始めていた。
***
一旦部屋にかえって戦闘服に着替える。
先日まで忘れていたのだが、いつ貰ったのかも覚えていない魔法使いの衣装らしき物が亜空間の中にあった。
鑑定してみると、何と見た目が自由に変更できて、防御魔法が施された魔法も衣装だった。
なぜ今の今まで忘れていたのかは知らないが、考えても覚えてないものは仕方ない。
さっさと衣装に袖を通した。
見た目は白基調の金色の装飾入りにした。
いつも着ている黒基調に青装飾の色違いバージョンだ。
黒でもよかったのだが、入学式の日ということで白にした。
イルテンクロムで服で隠れない腕や、足の部分を補強する。
最近敵が強い奴ばかりで壊されてばかりだが、これでも硬めの金属なのだ。
纏っただけでも、ただの鉄剣は跳ね返す。
アルメフィアの着替えが終わりそうな頃を見計らって彼女の部屋へ向かう。
ノックすると中から側仕えの人が扉を開け、ソファーに座っている主人の姿が視界に入った。
先ほどまで着ていた薄い黄色のドレスは片付けられ、今は白のセンタープレスパンツにブレザーという男性のような服装をしていた。
迷宮でよく見かけた服だ。
「メフィア様、いくら強くなったとは言え、今の時間戦えば確実に倒れます。倒れないためには固定砲台の要領で動かずに戦うしかありません」
「大丈夫ですよっ!わたくしを信じてください。これでも普段から運動しているのでっ」
藍色の流れるような長髪をわざとらしくかき上げてそうはっきりと言う。
「……」
不安が残るがそう言われれば反論できない。
現に、アルメフィアは強くなった。
それも段違いに。
だから。
「じゃあ僕は雨乞いでもしておきますよ」
そう言って微笑を浮かべた。
やがて純恋も到着して同じように3人で移動する。
ジロジロと見るやつは何人もいたが、話しかけてくる者はいなかった。
***
闘技場で16人が向かい合う。
交流試合は個人戦と団体戦。
個人戦も団体戦も降参したか、気絶した相手を攻撃するのは禁止で、殺すのもアウト。
このルールでスタートした。
初戦は純恋とオレンジ髪の女子生徒。
なのだが。
この試合には上級生有利のルールがいくつか存在する。
まずは、杖以外の武器の使用禁止。
【十字衝】のような能力で生み出された武器は除外されるのだが、問題はそこではない。
『杖』とはこの学園で入手するスタッドという名の魔法杖のことを指すのだ。
そしてそれを得られるのは初日の授業である。
つまり、まだ新入生は杖を持っていないのだ。
それだけならばいい。
スキルを持つ者同士が戦うこの場では魔法の発動に必須な杖はほとんど使われない。
だがこの杖はバフ効果があるのだ。
『所持者のステータス上昇』が組み込まれているのだ。
そしてそれは手の中になくても所持しているだけで発動する。
しかも奪っても使えない使用。
スキル持ち同士の戦いにバフが加わる。
それはとてつもないハンデだった。
さらに、上級生は新入生のスキルを把握している。
詳細なことは知らないが、その系統やそのスキルを使った戦闘スタイルなど、多くの情報を手にしてるらしい。
まだまだハンデは終わらない。
対戦相手は上級生が指導したいと思った相手と当たるのだ。
普通は問題ない。
なんせ、興味をもった相手と戦うだけなんだから。
なのだが、当然指導やら何やらというのは建前。
相手のスキルの情報を持った状態でその仕組みが導入されるとどうなるか。
必ず下級生は相性が悪い相手と対戦することになるのである。
対する僕らは何もなし。
この試合のどこから上級生の素晴らしさを見出せと言うのか。
浅ましさが露見するだけに思えるのだが。
「では第一回戦ーー」
ゴガァアアンという爆音が場内に響く。
「始めっ!!」
交流試合の火蓋が切られた。