3ー52 会議の行方と帰国
ブラスフェミー?え?誰?……ってね。現在第三章最後を書いている作者、投稿前の確認で読み直してびっくりですよ。知らない人の名前がいくつもあるんですから。自分が作った名前のくせに、今後出す気も出番を作る気もさらさらなかったんで、お前誰だよ!?って人がいっぱいいました。九王会議で出てきたヴァイスターク以外の人は多分もう登場しません。しっかりそれっぽい名前のくせしてモブキャラです。
六日間ダラダラと無駄な議論を交わした会議がようやく終わった。
議題が勇者という超戦力に関する話だったせいか、どの国も熱が籠っていた。
戦争前に私が帝国討伐を立案した時はルーンゼイト神聖国以外は誰も発言しなかったくせに、その報酬とも言える勇者の確保となると戦争時の態度は棚に上げて皆積極的に自分の権利を主張した。
協力具合を考えれば勇者は我が国とルーンゼイトに半分ずつ分けられるのだが、当然他の国はいい顔をしない。
二国の力が大きく跳ね上がるのは目に見えているからだ。
会議で挙げられた勇者の各国分配の理由はいくつかある。
まず、新たな戦争の危険性。
数百年前にルーンゼイトが呼んだ呪いの勇者、中山善。
彼を例に出して、ルーンゼイトが再び堕ちた勇者を生み出す危険性があることを提示した。
あの勇者を召喚した者は当然既に死んでいるし、勇者全員が危険思想を持っているわけでもない。
それに、彼が忌み嫌われたのは彼のスキルが【呪】で、国の旗とも言える勇者が持つスキルとして相応しくなく、【呪】を生み出したということで神聖国と名乗るルーンゼイトの沽券が傷ついたということから始まった騒動だ。
今回の勇者でそれに該当するものはいない。
故に論点にはなり得ぬのだがーー
「危険性の芽は摘んでおくべきだ」
そういってさも世界のためのような言い方で自分の権利を押し通す輩がいる。
本来なら通らない案だが、反対するのは二国のみ。
しかも、建前上は十分な理由が揃ってしまっている。
賛成多数で可決してしまった。
ただ、その案ではルーンゼイトに割り振られるはずだった勇者が減るだけで我が国が保有するエルリア王国勇者はそのままということになる。
当然、彼らはそれを許さない。
戦争時にもし我々が勇者を使った場合、数が均等でなければ対処できないことや、召喚国が既に滅んでいるのだからその権益は等しく分配されるべきということをいけしゃあしゃあと口にする。
自分だけが権利を減らされた状態のルーンゼイトもこれに加わった。
混沌、渾沌、無秩序。
本当にやめてくれ。
しかし私は当然、この状況になることを予測済みだ。
故に事前に対策をいくつか施した。
まず勇者全員に名誉男爵の位を与えた。
これにより正式にあの勇者たちはヴァイスターク国民に認定された。
彼らが正式な国民となった以上、取り返すのは容易ではない……とは言い切れないが、かなり手間がかかる。
何故なら私が全力で邪魔するからな。
出来得る限り、嫌がらせという名の遅延を繰り返して対抗する所存。
最低でも5年は先延ばしにして見せよう。
そして、これは準備でも何でもないが、過去に我が国が召喚した勇者に問題を起こした奴はいない。
そして我が国以外の国には少なくとも1人、大小の差はあれども問題を起こした奴がいる。
だからルーンゼイトと同じ戦法が使えない。
むしろ、その理論を押し通すとヴァイスターク王国こそ勇者を任せるのに相応しい国となってしまう。
召喚回数が少なく、勇者の扱いに不安があるという案も出たが、その理論だと主催者のラフィカノー公国と最大勢力を誇るというレディプティオ帝国が同数のため、彼らも勇者保有の権利が小さくなり、強国三国の反対により3対4にも関わらず棄却された。
私も含め、どこもかしこも自国ばかり。
毎度のことだがウンザリする。
結果を話そう。
単刀直入に言うと、元エルリア王国勇者は全てヴァイスターク王国所属となった。
奴らも反論するための理由が見つからず、渋々でも認めざるを得なかった。
ただし。
勇者はヴァイスターク王国所属であるとともに冒険者で、国に縛り付けることを禁止することとなった。
こうすることで勇者が他国へ流れる可能性ができ、もしかしたらがあり得るようになる。
そして、彼らの子の国籍はヴァイスターク王国と決定せず、彼らの意思に任せるということ。
これは負け惜しみに近い。
勇者同士の子は異天児になりやすい傾向があるからという理由でできた制約だが、親である勇者が自分と子の国籍を自分と違う国にするとは思えない。
あってないような制約だけど、ないよりマシというようなものだ。
国籍を変えるように命令したくても、勇者が強いため命令できない。
圧倒的な力の前には言葉など無力なのだ。
***
「お帰りなさいませ、アルトムート様」
ヴァイスターク王国に当てがわれた屋敷に戻ると屋敷を任せていた側仕えが出てきて挨拶と報告を始める。
「先ほど本国から紋章付き馬車が届きました。レイラは既に出発準備を終えて待機中です。出発は何時になさいますか?」
予想よりも早かったな。
身体強化魔法を使っているとはいえあと1日はかかると思っていた。
人が乗っていない分の差だろうか。
「すぐに出発させろ。会議も今日で終わりだ。私もすぐに国に戻るからな」
今夜と明日の夜に七国でパーティーがあり、明後日帰国する。
帰国は一瞬だから、私の方がどう考えても早いだろう。
「ヴァイス、お前はレイラに付き従って護衛せよ。私は問題ない」
移動に星の間での迷子以外の危険がない私と違い、紋章付きの馬車が護衛なしで動くと盗賊に狙われやすい。
騎士団長であり、元孤児のヴァイスならばレイラの護衛でも快く受け入れてくれるだろう。
「アルトムート様、騎士団長たる私が貴方様のそばを離れるわけには……」
しかし、レイラの護衛以前にヴァイスは自分を拾ってくれたアルトムートに心酔する忠臣。
例え主の命だとしても簡単に受け入れることはできなかった。
だが。
「ヴァイス」
「……かしこまりました」
それでも命令は命令。
無視はできない。
それに、彼にはアルトムートの素晴らしさは自分が一番分かっているという自負がある。
『ならば私が信じなくてどうするんだ』
そういう思考回路を経て。
騎士団長であり異天児のヴァイスは命令を受け入れた。
***
二日後。
私は帰ってきた。
私の帰国から六日後。
レイラが無事に着いた。
一度盗賊団が襲ってきたようだが心配はしない。
何故なら信頼するヴァイスがレイラのそばにいたから。
案の定、1人で全員を相手にして傷一つ負うことなく仕留めていた。
「こちらを」
そう言ってレイラの世話を務めていたアウレシアの側仕えが差し出したのは国民登録の紙。
既に必要事項は書き込まれていて、私の庇護下に入って教育を施し、学園卒業後は貴族として国に尽くすことが書かれている。
『国に養われ、その代わりにミズガルズ貴族学園卒業後は国に尽くす』
それが王の庇護下に入った異天児の制約だ。
レイラにも同じようにしてもらう。
「レイラ、其方を学園に入れるのは来年だ。それまでにこの国で多くを学び、成長するように」
レイラが頷いたのを見て私は立ち上がる。
そして横で待機している彼らに声をかけた。
「よくぞ戻った。ロキエラ、そして勇者たち」
ディアーナの冒険、もう終わってます。
1週間で終わりました。
次話からは優人視点に戻ります。