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星使いの勇者  作者: 星宮 燦
第三章 星と悪童
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3ー50 紋章付きの意味

「クロウ、この娘の世話を頼む」


 屋敷に戻ると早々に子供の世話を側近に丸投げする。


 この(たぐい)の無茶振りには慣れているはずの側近のクロウだが、流石の彼も今日の振りには目を剥いた。


「お、お待ちください!アルトムート様の事ですから何かお考えがあるのはお察しします。ですが、私は男です。貴族の娘ではないにしろ、私が世話をするのは些か無理があると思われます。許可をとって星の間の道を開けていただき、国から女性側仕えを連れて来ましょう!」


 しかし、彼が諌めたのは主人が見ず知らずの少女を連れて帰ったことではなく、その世話についてだった。

 クロウは無意識に、王が平民の子を屋敷に連れて帰ってくることが異常事態であるということを脳の情報から削除してしまっていた。


 こうでなければアルトムートのようなぶっ飛んだ主人(あるじ)の世話など出来ないのだ。



「一理あるな」


 アルトムートはそう言うが、普通は一理どころかそうするべきである。


「ではアウレシアにこちらに側仕えを貸すように頼んでくれ。ああ、側仕え本人は星の間経由で来るように。それとは別に紋章付き馬車も用意してこちらに寄越すように伝えてくれ」


 アルトムートの妻、アウレシアはアザレア王国出身で、数少ない、アルトムートの意味不明な行動の理解者である。

 ちなみに彼女は夫のスキルを知らない。

 妻のことは信頼しているが、アザレアから連れてきた彼女の側近が本国に情報を流す可能性があったからだ。


 そんなことは別にいい。


 重要なのはレイラを無事に本国へ連れて帰ること。


 どの国の国境にも探知の結界があるため、転移するとすぐにバレる。

 連れ帰った後にバレることはいいのだが、転移魔術はルールが多い。


 発動上でのルールではなく、人間が決めた発動時のルールだ。

 この場合、国際上の取り決めとして、上位の者の許可なく国境を跨いだ転移が禁止されていることが当てはまる。


 私は王国の王で、ここは公国で、君主は公爵だ。

 だから規則を言葉通りに解釈すると私の意見が優先される。


 だが、公爵といえども君主は君主。

 私と対等と言えなくもない。

 さらに言えば、この国を治める公爵の方が私よりも上位であるとも言えなくもない。


 馬鹿馬鹿しい理論だが、レイラが異天児と発覚した時最も焦るのはラフィカノー公国で、時点で残りの五王が焦る。

 それほどまでに異天児の存在は大きいのだ。

 スキルを持つ勇者の扱いが今日決まるように、スキルを持つ異天児の存在も決して軽いものではなかった。


 結果、多少無理な理論を押し通してでも六国はレイラをラフィカノーに留めようとする。

 無理があれども六国が意見を合わせれば規則の(すみ)をついてレイラを取り返そうとするはずだ。



 そのため我々は決して、誰が見てもルールに抵触しない方法でレイラを我が国に迎えなければならない。

 迎えて、国民として登録さえすれば私の勝ちだ。




 紋章付きの馬車とは各貴族家の紋章が刻まれた馬車のことだ。

 私の場合は王家の紋、つまりは国の紋章だ。

 これが刻まれた馬車は如何(いか)なる関門を素通りできるという特権がある。

 中に誰がいようとも、だ。


 例え中に犯罪者が居ようとも、馬車の中を検閲することは厳禁だ。

 例えその馬車がどれほど怪しかろうとも、だ。


 勇者梶原との初対面の見窄らしい平民の馬車は紋章無しだ。

 あの初対面時、王族と侯爵の娘が乗った馬車を止めたことが罪に問われなかったのは、彼らが勇者だからではない。

 あの馬車に紋章がなかったからだ。


 もしあの馬車にはっきりと紋章が描かれていたら、あの3人は実際に罰せられることは無かったろうが、尋問くらいは揃って受けていただろう。


「この少女ーーレイラと言うのだが、レイラは私の紋章付き馬車に乗せて先に帰らせる」


 実際にいつ馬車が届くか分からないため、先かどうかは分からないが、できるだけ早めに帰らせよう。


「かしこまりました」


 即答するクロウ。

 奴は筆頭側仕えたるロキエラがいないこの場で側仕えを束ねる位置にある。


 即座に他の側仕えに仕事を割り振り、再び私に向き直った。


「……聞きたいことがあるなら言ってみろ」


 どうせ質問は決まっている。

 それに、隠すことでもない。

 国に着き次第公表することだしな。


「彼女は……その、異天児なのですか?」


 予測……というより確信に近いのだろう。

 クロウの目は澄んでいた。


「その通りだ」


 それ以上は言わない。

 これ以上は私のスキルが関わってくるからな。


 レイラが話を合わせれば簡単に誤魔化せることだが、未だ気持ちが落ち着いてないレイラが嘘を堂々とつけるかは分からぬ。

 今は慎重にしておこう。




「あ、あのっ!」


 そう考えていたら予想外の声が割り込んできた。


「私、レイラと言います。異天児で、えっと、その、スキルがあって」


 緊張のせいか、声が上擦っている。

 内容も要領を得ない。

 だが、内容は私が望んだものに近い。


 ならばと思い、スキルを言うように誘導し、続きを促す。



 当然、私はスキルを知っている。


 彼女のスキルはーー







「ーー私のスキルは【雫】です」



「鴉(crow)」と「苦労」のハイブリット種がアルトムートの側近・クロウです。

彼はアルトムートのスキルを知りません。

もしかしたら……くらいは思ってますが、そんなわけないか、といつも自己完結してます。

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