3ー49 運命の星
「其方……異天児か」
まさか異天児を見つけるとは思わなかった。
確かに、私は平民の人材で使えそうな者を見つけたり、国の情勢や国家が平民からどう思われているのか知るためにこうして歩き回っている。
だが、まさか異天児が見つかるとは。
あり得ないことではない。
実際に私は異天児を拾って側近にしたことがある。
現王都騎士団長で、私の護衛騎士でもあるヴァイスは私が幼い頃に拾った異天児の孤児だった。
まあ、あの時はスキルも持ってなかったから、偶然拾った孤児が異天児だったというだけなのだが。
……もしかすると私は異天児を拾う運命の星のもとに生まれたのか?だから2人の異天児を拾ったのか?
馬鹿馬鹿しい考えだということは分かっている。
だが、そう思わずにはいられないほど私は多くの才子を拾った。
さて、この子供を国に連れて帰ろう。
平民の行き来には特に制約は発生しない。
家族の同意が発生するが、家に捨てられているこの場合、この条件は当てはまらない。
まあ、連れて帰った後の信頼のためにも本人の許可は取っておくが。
ふむ、問題ないな。
連れて帰ろう。
「其方、名前を言えるか?」
知っているが、言ってもいないのに勝手に名前を呼ばれていい気はしないだろう。
身分が低い者に対しても時には下手に出る。
これが大人の処世術。
「……レイラ」
小さい声ではあったが、確実にそう聞こえた。
名前を聞けたらもう問題ない。
さっさと終わらせよう。
「レイラよ、其方家を追い出されたらしいな」
異天児かどうかは本人にしかわからない。
ステータスボードの展開を強制されることは街に入る時くらいで、商会の紋章付き馬車にでも乗っていればその必要すらなくなる。
それ以外の機会は滅多にないため、彼女の身分ならば隠そうと思えば隠せるのだ。
この少女はずっと異天児だと言うことを隠していた。
理由は自分の才能によって兄たちが商会の後継の席から外されることを危惧したため。
それだけでわかるように、この子は賢い。
だから、どうにかして国に連れて帰りたい。
もし万が一彼女が異天児であることが発覚すれば、この国が身柄を確保することになるだろう。
そうなれば連れ出すのは不可能になる。
私が見つけた人材だ!
この国には渡さん!
「な、んで……知ってるの?」
「私は其方を保護したい。私はヴァイスターク王国で重要な席を預かる貴族だ。其方の才能を見込んで、私の庇護下におき、国に歓迎したい」
レイラの問いには答えない。
まだ彼女に私の権能を教えるわけにはいかない。
「レイラ、ヴァイスターク王国へ来る気はないか?」
確率は五分五分。
どちらに傾いてもおかしくない。
ただ、彼女は自分に兄を追い落とす意思がないにも関わらず追い出されたことに不満を抱えている。
ならば、もしかすると私の手を取るかもしれない。
「……あの、本当に貴族様なんですか?」
不意に不思議な質問がとんできた。
意図がつかめず、思考が乱れる。
そして再起動。
……ああ、服を着替えてなかったな。疑われて当然か。
ようやく思い出した。
この場合、平民の身分は邪魔になる。
さっさとこの身分は捨てよう。
「【足跡解釈】」
文言は短い。
小声で言えば魔法の詠唱かスキルの詠唱か判別できない。
こう言う場合、堂々としていた方が信用を得られやすい。
嘘をつく時ほど堂々とするのだ。
そして言葉通りに堂々とスキルを展開する。
改変するのは私がこの服に着替えたという過去。
着替えていないことにして、ここに来た時の服に戻る。
「これでどうだ?」
目を丸くしたレイラの表情はいささか滑稽だった。
「は、い。信用できます」
驚きすぎて呂律が上手く回っていない。
「ではどうする?レイラ」
身寄りがなく、金も殆どなく、今ある力は商才と非公開のスキルのみ。
そんな彼女が私の素性を聞き直した時点で返事なんて分かっている。
レイラが跪く。
頭が垂れ、純白の長髪がサラサラと肩を流れる。
予想通りの行動に私の期待は否応なく膨らんでいった。
「…………わたくしはヴァイスターク王国へ行きます」
「よく言った」
こうして1つの才能が、九王会議の裏でヴァイスターク王国に引き取られていった。
無一文でまだ子供のレイラは商才を生かして店を開くこともできません。
その上、仮にスキルを発表したら、自分を捨てたはずの家族が異天児の親として、国がレイラを引き取る代わりの謝礼金を受け取ることになります。
両方とも選べなかったレイラは孤児としてアルトムートに引き取られました。