2ー1 洞窟じゃなくて……
さて、
今、僕は洞窟にいる。
これからどうするのか。
まず一つ目、洞窟から出る。
そして二つ目、奥へ進む。
一つ目は簡単だ。
出るだけなら空間探知で出口を探したり、空間転移で洞窟外を指定すればいい。
でも、さっき空間探知したところ、ここには強い魔物がたくさんいる。
ここらで大幅レベルアップするのも悪くない。
ついさっき苦い汁を飲んだばかりだ。
強さを求める思いは強い。
よし、二番目だな。
奥に進もう。
この世界の迷宮のことはよく知らないけど魔物倒したら魔石とかドロップアイテムとかあるかもしれないし。
それに、早く幻獣種になって神器使いたいし。
今は夜。
本当なら寝たいが少なくとも、近くの魔物を狩っておかないと酷い目に遭う。
具体的に言うとひき肉にされる。
……まあ、そうでなくてもこんなべちょべちょな床でなんて寝たくないし。
こんなところで立ち止まっても仕方ない。
どんなレベルの魔物がいるのか知らないが、ヤバかったらどうにかしよう。
「まあ、なんとかなるでしょ」
どうにもならなかったら、その時はその時だ。
とりあえず、探知で見つけた大きな扉に向かって進んでみよう。
今僕には不満があった。
異世界にきて初めて不満を感じたかもしれない。
先ほどからスキルと皮袋にあった短剣で魔物を倒しているのだが……
「なんでゴブリンいねーんだよ!」
そう、異世界モンスターの定番、ゴブリンがいつになっても現れない。
もう、少なくとも30匹は魔物を倒している。
「あんな定番魔物がまだ出てきてないとかありえないだろ」
あの本で出てくる小さな小鬼
緑色の体に不細工な顔。
ボロボロの衣服に身を包んでグギャアグギャアと不気味な声を発しながら物語の序盤に出てきて、主人公が強くなるにつれ、雑多な魔物として戦闘シーンはおろか、名前すら出ることなく殺される可哀想な魔物。
ゴブリンより弱いくせに登場シーンに恵まれることの多いスライムと比較して、可哀想だな〜ていつも思う。
……結局、見た目は大切ってことなんだろうなぁ。
悪態を吐きながら角を曲がると向こうから駆けてくる3体の魔物が見えた
「鑑定」
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イモータル・ウルフ
LV348
原獣種
HP:37043
MP:23
攻撃:1913
防御:39984
体力:3856
速度:1552
知力:120
精神:198
幸運:24
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今までであった中で間違いなく1番強い。
それが3体もいる。普通のやつなら一目散に逃げ出すような恐ろしい光景を前に僕は一言。
「ゴブリンじゃねーのか」
薄灰色の毛色に乱れてボサボサになっている毛並み。
お世辞でも『カッコいい』とか『綺麗』何て言葉は出ない。
しかし、体つきは良く、よく引き締まった筋肉質でスラリとした体型をしている。
体型だけなら『綺麗』と言えるかもしれない。
それに目は生気で溢れており、褐色の瞳が暗闇の中で光っている。
「グォ、グガッ、ガアアァァァ」
咆哮……とまではいかないか。
獣らしい獰猛な鳴き声をあげて3体が迫る。
そして一言。
「空間固定」
瞬間、オオカミたちが見えない壁にでもぶつかったかのように急停止する。
攻撃をすることも、鳴き声を上げて助けを呼ぶこともできず、スキルが発動した瞬間の姿勢のまま動かなくなっている。
宙の能力の一つ、『空間固定』それは名前通り、指定した空間を固定し、範囲内の物体あるいは生物を行動不能にするというもの。
まさにチート。
読者のみんなはこう思ったのではないだろうか?
『無敵じゃん』
と。
実は意外とそうではない。ちゃんと条件があるのだ。
空間固定は自分よりMPもしくはレベル、種族のいずれかが高い者には効かないのだ。
それから、MP、レベル、種族の問題をクリアしてもあまりにも他のステータス値に隔たりがありすぎると効かない。
とどのつまり、この技は自分と同程度の強さ、あるいは格下の者にしか効かないってこと。だから、いきなりドラゴン討伐に行ってもこの技は使えない。
「なんだよ、不死の狼って。やられてんじゃん」
別に死なないからイモータルなわけではない。
ただの優人の勘違いだ。
「……それにしても全然死なねぇ」
先ほどから短剣で何度も刺したり切ったりするのだが、異常に高い防御力のせいか、死ぬ気配がない。
「不死ってこういうことか?」
どちらにせよ、いつかは死ぬのだが。
もうすでに何十体もの魔物を同じ方法で葬ってきたのだから手慣れたものだ。魔物を殺すという行為が作業と化している。
命を奪うことが作業となっているのは考えものだが、仕方がない。
つまらないのだ。
格上以外は勝負が一瞬で決まる。
名を一言言っただけで終わるのだ。
戦っている実感はないし、どちらかというと家畜を殺して食用肉を生産している感覚だ。
自分でそう考えながらゾッとする。
なんだか自分が自分ではないようだ。
「これからどうするかな?……」
空間探知は生命体の存在のみを感知するものである。
そのため、生命体の強さまではわからない。
親しい者なら誰だか判別できるのだが、ここでそんな副次的能力は殆ど役に立たない。
自分の格下との戦闘で得られる経験値は同格や格上との戦闘で得られるそれより圧倒的に少ない。
つまり、成長速度が圧倒的に遅いのだ。
成長効率を考えると、多少の危険を冒してでも速度を上げたいところである。
ちなみに今ではさっきのイモータル・ウルフも今では結構な格下だ。
『経験値を獲得しました』
脳内に今日すでに何度も聞いた機械音が響く。狼の死を確信してスキルを解除して視線を上げる。
「ここの戦いで色々決めるか……」
狼の死体を一瞥した後、期待と不安を含んだ顔を前方に向ける。
巨大な扉。
高さは7メートルはあるだろう。
黒塗りの扉に縁にある銀の装飾が映えていた。
僕がここに来て、初めて行った空間探知で見つけた場所であり、僕が目的地として定めていた場所でもある。
ボス部屋。
この扉を開けると戦闘開始。
おそらく今日初めての格上。
期待を込めてゆっくりと扉を押し開けた。
第二部【幻帝戴天】スタートです!
これからもこの作品をよろしくお願いします!