3ー46 迷宮攻略
ちなみにみんなが止まっているのはディアーナ領主の屋敷です。平民の宿じゃありません。
翌日。
事前の通達通りに目立たないように迷宮入り口で入場登録をし、中に入った僕らは一階のセーフルームという場所で落ちあった。
セーフルームというのは退魔の魔術具が中央に置かれており、冒険者の休憩場所として使われている場所だ。
効果範囲には鉄柵の目印が置かれており、その範囲内なら安全というわけ。
鉄柵の目の前に留まっている魔物がそれなりにいるので、底辺冒険者が危険を冒さずに魔物を狩れる絶好の狩場とされている。
当然、集まっているのはせいぜい原獣種LV100程度の最最最底辺の魔物だけだが、それらだけでも無傷で確実に狩れるのならば、稼ぎにはならずとも、レベルアップにはもってこいだ。
僕らはそのセーフルームの端っこでロキエラから説明を受けていた。
昨夜の段階で殆どの説明は終わっているため、今しているのは大した話ではない。
気をつけろ、だとか何日後の何の鐘までにはここに戻ってこい、だとか、そんな話だ。
ちなみに僕らは1週間を迷宮で過ごす。
そして、8日目の朝に一階層で落ち合う予定だ。
昨日あんなことがあったせいで、みんなピリピリとした緊張が走っている。
だからなのか、ロキエラの表情も些か暗かった。
ロキエラの攻撃と同時に敵が消えるのを見て、敵は死んでおらず、逃げたのだと判断してすぐさま僕の転移で宿に戻った。
ロキエラ不在の隙を狙って敵が襲ってくることを危惧したためだ。
だが、幸いというべきか宿に敵は現れず、何事もなく夜を過ごせた。
僕含め安心して眠れる者などいなかったが、それでも何もなかっただけマシというものだろう。
昨日は、最近一緒に寝ている僕と純恋のところに遥香が来て、3人で一緒の部屋にいるという始まりの迷宮脱出後以来の珍事が起こった。
ちなみに僕はソファーで寝た。
1人用のベッドで3人は無理だったし、遥香と寝るのは抵抗があったからね。
***
「ここからは各班で行動されるように。緊急時はお呼びください。では行ってらしゃいませ」
そう言うとロキエラは一礼して一歩下がる。
ここからは判別行動。
とは言ってもキャッキャできるようなものではないが、それでも幾分か気楽になれるだろう。
「行こう、純恋」
班員は純恋。
それだけだ。
本来勇者は1人しか召喚されない。
だからあまり大人数で行動して肝心の強さが身に付かなかったら本末転倒だし、大人数だとそれだけの人数に経験値が分配されるのでレベルアップ効率も悪い。
結果、2人1組で行動することになったわけだ。
遥香は村上と。
蒼弥は榊と。
紗夜は宮守と組むこととなった。
多分、僕ら2人に関しては便宜を図ってくれた。
まじ感謝。
迷宮に潜るのは3度目だ。
無論、そのうち2回は始まりの迷宮なわけだが、どうやらあの迷宮は異次元に単純な構造だったらしい。
「分かれ道ばっかだな」
「どっちに行きますか?取り敢えず全部左の道に進みますか?」
「そうしようか」
最初の分かれ道で倒した武器が指し示した左の道が、正しいルートであることを願おう。
「【スターズ】」
移動中話したのだが、道中の敵は僕が全部担当することになった。
速度重視で、今日1日で出来るだけ下層に到達するためだ。
全部原獣種であるためレベルには一切と言っていい程影響がないが、無いよりマシだ。
そこまで強くない【スターズ】で一撃なあたり、かなりここの敵は弱い。
感覚的に千体倒して1レベ上がったら御の字と言ったところだろうか。
イルテンクロムで強化して、速度アップした足で走ること3時間ほど。
ようやく下層への階段を見つけた。
ロコエラ情報によると、この迷宮のボスは10階層ごとに現れるらしい。
だから僕らは人工的にトンネルが掘られた自然の生成物のような巨大洞窟をめぐりながら階段を見つける必要がある。
当然、皆が通るこの1階層の地図がこの街で売られてないわけがないのだが、ロキエラがその使用を禁止したのだ。
勇者ならばスキルを駆使してどうにかしろ、とのことだ。
勇者に何の恨みがあるのだろうか。
***
2階層もすぐにクリア。
3階層から9階層もさっさとクリア。
どの階層も数時間かかったが、ただイルテンクロムに乗っているだけの僕らに疲労があるわけがない。
休憩で時間を取られることがないのだ。
地図が無いことを加味すると、半日で10階層に到達しているのはかなり早いだろう。
魔力探知で階段の位置が分かる遥香はもっと早いだろうが。
10階層で注意することは特にない。
この迷宮は86階層までクリアされていて、10階層までは原獣種しか出現しない。
そして、真獣種と幻獣種である僕らに原獣種の攻撃は効かない。
正確には無効化されるわけではないが、火力が低すぎて効かない。
ボスならばもしかすると効くのかもしれないが、みすみす食らうつもりはない。
ちょっと防御すれば簡単に防げるはずだ。
「ってことで純恋頼んだ」
移動中の全ての魔物を僕が担当する代わりにボスは純恋が担当する。
おそらく移動中の魔物全てよりも、ボスの方が経験値が美味しいだろうということだ。
ボス部屋の前に列ができて待ち時間が必要になることもあるらしいが、今回は待つことなくボス部屋に入場。
1分足らずでゴブリンキングという王冠を被った大きめのゴブリンみたいな見た目のボスは地に伏した。
残念ながら、というか当然と言うべきか、レベルが上昇した旨を伝えるメッセージは聞けなかった。
それから誤字報告ありがとうございます!
本編、遥香のことを1話入れようかとも思いましたが、ちょっと話の進みが遅いのでもうディアーナの迷宮に入ります。ーーと、言いつつ迷宮攻略を書いてるのはほんの僅かで、勇者達のレベルアップの間にあったアルトムートの話をここからちょっとやります。二章で出番が多かったフェルテの代わりにこの章はアルトムートとその関係者がいっぱい登場します。