表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星使いの勇者  作者: 星宮 燦
第三章 星と悪童
157/247

3ー45 神の御業

 僕が到着から数時間経った。

 現在は8の鐘、つまり18時ごろ。


 そろそろ暗さで動けなくなる頃。

 遥香のレベルを考えると、あり得ない遅さだ。

 遥香以外のクラスメイトが全員到着していることを考えると彼女の遅さがよく目立つ。




 遥香に移動専用スキルというようなものは無い。

 だが、幻獣種寄りの真獣種である彼女が、真獣種に仲間入りしたばかりの他の勇者に遅れをとるとは考えにくい。




 ーーのだが、


「アイツ幸運値低すぎて方向音痴になりがちなんだよなぁ……」


 この問題を運で片すべきか否か。


「どちらもあり得ますもんね……」


 蒼弥の部屋に集まって4人で話すが、未だに結論は出ない。

 全ての原因は、クソ雑魚幸運値だった。


 さっき宿の小部屋に勇者全員集まっていた時に、ロキエラが遥香を探してくると言って出て行った。

 それから十分近く何も起こらないということは、何かがあったのだろう。

 だってロキエラは魔術具の位置を観測できるから。


 遥香の位置を知らないわけがない。


 そして天獣種である彼の本気で打ち勝てない敵がいるとも思えない。


 となると……アイツ魔術具落としたかな?


 1にも届かない遥香の幸運値が現実に与える影響の大きさは未知数。


 運悪く、魔術具を落とし、運悪く道に迷い、運悪く地図もなくし、強敵に見つかっていたとしても不思議ではなかった。

 あり得ない、とは言い切れなかった。




「優人くん、私遥香を探しに行きます。何も起こってないかもしれませんけど心配です」


「いや、僕も行く。純恋だけに行かせて万が一があったらいけないし」


「俺も行く」


「じゃあ紗夜も」


 全員行くほどじゃないと思うんだが……う〜んどうしよう。


「小見山は残って、綾井妹が来た時のために備えたほうがいいと思うぞ?入れ違いがあったら面倒だし」


 蒼弥がそう言うが、小見山の歯切れは悪い。

 どうやら1人だけ何もせずに残るのに抵抗があるらしい。


「でも誰かが残ってる方がアイツも安心だろうから、紗夜がいてくれたらありがたいんだけど……」


「でも……」


「じゃあ私も残ります。2人と行っても足手纏いになりそうですから」


 蒼弥は強い。

 それこそ僕に負けるかもと思わせる程に。

 だが、だからと言って純恋が足手纏いとも思っていない。

 勘が鋭いと言うのだろうか?咄嗟の判断がなかなかいい。


「気にしないでください。自分1人だけ何もできない虚しさはよく分かっていますから」


 ……純恋は強いよ。僕の何倍も。

 心の中でそう呟いてから、微笑む純恋を抱きしめる。


「必ず連れてくる」


「頼みます。優人くん」


 それだけ言葉を交わすと、2人で夜空に舞い上がった。



 遥香が交戦するおよそ10分前の出来事である。




 ***




「誰だ?オマエ」


 (すこぶ)るイライラしていた。

 大切な仲間を傷つけられた怒りは遥香の考えている以上に大きい。


「なんでお前の命令で名乗んなきゃなんねえんだよ」


 うるせえな。


「言いたくなけりゃ、言わなくていい」


 だって、


「言わせるだけだからな」



 ああ、知ってるよ。

 こいつは強い。


 贔屓(ひいき)目抜きでロキエラ以上。

 チッ、これなら紗夜も連れてきたのに。

 そしたらステータス値均一化で何とかなったのに。



「やめだやめだ。俺はそこで寝そべってる餓鬼に用があってきたんだよ。お前はお呼びじゃねえ」


 「そう言ったら僕が道を開けるとでも?」


僕の友人をバカにするのも大概にしろよ。


「よかったな。【コメット】」


 だから返事代わりに一発お見舞いしてやる。


 轟音と共に大地が抉れ、木々に火が灯る。

 この篝火でロキエラが気付いてくれたらいいんだが。


「用もない野郎と戦って何が良いんだよ。お前、楽しいか?」


 心底めんどくさそうなセリフと共に隕石がぱっかり割れて、無傷の男が現れる。

 うん、ダメージゼロ。

 これはマズイな。


「俺はその雑魚に用がある。お前はお呼びじゃねえんだよ」


 さっきと同じセリフ。

 デジャブを望んでいるならこっちももう一回【コメット】を放とうかとも思ったが、ソレをやったら相手ももう一度同じ言葉を繰り返す気がして、手を止める。


「話の続きは?」


「ねえよ!俺はお前を呼んでねえ!」


「僕もアンタなんて呼んでない」


「……最近のガキはめんどくせえな。ハア……じゃあこうしよう。俺はちょちょいと用を済ます。で、お前は遺体を持って帰るって契約だ。トントンでいいだろ?あ、お前らは殺さないでやるからその辺は心配すんな」




 ……コイツ……ヤベェやつだ……。



 何となく、察した。


 関わっちゃいけない奴。

 関わったら最後、おかしな思考に染められるやつだ……。


 頭のネジが飛んでるとかそういう次元じゃなくて、頭自体が飛んでるみたいな、そんな感じ。




「【簡易結界】【アベリア】」


 何の脈絡もなくそう告げられる。

 どうやら戦う気のようだ。


「さあ準備しろ。頼むから俺をガッカリさせんなよ?」


「ああ分かった。【新星(ノヴァ)】」


 ごめんな、名前も知らないクソ野郎。

 僕、準備って言われたら攻撃までする流儀なんだ。


 不自然なくらいに何の構えも見せない男に超爆発のプレゼントを。


 違和感はある。

 だが、だからと言って何もしないつもりはない。


「これだから嫌いなんだよ、セコい手使うやつは」


 よく分からないことを言う。

 (ずる)くて結構、セコくて結構。

 何が悪い。


 星の超火力は言葉ごと彼を飲み込み、周囲の全てを薙ぎ払う。




 巨大なクレーターの底。

 そこに男は変わらずいた。



 ……ダメージが通ってるように見えないな。無効化みたいな能力か?それともデバフ?


 挨拶に収まらない攻撃をもってしても、何も分からなかった。


 さてどうしたものか。

 攻撃を続ければいずれダメージが、などとはならないだろう。

 もしそうなら超火力を喰らう前にさっさと攻撃してきている。



 だったら紗夜みたいなスキルか……


 そう思ったが、そうではない気がする。

 ただの勘だ。



「【十字衝(サザンクロス)】【十二善霊宮(アルス・パウリナ)】」


 とりあえずオーソドックスな二つを展開。

【スターズ】は多分今回役に立てないと思うので発動しない。


 何も付与していない【十字衝(サザンクロス)】でとりあえず攻撃。

 どうせ切れないと思うが、何も分からない以上、これ以上技を乱発して下手に手札を知られるのも厄介だ。


「おいおいそれは舐めすぎだろ?死ぬぜ?」



 だから何だってんだ。

 こっちにはまだ強え奴がわんさかいるぞ?


「【斯て楼は終わりを告げ 黝の冠は潭へと沈む 天上天下に相違なく 夢の現は現世に】」


 やっと来たか親友。


 声と共に地面がめり込む。

 クレーターの真ん中がさらに凹み、男が一瞬膝をつく。

 即座に魔力の身体強化で重力に耐えているが、効果があったのは一目でわかる。


「蒼弥!このまま続けろ!直接叩くのは僕が引き受ける!」






 ーー誤算。






 それは敵を甘く見たこと。

 自分達の詠唱を過信しすぎたこと。

 そして、生物の頂に君臨する絶対王者、神獣種を知らなかったこと。


「浅えな、雑魚は。神獣種をこれっぽっちも分かっちゃいねえ」



 まごうことなき神の御業。

 神獣種たる者の力の象徴。


 彼らはその躍動を目にする。



 ーー展開ーー



「【羽搏(はばた)け 昇れ 天の万神(ばんしん) 命を隔て 地に安息(あんそく)を】」


 第一詠唱、完結。


「【(くら)い (くら)い 闇の御使(みつか)い 輪から外れし魔を喰らえ】」


 第二詠唱、完結。


「さて、後何詠唱耐えれるか?」


 戦場に響く悪魔の声。

 すでに蒼弥の詠唱などかき消され、圧倒的恐怖が場を支配する。



「じゃあな、能無し」





「ーー貫きなさい」


 突如聞こえたロキエラの声。

 同時にぽっかりと穴が開く木々。

 その声に、男の瞳に炎が宿った。



「ロキエラ、お前とは気分じゃねえ。調子出てる時に来るんじゃねえよ!そんなにやりたいなら今度ゼトロノームに行ってやるから!!」


「私には関係ございませんよ」


 レイピアが鋭い音を立てて愛斗を貫く。

 ーーしかしその直前、その影が掻き消える。


「チッ……」


 残っていたのは服の切れ端と思われる布の小片だけだった。


なんで愛斗が帰ったか?それは第二章のエピローグを見てください。ロキエラと相性が悪いんです。それに、愛斗自身が結構ノリと気分で戦う人なので、勝てる戦いなのに勝手に帰ることもしばしばあります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ