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星使いの勇者  作者: 星宮 燦
第三章 星と悪童
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3ー43 謎が呼ぶ謎

まだディアーナ移動編は終わりません!

「随分と遅い到着でしたね」


 ディアーナに着いた報告のために配布済みの魔術具で連絡を入れると、開口一番そう言われた。

 そう問いかける男は言わずもがな、ロキエラである。


「ちょっと道に迷ってしまって」


 馬鹿正直に話すつもりはない。

 ラツィエルの話を信じるならば、ヴァイスターク王国は例の結界の存在を知らないはずだ。

 調査隊を送られても面倒なため、その場しのぎで無難な嘘をつく。


 ロキエラは訝しむようにジロリと睨みつけていたが、しばらくすると嘘を信じたのか、左様でございますかと言って退散した。


 今回の遠征メンバーで一番警戒が必要なのはロキエラなので、この対応はありがたかった。


 一応言っておくが、彼を疑っているわけではない。

 彼が一番強いが故に、少しその行動を注視しているだけだ。




 ***




「優人くんにしては遅かったですね。何か事件でもあったんですか?」


 そう言って出迎えたのは純恋。

 横に同じように並んで立っているのは紗夜と蒼弥。

 ロキエラに言われた宿に行ったら3人が入り口で待っていた。

 どうやら遥香はまだ着いていないらしい。



 3人とも結構ゆるい服に着替えているので、彼らが着いてから随分時間が経っているようだ。


「ちょっと道に迷ってさ。遠回りしてたんだよ」


「そうなんですか、それならよかったです。私は大丈夫なんですけど、クラスの人たちの中に何人か不審者に襲われた人がいたんですよ」


 だからロキエラの目があんなだったのか。

 警戒してたんじゃなくて心配してたのか。

 だったらもうちょい優しい目をしてくれてもよかったのに。


「不審者ってことは人が襲ってきたってこと?」


「顔は分からなかったらしいんですけどね。あ、大丈夫です。大きな怪我をしている人はいません。みんなロキエラさんの魔法で治りました」


 それはよかった。

 純恋が襲われてないことにも安心した。


「何人が襲われたんだ?紗夜と蒼弥は大丈夫だったのか?」


 見れば大丈夫だということは分かる。

 見た感じ体に問題があるようには見えない。


 だが、蒼弥はともかく紗夜のスキルは補助向きだ。

 強力だが、タイマンには向いていない。


 だって絶対の範囲に自分も含まれるから。


 何を命令しても泥試合になる。

 殊更強力な武器があれば別なんだろうけど。


「来なかったね。やっぱり紗夜が強すぎて恐れ慄い……「蒼弥はどうだった?」……もうっ!」


「俺のとこにも来なかったな」


「ふぅん。それは良かった。ちなみに僕のところには来てないよ」



 ……変だな。

 勇者の殺害が目的なら、大勢を満遍なく傷付けるんじゃなくて1人を確実に殺すべきだ。

 あっちゃいけないけど、そうした方が謎の人間にとっては都合がいいはず。

 何がしたいんだ?


 本命の目的のカモフラージュ……にしては雑すぎる。

 勇者殺害が建前だとバレてもいいとでも言うような、荒さが目立つ。


 よっぽど本命がバレない自信があるのか、バレても問題ないような本命なのか。





 ……いや、()()()()()()()()()()()


 ここまで深く考える必要があるのか分からない。


 ただの野盗が襲ってきたのならそれを潰して終わりだ。

 勇者の脅威じゃない。

 そして、その結末が一番望ましい。


 だが…………



 あの日のあの光景が脳裏を()ぎる。


 壊しても壊しても壊れない謎の板。

 何もないところから飛んできた不可視の攻撃。

 星の超火力を以てして尚、押し負けそうになったあの攻防。


 関係はあるのか?

 だとしたらなぜ?

 目的は?



 帝国で感じた相手が今回の不審者ならば、大問題。

 僕も含めて生死に関わる。


 ーー否、それどころか国の危機が訪れる。



「大体わかった」


 嘘だ。

 何も分かってない。

 でも、ここは笑顔で乗り切る。


「教えてくれてありがとう。とにかく3人が無事でよかった」


「私も優人くんに何もなくてよかったです。心配だったんですよ?」


 そう言って純恋が頬を膨らませる。

 リスのように膨らんだ頬をつついて潰すと彼女を軽く抱きしめた。


「心配してくれてありがとう」


「どういたしまして」


 そのまま頭を撫でるとよほど嬉しいようで、背伸びをして手のひらにぐりぐりと頭を押し付けてくる。


 その矮躯は僅かに、震えていた。


 その震えに気付いてないふりをして、何も言わずに強く、強く抱きしめる。

 僕にはそれしかできなかった。




 あとはお前だぞ、遥香。

 さっさと来い。


 僕の彼女を、お前の姉を心配させるな。




 ***




 森の奥。

 月明かりさえ殆ど届かぬ雑木林の中。


 1人の男が立っていた。


 掌をーー否、掌の上にある何かを見つめていた彼は林の奥に鋭い視線を飛ばした。



「私を……欺けるのですか……」



 呆然とした口調で彼は言う。


 確かに油断はあった。


 だが、この地に彼らに勝てる者がいるとは思わなかった。

 いるはずがないのだ。


 それなのに大勢が襲われ、数名ではあるが傷を負った者もいる。

 襲われなかったのはわずか数人。


「まさか……彼が……ここにいるのですか?」


 脳裏に浮かぶのはかつて出会った最凶。

 名前など知らない。

 だが、知る必要さえない。

 忘れるはずもないこの魔力の残滓。

 この魔力は彼のもの。


 私を持って勝てないと断じれる奴の魔力がここにある。


「非常にまずい……」


 まだ奴に出会った勇者はおらず、警備が磐石で強者が集まっているディアーナを彼が訪れる可能性は低い。

 そして森に残っているのは綾井遥香のみ。

 勇者を狙った野盗か何かの襲撃……ではなく。


 狙われているのはーー


 腰に触れて愛剣を抜き払う。

 そして一言。


「貫きなさい」


 彼ーーロキエラのレイピアが鬱蒼(うっそう)と生い茂る木々を貫き削る。

 轟音をあげて木々が倒れ、人一人分の通路ができる。


 そしてもう一度掌を見つめる。


 そこにあったのは粉々に砕けて機能しなくなった、一つの通信の魔術具だった。



蘇るのはかつての記憶


天獣種3人を目の前にして

雑魚と断じた禍つ神


光宿りし瞳を携え、男は魂の躍動を地に刻む。

その凶刃に願いはない

ただただ心の赴くままに、心ゆくまで力を振るう。


今宵も贄が選ばれた。

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