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星使いの勇者  作者: 星宮 燦
第三章 星と悪童
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3ー41 神殺しの異次元達

「話がまたズレてしまいましたね。……ですが、エデンについての説明は宜しいですか?」


 エデンの園は神秘の女神ラツィエルが作ったもので、ここがそのエデンじゃないことは分かった。

 別に比喩で言っただけで本気でここをエデンの園と思ったわけじゃないんだけど。


 神は彼女が知っている中では彼女と同列の神族のみで別系統の神族は知らないということも理解した。



「さっき言ってたと思うんだけど、この世界の人は何で本当の神様を知ってるんだ?」


「魔法が理由ですよ。魔法は(わたくし)達与えました。当然、神の名前を(たが)えて覚える者に魔法は与えられませんから魔法が使えるということは魔法(それ)を与えた者の名前は間違っていないということになります。そして、本物の神かどうかは確認不可能ですが、この世界の人間は魔法を与えた我々を神としました。だから(わたくし)達が神なのです」



 要約すると、この世界の人は取り敢えず魔法を与えた者を神と呼ぶようになった。

 だから魔法を与えた自分達が神だ、と。



 なるほど、話の流れに違和感は無いな。

 信憑性は高いと見た。

 まあ、神を疑ってもしょうがないんだけど




「さて、ではそろそろ……」


 うん、帰るか。


「本題の貴方がここに来た理由を話していただけますか?」


 あ、そうだった。

 忘れてたわ。



 ここに到着してからおよそ1時間経過。

 彼らはまだ雑談しか終えていないのだった。




 ***




「森の中で見えない結界を見つけたんです。それもかなり強固な」


「はい」


「それで何か知らないのかな、と」


「……テスカはどうされたのでしょうか?」


「テスカ?」


 不思議な質問をする。

 アイツに結界を壊させるということか?

 できなくはないかもしれないけど……


「いえ、そうではなく、テスカは結界を通り抜けられるでしょう?」


「え?」


「テスカという魔物の種族特性ですよ?」


 あ、マジ?覚えてねぇや。

 エネルギー操作のスキル持ってるのだけは知ってるけど。

 うっわ〜、恥ずっ!

 自分の従魔のことすらこれっぽっちも知らなかったなんてマジかあ。


「来い、テスカ」


 すぐさま呼び出してステータスを見る。

 そしたらびっくり、なんと種族特性の覧に『結界無効』の4文字が。


 おぉう……マジか。


「貴方は従魔と別行動をしすぎです。貴方が一緒に行動すれば何事ももう少し楽になりますよ」


 いや、分かってはいるんだけどさぁ……これをクラスメイトに見せるのもさぁ……どうかと思ってね……


(わたくし)が介入することでもありませんのでこれ以上の口出しは致しませんが、心に留めておくことをお勧めいたします」


「ああ、考えてみるよ」


 それから、と言いながらラツィエルは再び紅茶を口に含む。

 甘くて芳醇な香りがあたりに広がった。

 何だろうね、苦くないけどほどよい渋みがあって、ちょっと柑橘系の匂いがするな。

 スッキリした味だからまだ飲めそう……っていうか飲みたいな。


「結界の中の物に関しましては予想がつきます」


 紅茶の香りを優雅に楽しんでいた僕はその声にハッとする。


「……神器、とか?」


 本物の神器があるとまでは考えてないが、熾星終晶刀(しせいついしょう)のようなレプリカならあるのかもしれない。


 僕のレベルが足りないだけで、あれを今、天獣種のロキエラに渡せばロキエラはその能力を扱えるようになる。

 確か、能力を初めに使った人を主と定めて、その人専用のウェポンとなった筈なのでお試しで貸すわけにはいかないが。


 あのレベルが中にあるなら異常な結界も説明がつく。

 あれが封じられているならば驚かない。


「残念ながら見当違いですね。(かす)ってさえいませんよ」


「辛辣ぅ〜〜」


「重要なことですのでもう一度言いますね。『掠ってさえいま……「もういいって」」


 今日のラツィエルは普通にうざい。


「あそこにあるのは古代魔術具(アーティファクト)の欠片です」


 はじめっからそう言えや。

 そう言いたいのを何とか押し留めて、代わりに話を進めるための疑問を投げかける。


古代魔術具(アーティファクト)?」


「その名の通り、古代に生み出された魔術具ですよ」


 んなことは分かってるよ。

 僕が言いたいのはそうじゃない。


「そういうことですか。ええ、そうですよ。古代魔術具(アーティファクト)が洗脳のファレインタルムだけだとでも思いましたか?」


 ……うん、思った。


「あれは第三古代魔術具(アーティファクト)です」


「上にまだ二つ……」


「いえ、数字は序列ではありませんよ。ただの識別番号です。それから、貴方が壊した魔術具は偽物の偽物です。レプリカを更に作り直した紛い物の紛い物ですよ。」


 ……マジ?嘘やん。じゃあ僕レプリカ壊して諸悪の根源壊しいたとか言ったってこと?超恥ずいやつじゃんか。


「ただのレプリカですから序列にも入りません。ただの強い魔術具ですよ」


 あの程度で喜んではいませんよね?とラツィエルが釘を刺す。

 グサグサッ、と音を立てて釘が僕に突き刺さり、そのまま背中まで貫通する


 普通に喜んでいた、現実を知ったらただの痛々しい記憶が蘇ってくる。



「まあいいでしょう。あの程度の強さの魔術具は初めて見たでしょうから騙されても仕方がないと言えないことはありません」


「本物を知ってるのか?」


「ええ、勿論。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「……はい?」


 背筋がゾクっと凍りついた。


古代魔術具(アーティファクト)は合計6つ。その全てが星を飲み込む規模で運用されます」



 ……次元が違う。



 僕が壊したのはせいぜい街一つを覆うだけ。

 なのに本物は星一つだって?


 馬鹿げてる。

 ふざけてる。


 文字通り、異次元。


「力、空間、洗脳、幻、時、魂。これら6つを司る、神すら超えかねない異次元達です」



 気配が変わる。

 穏やかな笑みはいつのまにか凍った表情に変わっており、両の(まなこ)を射殺さんとばかりに睨みつける。



 死を感じた。



 生まれて初めての正真正銘の殺気。

 エラティディアの殺気なんて可愛いものだ。

 今この場を逃れられるのならアイツの殺気くらい、いくらでも背負ってやれる。


「あれを解放しようなどとは考えないように。人に扱える代物ではありません」


 いいですね、と念を押される。


『はい』以外の返事(こたえ)は許されない濃密な殺気。


 舐めていた。

 神を。


 温厚な笑みに騙されていた。



 相手はいつでも僕を殺せるだけの力を持っている。


「は、い……」


 なんとか声を絞り出す。


 激しい恐怖で、その2文字でさえきちんと言えたのか怪しかった。


 それくらいの恐怖を理性も、本能も告げていた。







 パンッ、と手を叩く音が耳朶を打った。


 風の音さえしないこの空間で響いた乾いた音にビクッと肩を跳ね上げ、恐る恐る顔を上げると、いつのまにか笑顔に戻ったラツィエルがいた。

 ついさっきの恐ろしい顔はおくびに出さず、さも今までずっと笑っていたとでもいう風な優雅な微笑みを浮かべていた。


「少し揶揄(からか)いが過ぎたようですね。とにかく、古代魔術具は危険だということ、これは常に念頭に置いておいてください。テスカを使った探索も控えていただきたいくらいです」


 ですが、とラツィエルがもう一度手を叩く。


「封印の結界が緩んでいることも事実です。本来ぶつかることなく結界を無意識に貫通するはずがぶつかったということは、結界が時を経て徐々に弱まっているということです。そこで提案です、勇者優人」


「なんでしょう」


 う〜ん、嫌な感じがする。

 っていうか、嫌な感じしかしない。


 あの女神の笑顔を見ろ!

 碌でもねえこと言い出すぞ!


「貴方は私の(もと)につきなさい。そして、眷属(けんぞく)となって封印を調べ、私に知らせ、この世界を秩序を保つ(せき)を負いなさい」


 ほら見ろ!こんな聞くだけでめんどくさそうな話出しやがった!


「そうすれば私は貴方に祝福を与え、加護を授けましょう」


 その提案に決意が揺れる。

 あっさりとグラグラ揺れ始めた。


 加護が確定で貰えるのはいいなあ。

 加護イコール補助スキルだから、その種類によってはいずれ僕を支える物にもあり得るんだよな。



 だけど、まだ決められない。

 内容が曖昧すぎだ。


「具体的には何をすれば?」


「難しいことは言いませんよ。貴方にできる範囲で調べていただきたいことを伝えますから、その指示に従ってくださいませ」


 だからその例は?


「例を挙げるならば……テスカと共に結界に侵入し、中の状態の調査とか、でしょうか。幻獣種程度には頼めませんから、貴方がもっと強くなってからの話でしょうが。今ならば……本気で殴っていただいて強度を調べていただきたいです。それから、魔力を流し込んで結界の寿命も調べていただきたいです。……ああ、眷属の行動は完全に把握できるのでいちいち報告は要りませんよ」



 ……いいんじゃないか?内容が本当ならいい提案だ。


「神の言葉は絶対です。嘘は言えません」


 その言葉自体が嘘だという可能性もあるが、いいだろう。

 僕のメリットは十分にある。

 それに僕はラツィエルは信頼している。


「眷属になります」


 返事(こたえ)を返す。


 即座にラツィエルが指を鳴らして契約魔法を成立させ、眷属になるための魔法陣が顕現する。


「眷属になる宣誓を」


 ……何言えばいいの?


 その疑問に応えるかのように、脳内に文字が浮かび上がる。


「私、梶原優人は、神秘の女神ラツィエルの眷属になることをここに誓う」


 脳内に勝手に流れ込んできた文章が、開いた口から勝手に吐き出されていく。

 若干の吐き気を催しながら、しばし耐える。


「我が眷属に祝福と最大級の加護を」


 ラツィエルの言葉が発せられた。

 それと同時に降り注ぐ金の光。

 雨霰(あめあられ)と降り注ぐそれは余すことなく僕の体に吸い込まれていき、直後、体がほどよい熱をもつ。


「契約は完了です。ではこれからは頼みましたよ」


 そう言いつつ美しい微笑みを浮かべられる。


「はい。僕からもよろしくお願いします」


 互いに言葉を交わし終えるとラツィエルが再び指を鳴らす。


「前いた場所まで送ります。ではご機嫌よう」


 足元に緻密な魔法陣が浮かび上がる。

 誰が見ても美しいと判断するそれはゆっくりと上昇し、僕を金の膜で包み込む。


「じゃあまた」






 視界が入れ替わる刹那、ラツィエルから一言、声が届いた。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。いずれ貴方の助けとなるでしょう」


「ちょっ、待っ……」


 僕が反応した時、そこはすでに暗い森の中だった。



『テスカ』は種族名です。名前じゃありません。彼は名無しです。

ちなみに、古代魔術具がそれぞれ司るものの種類はインフィニティ・ストーンを参考にしています。


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