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星使いの勇者  作者: 星宮 燦
第三章 星と悪童
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3ー38 最速の移動法

 いきなり視界が石畳から焦茶の土に視界が切り替わった。

 今まで幾度もなくこの感覚を体験してきた僕はすぐに状況を把握した。


「転移、か……」


 理由はわかる。

 誰の仕業かもわかる。

 そもそも、いくら別々に行けと言われても現在地も目的地も同じ僕らが別々に行く意味はない。

 そして、地図を全員に渡す必要もない。


 だから何かあるとは思ったが、まさか転移魔法が存在するとは。

 予想以上に魔法は種類が多いのかもしれない。



 だったら地図の赤い点は現在地かな?

 魔術具じゃないから本当に点しかのってないけど、これで赤点が現在地じゃなかったらキレてもいいよな。



 ってことで、さて、動こうか。

 まあ、魔力を殆ど使わない移動法は随分前に考えていたからなんとかなるでしょ。

 問題は時間だけ。

 着くことはできるけど、時間が十二分に余るかというと、そうはならないだろう。



 先日、アルトムートに言われた言葉が脳裏をよぎる。

 彼は僕にもっと強くなれと言った。


 その理由に彼は自国の面子(めんつ)をあげたが、彼の表情には妙な焦りが見えた。

 もしかしたら何か知っているのかもしれない。

 僕はそう考えたが、とはいえ、アルトムートのポーカーフェイスはプロのソレだ。

 若干の違和感を感じたものの、よくよく考えてみると違和感などなかったかのように思えるような差である。


 僕の仮説が間違っている可能性も大いにある。

 っていうか貴族の人たちがうますぎるんだよ。

 表情が全っ然読めねえ。




 ***




 結局のところ、僕が下した判断はイルテンクロムを用いた高速移動だ。


 なんだかんだ言ってそれしかできなかった。

 魔力のない僕は他の誰よりも無力だった。


 あまりにも無力すぎた。




 始まりの迷宮にてバギーのような形の乗り物で移動する方法を考案したが、これは少々不味かった。

 迷宮で使うのはいい。

 なのだが、足場の安定しない森と山を進むのに、四つのタイヤは都合が悪かった。


 厳密にはタイヤではないのだが、どちらにせよ今の形態は不都合が多かった。


 そこで思いついたのがクモの足。

 あの不気味な生き物の足は実に機動力が高く、どんな道でも道なき道も難なく突き進めた。

 かの有名な赤青のクモヒーローのようにはならないが、身体から8本程度の脚が出ていれば基本的になんとかなることが分かった。



 さすが、不気味な昆虫もどきという立場からヒーローにまで上り詰めるだけはある。

 やるな、スパイダーマン。




 ***




 8本足に進化してからおよそ4時間。

 既に城は遠く、影すら見えなくなった頃だ。

 既に日は傾き、空全体が茜色に染まってきていた。


 僕らが持つ地図は魔術具などではなく正真正銘ただの地図のため、g◯og◯eマップよろしく、便利な現在地特定機能は付いていない。

 だから自分の正確な現在地は分からないが、ロキエラは普通に歩いて2日で着くと言っていた。


 歩きの2倍速くらいで進んでいるつもりなので1日で到着できて、さすがのロキエラも睡眠なしで2日とかいうイカれたことは言わないだろうと信じて、18時間かかると仮定する。

 そして今4時間歩いた。

 つまり、単純計算ではあとおよそ14時間で到着すると思われる。


 そう考えると、この計算も全部すっ飛ばしてディアーナに飛んだであろう榊が恨めしい。

 この48時間をフルで自由に使えるなど、羨ましい以外の何物でもない。




 まあそれは置いておいて。

 今日歩いた4時間、この中で出会った魔物は30体ちょっと。

 召喚されてから数ヶ月も経っているのにゴブリンに未だ会えてないのは置いておいて、今日会った魔物は全て原獣種だった。


 ロキエラが躊躇いなく勇者を放り出したことからこの程度というのは分かっていたが、それでも少し拍子抜けだった。

 いくら弱い魔物だけとは言っても、真獣種下位くらいは出会うと思っていたのだ。




 サディークが授業で言っていたことを思い出す。


『魔物というものは上位になるほど縄張り意識が強くなり、神獣種や天獣種ともなると一生をその広大な縄張りの中で過ごすことも珍しくないのです』


 そう言っていた。


 神獣種や天獣種が伝説上の存在ではなく実際に世界に君臨しているにも関わらず、弱い人間という種族が未だに生き残っているのか、ようやく合点がいった。

 人間は自分たちが勝てない上位魔物の縄張りから遠く離れたところに国を開いたのだ。


 できることなら上位魔物がいる迷宮からも遠ざかりたかったが、生憎(あいにく)迷宮は自然に生み出される。

 そのため逃げたくても逃げられなかったのだ。


 それに、傷跡しか残さない野生の魔物と違い、迷宮で生まれ、迷宮の魔力を吸収して成長する迷宮型魔物はその体を形成する物全てが、含まれる魔力純度が極めて高く、そのため価値が高い。


 デメリットばかりではなかったのだ。



『迷宮崩壊』という迷宮の魔力が飽和することで起こる災害があるにはあるが、早期に発見できれば大した問題ではない。


 それに、『迷宮崩壊』は生成された迷宮が数十年間放置された時に起こる現象だ。

 騎士団が定期的に領内を調査して、未発見の迷宮がないか探す以上、そんな現象なかなか起こらない。


 結果、メリットがデメリットを上回ったのだ。


 そして、僅かにでもリスクを軽減するために作られたのが迷宮都市。

 でもまあ今は迷宮崩壊については正直どうでもいい。

 迷宮崩壊についてはまたの機会にでも話そう。




 ***




 森を出来るだけ早く抜ける方法として、僕に取れる手段はいくつかあるが、最も速いものというと一つに絞られる。

 勿論、転移だ。


 いくら距離に制限があると言っても転移は転移。

 効率的な移動手段という点に間違いはない。


 そして今の僕にある魔力はギリギリ2回転移できるだけの魔力のみ。

 イルテンクロムで移動も戦闘も全て対処することで可能な限り魔力消費をここまで抑えてきたが、それでも常時魔力を使っていることに変わりはない。

 それに、魔力が最も回復するのは睡眠時であるため、移動中の魔力回復速度は僕の予想以上に遅かった。

 今まで魔力切れになったことがないことの弊害だ。




 今はまだ暗くないが既に僕は就寝準備を始めている。


 僕の計画としては、日が落ち切る前に眠りにつき、日が昇る前に起きて転移で移動を開始する。

 そして昼頃にディアーナに到着し、指定時間ギリギリまで休まず迷宮に潜ってレベルアップに勤しむ。


 と、いうものだ。



 純恋が来たらデートするのもいいが、男1人でぶらぶらしても仕方ない。

 となれば、いつか来るであろう戦いに備えて準備を進めるに越したことはないだろう。




 イルテンクロムを起動する。


 時間に余裕があるわけではないので、今夜はゆっくり眠って回復に専念するつもりだ。

 就寝中の自己防衛はイルテンクロムに全任し、朝早く、あるいは夜遅くに行動できるように休憩という名の準備をする。

 さすがというべきEXだかOverだか、どっちか忘れたが超高位の魔術具イルテンクロム。

 今日ほどあってよかったと思った日はない。

 ……だって今まで大体すぐ壊されてるもん。



 準備と言っても、俗に言うサバイバル用品は何一つないので、手頃な木を背もたれにしてもたれかかるだけだ。

 すぐに準備は終わった。



 まだ眠くない。

 いつもならまだ起きている時間帯だ。

 でも明日は忙しい。


 必死にそう言い聞かせて軽すぎる瞼をゆっくり閉じた。


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