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星使いの勇者  作者: 星宮 燦
第三章 星と悪童
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3ー36 彼我戦力差

「スキルの乱発はいいですが、魔力の減りは大丈夫ですか?」


「オマエが気にすることじゃねェよ。【インタステラ】」


 発動した瞬間、僕の体はロキエラの真後ろにあった。

 そのまま突きを繰り出すが、そのままむざむざやられるロキエラではない。


 軽くレイピアを振るうと、簡単に突きは軌道がそれて空を切る。


【インタステラ】は【小宇宙(コスモス)】の中限定で使える位置操作の術式。

 場所が限定されているのが難点だが、彼我(ひが)の距離を自在に変えられるのは間違いなく強力。


 現に、この速度にロキエラもついてこれていなかった。


 もしかして……僕が【インタステラ】を止めた後に位置を特定して防御してるのか?


 そう思い立って、背筋が凍った気がした。

 もしそうなら、ロキエラはまだ全力ではないことになる。


「はぁああああああああっ!!」


 再び【インタステラ】で急接近。

 今度は同時に【新星(ノヴァ)】を付与した【十字衝(サザンクロス)】を形成し、それを振るう。

 同じように空を切る感覚がすると、すぐさま腰を下げて右足を地面に擦り付けるようにして足払いをする。

 それを軽いジャンプで躱したロキエラが地面に剣先を向ける。


「【インタステラ】!!」


 すぐさま位置が変わると地面に大きな穴が開く。

 そして、もう一度剣が振られる。


「良いことをお教えしましょう。【穿】の力はこの程度ではありませんよ。()()()()5()()()()()()()()使()()()()()()()


「……は?」


「貫きなさい」


 その言葉が発せられた直後、僕の右手が消えた。


 そして、それが消えたのではなく貫かれて消えたのだと分かるまで数秒の時間を要した。


 続いて襲いかかる痛み。


「ッう……【ユングフラウ】っ!」


「私は回復を待つような馬鹿ではありませんよ」


小宇宙(コスモス)】内限定技、【ユングフラウ】。

 再生の力を持つそれは場所が限定されるものの、その出力は【日蝕(サン・エクリプス)】を大きく凌駕していた。



 が、それでも間に合わない。


「が、アァアアアアアアアアアアッ!!!」


 全身に次々と衝撃が襲い掛かり、その衝撃で後方に大きく飛ばされる。

 それでも何とか攻撃を体の中で留められているのは【ヴァッサーマン】と【シュタインボック】の恩恵か。



【インタステラ】や【ユングフラウ】と同じく、【小宇宙(コスモス)】の中でのみ使用が可能な能力、【ヴァッサーマン】と【シュタインボック】。


 その効果は防御力の超上昇と、領域を狭めることを条件とした術式性能の上昇。


 この効果により今の僕の防御力はおよそ3倍、術式の出力は1.3倍となっている。

【固形大気】の盾と違い、防御力の上昇は【穿】の攻撃を防ぐことができる。


 その恩恵でロキエラの連撃はどれも内臓に届く前に止まっていた。


 その違和感に早くも気付いたロキエラが不可解そうな顔をする。


「お返しだよッ!!」


 次の瞬間、僕の体はロキエラの正面まで飛んでいて、その拳は既に準備を完了していた。



 すぐにレイピアを突き出すロキエラ。

 同時に指を鳴らすと、彼のレイピアは僕の左手に当たると何の抵抗もなく貫いた。


 これがスキルっ……。

 防御力3倍をこんなに簡単にぶち抜くなんてホント、ふざけてる。





 ()()()()()()()()()()



「残念だったな」


 貫かれた左手をレイピアごと握る。

 更なる激痛が襲い掛かり、顔が苦痛に歪むも、それどころではない。


 グッと力を込めるとレイピアはいとも簡単に粉々に砕けた。


【レーヴェ】は【ヴァッサーマン】の(つい)となる能力である。


 即ちその力は攻撃力の3倍化。


 いくら保護魔法を施したところで圧倒的な握力の前には意味をなさず、豆腐が握り潰されたかのように、あっさりと砕け散った。



「これで丸腰だなァ!!僕がオマエをぶっ倒してやるよ!」


 厄介なものは壊した。

 これで彼のスキルが使えなくなる、などとは思ってないが、それでも丸腰は丸腰。

 使い込んだ武器を壊されれば、どこかに狂いが生じる。


 リーチも攻撃も防御もいくらか隙が出るだろう。




 ()()()()()()()()鹿()()()()




 そもそもの獲物の破壊という判断自体が間違っていた。




「思考の方向性はよろしい。ですが予測の方向性は大外れです」




 魔力の波が吹き荒れる。

 今までは小波程度にしか感じられなかった彼の威圧感が一気に増し、冷や汗がダラダラと全身を流れ落ちる。


 理屈ではない。

 本能が、既に避けようのない危機を察知していた。


「おい……何したんだ」


「教える義理はありませんが、いいでしょう。私がしたのは『契約魔法』です」


「どういう、ことだ……」


「先ほども言いましたが、教える義理はありません。それはこれから貴方が学園で習うことですしね」


 そう言ってロキエラはレイピアを下段に構える。

 が、その手がわずかに緩み、彼は再び口を開いた。


「ですが、後学のためにも貴方が負けたらお教えいたしましょう。どうですか?敗北の宣言は許可いたしますよ」


「するわけねえだろ」


 ……契約魔法か。

 知識としては知っている。

 貴族として、魔法使いとして、それ以前にこの世界の住人として、知っておかなければならない知識としてサディークが力説していたのを覚えている。


 内容もしっかり覚えているのだが、それでも疑問を感じずにはいられなかったのは、その力の変化だ。


 契約魔法とは、契約を結び、何かを差し出すことを前提とした魔法のことだ。

 それはいい。

 別にスキル以外の技術を使ってはいけないルールなんて無い。

 だからその使用については問題ないのだが……。



「一体……どんな契約したんだよ……」


 静かに、それでいて一部の油断も隙もなく獲物を構えるロキエラ。

 その瞳に一切の迷いはない。


 その不動の目を捉えて、僕は感嘆の息を吐く。

 ああ、これが……


 一瞬、下段に構えたレイピアがキラリと煌めく。


 刹那の出来事。

 体に違和感を覚えて腹部に視線を向ける。



 そこには抉り取られたような穴が開いていた。


 これが、強者か。



「私の契約は、自身にレイピアの使用を強制すると共に、レイピアがある間、私のステータスとスキルの出力を全て1割低下させる代わりに、レイピアが他人に壊された時、ステータス値とスキルの出力を2倍にするというものです。……幻獣種と天獣種の戦いにしては良い方でしたよ。誇っていただいて構いません」


 何か言われている気がするが、うまく聞き取れない。

 視界がぐにゃりと歪み、吐き気と眩暈を催す。


「か、はっ……」


 吐血し、みるみるうちに、その場に大きな血の池が出来上がった。



 カシャァアアンと何かが割れる音がして、暗かった世界に光が差し込む。


 すでに敗北は悟っている。

 世界の崩壊と共に解除される数々の術式。


 術式併用の負担軽減を行う【クレープス】の容量を超えた無茶な術式の使用によって、立つこともままならなくなり、膝をつく。


「【日蝕(サン・エクリプス)】……」


 ステータスボードを見るまでもなく分かる。

 魔力がもうない。


 戦闘用の術式を全て解除して【日蝕(サン・エクリプス)】で治癒を始めるが、治りきるかどうかかなり怪しい。


 一応急所は避けてくれたようだが、それでも穴は穴。

 当然、放置すれば死に至る。


 だからあまり使いたくなかった術式にも手を出す。


「【自星のともし……(エトワー……)】」


 手が止まる。

 同時に魔力が霧散する。

 徐々に視界が狭窄し、瞼に暗い帷が降り始める。

 わずかに見えていた景色がぐらりと傾いた。

 しかし、痛くない。

 その安堵によって優人はかすかに笑って意識を手放す。


 倒れる直前、僕を包んだのは温かい天使の抱擁だった。


<豆知識>

天野竜聖が生み出し、使う代償魔法は契約魔法とは異なります。

相違点はいくつかありますが、大きな違いは代償魔法の方が規模が大きいのと、代償魔法で失ったものは2度と戻ってこないという点です。

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