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星使いの勇者  作者: 星宮 燦
第三章 星と悪童
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3ー34 強者の矜持

<ロキエラ視点>




 私は久方ぶりの高揚感に身を預けていました。



 今年で(よわい)70を迎えるこの老体、この命、そしてこの人生は、この世に生を受けたその瞬間から持っていた特別なナニカによって支えられていたと言っても過言ではないものでした。


 祝福の儀で初めて、自分にスキルという特別な力があることを自覚してからというもの、おおよそ一般市民とは思えぬ生活が始まりました。

 儀式の翌日に、ただの一般市民だったにも関わらず国王様に呼び出され、家族全員に泣きながら別れを告げられて処刑覚悟で登城すると、あれよあれよという間に歓待されて城で働く側仕え見習いという役を仰せつかり、側仕え見習いなのに騎士団と共に鍛えられました。



 家族とは否応なく別れさせられ、2度と会えない仲になってしまいましたが、それを差し引いたとしても私の生活は充実していたと思います。



 起きて着替えたらすぐに城の清掃。

 それが終われば短い朝食をとり、すぐに訓練場に向かう。

 そこで訓練をしている騎士の方と訓練をして、昼まで修練。

 昼食後には側仕えの方から礼儀作法と側仕えとしてのノウハウを教わり、夜は今日習ったことの自主練。


 10歳にも満たない子がやるような量ではなかっただろうが、それでも私はやりました。

 私が努力を続ける間、私自身と私の家族の衣食住が保証されたからです。


 それに、何よりも楽しかったのです。

 自分に、他の人にはない特別なチカラがあることが。


 そして、日に日にそれを自在に操れるようになることが。




 ですが、その感動も心の熱もひと月も経つころには薄らいでいました。


 強くなりすぎていたのです。


 貴族の方々ーー特に騎士を志されていた方々は幼い頃から厳しい修練を積まれていたはずです。

 必死の努力が実を結んで、ようやく騎士団に入団できたという方も、実際にいらっしゃいました。


 にも関わらず、私はその数十年の努力を【穿】の一文字で乗り越えました。


 たった一つ、全てを貫通するという、たった一つの極点の力で彼らの努力を、プライドを粉々に砕きました。




 だからこそ、私は強さを求めました。


 彼らの努力をスキルという才能で打ち砕いた者として、私には強者でい続けるという義務があります。

 彼らに勝った者として、私は誰よりも強くあらねばなりません。




 私は来る日も来る日も、迷宮に潜り続けました。


 今思えば、罪悪感から逃れたかったのだと思います。

 人の努力を嘲笑うかのような力を持った、()()()()()()()罪悪感からです。


 彼らは私という理不尽に怒らなかった。

 寧ろ私の成長を仲間のように喜んでくださいました。

 私は平民の部外者だというのに。


 その気遣いがより一層私を苦しめました。

 その優しさから、更なる罪悪感を負ったのです。




 数十年後、アルトムート様が国王の座に就かれ、王政は一気に変化を遂げました。

 アルトムート様はスキルを持っておられたのです。


 それも、私のように生まれながらのものではなく、努力によって手に入れたものでした。

 私にはあのお方が眩しかった。


 私のような、才能(バグ)という一種のズルではなく、完全なる努力の結晶で出来上がった芸術品。

 その上、アルトムート様のスキルは強かったのです。



 ただただ貫くという、単純明快な強さを誇る私のそれとは違い、複雑怪奇な繊細さを持つアルトムート様の【足跡解釈(ヴァーサイゴ)】は勇者という私以上の理不尽を知るまでは、私が唯一負かされると思ったスキルでした。

 非戦闘系のスキルにも関わらず、攻撃こそ最大の防御を体現するかのような、超攻撃系の私の力を超えてみせられました。

 あの時の感動と言ったら、もう語るまでもないでしょう。

 罪悪感を抱え込んでいた私にとって、自身より高みにいる人間の存在は殊の外大きかったのです。



 そして本日。

 私が胸裏で何度も望んだ梶原優人との決闘が行えました。

 私を打ち破ったアルトムート様をもって、いずれ最強に至ると言わしめた彼の実力はきっとスキルだけのソレではないでしょう。

 武力、知力は勿論のこと、精神力、忍耐力、集中力、判断力、思考力、統率力。

 その(ほか)数多(あまた)の力全てを以て(もって)、彼はいずれ最強と成るでしょう。




 今はまだ弱い。

 私にとって彼を倒すのは赤子の手を捻るようなもの。

 造作もないことです。



 ですが、



 ()()()()()()()()()()()()()



 私に弱者をいたぶる趣味はありませんが、彼の潜在能力(ポテンシャル)は見ておきたいのです。

 何度も言いますが、彼は()()弱い。

 ですが、その素質は大いにあります。


 私に挑んだ時点でそれは分かりきったことです。



 格上に対してのらりくらりと逃げ回るのは弱者の行動です。

 勿論、それが策ならば逃げは正解の行動ですから一概に言うことはできませんが、少なくともただの訓練で逃げ回る者は、その者の能力がいかに高かろうと素質は皆無です。


 ですが彼は挑んだ。


 サディークは無駄だと言いました。

 それにもかかわらず、今も果敢に攻めています。

 彼の瞳は諦めを知りません。


 それが素晴らしい。



 ほらご覧なさい。

 また新しい技です。


 彼に限って手抜きは無いでしょうから、先ほどの攻撃は牽制と時間稼ぎでしょう。


 ……やはり。また強くなった。



 本気でやると言った以上、私もそろそろ決着をつけねばなりません。

 私はアルトムート様の筆頭側仕え。

 (あるじ)の威厳のためにも、万が一にも敗北の可能性を見せられるわけにはいきません。


 勝つべくして勝つ。




 さあ、私に見せてください。

 貴方の本気を。


 そして、魅せてください。



 私は今、たいへん高揚しています。


なんとなく、ロキエラ視点描きたいなーって思って書いたエピソードです。

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