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星使いの勇者  作者: 星宮 燦
第三章 星と悪童
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3ー32 王の片腕

さて、そろそろ戦いたいな。

 デートの翌日からは厳しい授業が始まった。

 前々から言われていたことではあるが、そうとわかっていても厳しすぎと言わざるを得なかった。

 フェルテ曰く、貴族の子女、特に王族に近ければ近いほど学力が求められるらしい。

 理由は当然、メンツ。


 僕らは一応、男爵という扱いなのだが、異界の勇者という肩書きを持つ。

『召喚された特別な者』という特殊な立場で、言い方を変えれば選ばれた人間とも言える僕らが低得点を取るわけにはいかないらしい。

 フェルテは僕らの立場を守るためだと言っていたが、本音は多分、ヴァイスターク王国のメンツだろう。


 ……まあ、なんでもいいけど。



 具体的には算学から始まり、魔法学、神学、歴史、それから食事の際にはロキエラが食事作法の講習。

 高校の授業と同じーー否、どう考えてもそれ以上の勉強を強いられている。

 己が選んだ道ではあるのだが。


 魔法学が楽しいことだけが勉強の楽しみだった。

 他は正直、逃げ出したかった。




 大体2週間くらい、王都に来てから3週間くらいたったころにフェルテは勇者を残してフレーデンに帰っていった。

 僕らの面倒を見るために結局3週間ほど滞在したが、既に滞在予定期間を大幅にオーバーしていたらしい。


 元々僕らの学園入学は予定になかったことで、アルトムートに仕事を押し付けられすぎない頃を見計らってさっさと帰るつもりだったようだ。


 勇者も一緒に帰る予定だったのだが、勇者は全員ここに残った。

 フレーデンよりも明らかに活気があり、その上王都という箔がつくこの街から第三都市に帰る意味は勇者になかった。


 フレーデンに残した物が無い彼らは、あっさりアルトムートに寝返った。


 フェルテは従者と一緒に寂しく自領に帰ったのだった。


 めでたしめでたし。







 授業を進めるのはアルトムートの文官の1人で宰相メイドルファスの親族であるサディーク。

 サディーク・オ・ザインという伯爵家当主にいる人で、領地を持たない貴族。

 それから、王都で生まれて王都で育った根っからの貴族らしい。

 だが、悪い人ではないようだ。


 まあ、性格に難があれば王族の側近になんてなれない。

 その話に嘘は無いだろう。

 そして、予想に違わず丁寧な授業をやってくれた。

 にもかかわらず理解が遅かったのは僕らが異世界人で、常識がないからだろう。


 因みに、カンニングは公認だが、あくまでバレずに、だ。

 カンニングは不正入学のためのふざけた措置などではなく、非戦闘系のスキルを持っている者がその力を発揮するための措置だ。

 公認と言いながらもしっかりと試験官が監視するので、よっぽど学力が足りていないバカでもない限り、スキルがないのにカンニングはしない。


 魔法はすぐにバレる。

 もし試験官にバレないレベルで行使できるのなら、それはそれで入学で構わないという方針だ。




 試験に必要な座学が一通り終わると次は実技の訓練が始まる。

 座学が終盤に差し掛かったあたりで非戦闘系スキルの勇者はスキル取得の宝玉を買うか、魔法を学ぶか決めるように言われていたからか、すんなり授業は始まった。


 座学の魔法学で魔法の発動の理論は全員学んでいる。

 そのため、理論上は皆んな魔法は発動できるはずなのだ。

 だからこれから迷宮に行く。

 サディーク曰く、「出力が足りないなら魔力量でカバーすればいい。魔力量が足りないならレベルを上げればいい。最後に、技術が足りないなら努力すればいい」らしい。


 座学で学んでことでは、出力不足は技術で補って無駄を省き、魔力が足りないんなら魔力だけを増やす訓練をする。


 技術がないなら量で押し通すと考えるあたり、サディークは文官なのに案外脳筋なのかもしれない。



「君達が魔力制御覚えるには時間が足りませんからね」


 ……あ、脳筋じゃない。時間がないからこうしてるだけだ。


 ただただ効率を追い求めた結果だったようだ。



「君達を連れて行く迷宮はアルトムート様から御指定があり、迷宮都市ディアーナにある小さめの迷宮です。連れて行くのは私ではありませんが、勝手な行動は慎むように」


「監督するのは誰なんですか」


 榊の質問にその場の全員が同意するように頷く。




 もっとも、文官であるサディークが迷宮探索に同行するとは初めから思っていなかった。

 だが、流石にこの展開は予想できなかった。


 おそらく騎士団の誰かが同行するんだろうな、と思っていた。


 だが、サディークに呼ばれて入室したのは見覚えのある1人の老人だった。



「お久しぶりでございます。国王アルトムート様の命により勇者様方の実技講習を申しつかりました、ロキエラでございます」


 そこにいたのは毎日の食事の時に講師を務めた老執事、ロキエラだった。




 ***




「侮るのはやめておきなさい。王の片腕であるロキエラは異天児という、稀にいるスキルを持って生まれた方なのです」


 こちらの心を見透かしたような言葉がサディークから届いた。


 そう言われると戦いたくなるのが勇者の(さが)

 これは是非とも手合わせしたい。


「レベルは天獣種の103。攻撃系のスキルを持つロキエラに勝てる勇者はここにはいないだろうから手合わせしようなどという考えはやめておきなさい。万が一にも勝てないでしょう」


「ロキエラ様、僕と手合わせしてください」


 この空気をぶっ壊すのが僕の流儀。

 躊躇いなくピリピリした雰囲気をぶち壊していく。



 温厚な雰囲気を纏っていたサディークの目が一瞬鋭く光り、剣呑な雰囲気が場を支配する。


 暫しの静寂。

 息が詰まりそうな強烈な視線の中、僕はじっとロキエラの目を見た。


「私はかまいませんよ、サディーク」


 鋭い目つきを何事もなかったかのように元に戻したロキエラがいつも通りの声色で答える。

 そしてくるりと身を翻して扉に向かって歩を進める。


「サディークも勇者の皆様も行きますよ」


 その声にハッとして慌てて皆んなで彼を追いかける。


 移動の最中(さなか)、自然な足取りで僕の横に並んだロキエラから小声で忠告が聞こえた。


「期待してますよ、優人様。アルトムート様がいずれ最強になり()ると断じたその力、とくと見させていただきます」


「期待していてください。僕は格上のあなたが相手でも勝つ気で戦います」


「ええ、強者は常に本気でなければ。……最後に忠告です。私のスキルは【穿】。全てを貫く力です」



ってことで次話はVSロキエラです。

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