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星使いの勇者  作者: 星宮 燦
第三章 星と悪童
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3ー31 親友の友達

「きっ、キスしてたっ!キスしてた!」


 小見山紗夜は盗み見ていた。


 本来見えないはずの遥か上空での出来事を、わざわざ遠見の魔術具を使ってしっかりと捉えていた。


「知ってたけどっ!知ってたけどぉ……」


 優人くんと純恋ちゃんが両想いなのは知っていた。

 初恋が終わるずっと前から知っていた。


 でも直接見たのと見ていないのとでは受ける衝撃がぜんぜん違った。



 自分の恋が決して実らぬものだと知っていながらも自分なりに距離を縮めようと頑張ったけど、それでも今見た光景が自分では届かぬものだったことを見せつけられる。


「でもなぁ〜」


 好きだ。

 優人くんのことが。


 でも、ハーレムを作って欲しいわけじゃない。

 もし優人くんがハーレムを望む人なら紗夜は優人くんから離れると思う。

 だって、紗夜が好きになったのは誰かに一途な人だから。


 いろんな女の子に手を出す人を好きにはならない。



 好きな人と両思いになりたいと願いながらも、自分が抱える矛盾に頭を悩まされる。



「紗夜どうすればいいんだろ」




 ***




「それで俺のところに来たって?」


 紗夜の対面のソファーには、苦虫を噛み砕いたような顔をした蒼弥がいた。

 自分の訪問があまり歓迎されてないことがよく分かる。

 が、小学校からのクラスメイトである自分にその程度の態度の悪さは意味を成さない。

 彼の部屋に乗り込んだ紗夜は堂々とソファーに座り込んだ。



 迷った紗夜の出した結論は、蒼弥に相談するというものだ。


「いやさあ、優人と純恋さんのことは気づいてたし、小見山さんの気持ちもなんとなく察してはいたよ?うまくいかないことも予想してたけどさあ、俺に恋愛の相談相手が務まると思う?っていうかなんで俺なの」


 九重蒼弥は大変困っていた。

 恋愛経験がない俺になんでコイツ相談なんてしようと思ったんだろうな。

 俺に相談するくらいなら、純恋さんの自慢話を多少聞かされることになってでも、遥香さんに聞いた方がマシだと思うんだけど。


「紗夜と昔から知り合いだから」


「ま、そんなことだろうと思ったさ。それしか理由ないもんな」



 俺と小見山の接点なんてその程度だ。

 特別親しいわけでもない。

 ただただ小学校から縁が続いているというだけ。

 進学直後は同郷っていう理由で顔見知り以上友達以下程度の関係にはなったけど、その後は別にそうでもない。

 最近優人と行動を共にするようになって少しだけ話すようになったくらいだ。


 女子の恋愛事情、それも中途半端に振られたやつの恋愛相談を受けて良いことはないし、俺にできることはない。

 面倒ごとが増えるだけだ。



「…………ん〜」


 だが、本気で困っているように見える彼女をこのまま追い返すのも気が引ける。

 仮にも一緒に帝国まで行った仲。

 流石にそこまで非情にはなれなかった。


「……何があっても俺に怒るなよ」


 追い出したい気持ちを抱えながらも、結局相談に乗ることにした。


「怒るなら元凶の男を呪え」


 ついでに自分も、面倒が来る原因となった男を軽く呪った




 ***




「どうしようもないだろ」


 九重くんはそう言った。


「俺目線でも、優人と純恋さんは両思い。アレが別れるところは想像できないし、想像したくもない」


 紗夜もそう思う。

 その一途なところもかっこいいんだもん。


 ……そうじゃなくて!


「紗夜はどういう立場に立てばいいの?ふられた紗夜が友達みたいな立場にいていいのかな?」


「そばに居づらいって?」


「うん」


「別にアイツそんなこと気にしねえだろ」


 その確信がないから困ってるんだよ!


 紗夜だって近くにいられるなら居たいよ。

 彼女になれなくてもせめて友達とか、頼れる仲間とか、そんなのになりたいよ。

 でもどんな顔して会えばいいか分かんないじゃん!


「もし優人くんに迷惑だとか思われたら……」


 そのことがとにかく怖い。

 好きな人に拒絶されるのが怖い。

 優人くんが優しいことは知ってるけど、万が一を考えたら前に進めない。

 だから……



「……優しい優しい俺が愚図な旧友にありがたい言葉を教えてやろう」


 ピリッと空気が張り詰めた。

 その雰囲気の変化に思わず顔を上げて目を見開く。


 ……怒ってる?


「お前は優人とおんなじだ。今のお前を見てると昔のアイツを思い出して虫唾が走る」


「……それってどういう……」


「自分で考えろ。優人は前に進んだぞ」


 入学式の時の優人くんのこと……?

 紗夜が優人くんと同じ?

 あんな目をしてるってこと?


 要領が掴めない。

 いくら何でも紗夜は昔の優人くんほどは落ち込んでない。


「……ごめん、言いすぎた」


 悩む紗夜に少し気落ちしたような九重くんの声が聞こえた。

 危なっかしい雰囲気の消えた、夏の海みたいに穏やかな瞳が紗夜の目を捉えた。


「旧友からの忠告だ。お前の周りにお前を拒絶する奴はいない。もっと他人(ひと)を信じろ」


「……ほんとに?」


「……お前ってそんなビビリだったか?」


 なぜかいきなりバカにされた。

 紗夜はビビリじゃないもん。


「だって負けヒロインは物語から消えていくから」


「勝手に登場人物にならないでくれる?」


 すかさず九重くんが突っ込む。

 だが、


「え?」


「は?」


 微妙な空気が流れた。

 紗夜、何か変なこと言ったかな。


「マジで言ってる?その……負けヒロインは居たらいけないって」


「でも実際にいづらくなるじゃん」


「そうかもしれないけど、その結論にはならんだろ……。いいじゃんか、居ても」


 ……そうなの?


 これが読書の弊害というやつか。

 今年で16歳、初めての発見。

 負けヒロインは居てもいい。



「もっとわがままでいいと思うけどな。友達なりたいならなればいいし、優人が諦めれないんだったら出来るとこまで足掻けばいい。離れたかったら離れてもいい」


「わがまますぎないかな?」


「このくらいでいいと俺は思うけどな」


 相談してよかった。

 あのまま紗夜1人でで考え込んでたら、きっと良くない方向に進んでいたはずだ。

 九重くんが優しい人で本当に良かった。



「友達……じゃなくて親友ってどうやったらなれるかな?」


「親友になりたい?」


「ケジメはついてるし、純恋ちゃんの邪魔もしたくないし。だから親友。どうしたらなれるの?」


 本にはなかった。

 そんな記述。

 親友になる方法なんて知らない。


 それでもなりたい。


 そんな紗夜を見て九重くんは小さく笑ったように見えた。



「優人の親友の友達は親友だろ」



 九重くんはそんなおかしな理論を堂々と言い放って、今度ははっきりと笑った。


「だったらいいね」


 そのよくわからない理論に紗夜は苦笑を浮かべた。

 自分がほんのちょっとだけ変われたことに本人は気付いていなかった。


本当は紗夜も彼女にしたかった!

でも残念ながら作者がハーレム嫌いなんです!


本編には全く関係ない設定ですが、紗夜、蒼弥、蓮斗は小学校からの知り合いです。

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