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星使いの勇者  作者: 星宮 燦
第三章 星と悪童
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3ー29 その過去がどうであれ

 城の鐘が時を告げる。

 一種の魔術具である城の鐘はきっかり8度硬質な音を響かせて道ゆく人に夕暮れを知らせた。

 次々と店が閉まり、灯りが消えて、今度は上階に灯りが灯る。

 上階にある家に帰ったのだ。


 日本のように定時退社が決まっているわけではないが、多くの店が8の鐘を合図に店を閉める。

 何故なら、これ以降は利益が見込めないから。

 そして、鐘が次に鳴るのは2時間後の20時だから。


 時刻がはっきり分かって、その上それなりの利益の出る限界の時間に仕事を切り上げて明日に備えようというわけだ。



 工場から10歳を過ぎたばかりのような背丈をした少年が数人飛び出し、大通りを駆け抜ける。

 夕陽はなく、しかし暗いとも言えない絶妙な光を保った街は、今にも夜の帳が下りそうなこの時間も活気に満ち溢れていた。


 ヴァイスターク王都、ゼトロノームはまだ明るい。

 6時を過ぎた今も、はっきりと道ゆく人の顔を視認できるほどの明るさを街は保っていた。


 だから指を絡ませて、見るからに幸せそうな雰囲気を醸し出して歩く2人の男女は人々の目に留まった。




 梶原優人と綾井純恋。

 共に異世界召喚に巻き込まれ、多くの理不尽と不条理に苦しんだ。


 多くを失い、嘆き、悲しみ、絶望を知り。

 それでも尚互いを望み、愛の女神ハルトホーネの導きによって結ばれた1組のカップル。


 共に愛し合い、共に同じ道を歩むことを望んだ2人。



 その過程(プロセス)は違えども。

 その過去(ストーリー)は違えども。


 2人は同じ道に帰着した。


 それまでの道がどれほど荊に塗れていても、今の彼らには確かな『幸せ』の形があった。




「私、今とっても幸せです」


 そう言って純恋は僕の方に身を寄せる。

 僕の指に自分の指を絡ませたまま、はち切れんばかりの笑顔を見せてくれる。


 その仕草すらも愛おしく、僕は今すぐ抱きしめたい衝動に駆られると同時に、その笑顔が自分だけに向けられていることに微かな満足感を覚えた。


 ……僕って独占欲強いのかな?


 例えそうだとしても純恋は変わりなく好いてくれる、という確信に近い自信はあるが、そうではない。

 僕が驚いているのは自分の独占欲の強さだった。



 確かに、ラノベでお馴染みのハーレムは嫌いだし、誰かを好きになるなら一途でありたいとは思った。

 だが、独占欲の有無は別の話だ。


 嫌われることも離れられることも恐らく無い。

 でも困ることはあるだろう。



 そう考えたところで告白の時、2人で交わした言葉が脳裏をよぎった。

『いいんですか?私で。私多分独占欲強いですよ?もう一生離れませんよ?』

『僕も独占欲強いなら問題ないだろ。2人とも相手が大好きなら、それで最高のカップルだ』


 そういえばそんなことも言ったな……


 純恋が同じくらい、或いはそれ以上に僕を好きでいてくれるのなら、僕を大切に思ってくれるのならば。

 今の僕でも良いかもしれない。


 独占欲は悪いもののように言われるが、そもそもそれは恋愛感情。

 相手を愛する気持ちの表れとも言える。


 それが現れるくらいに愛せるということは、少なくとも不和になる可能性は皆無だろう。


 むしろ吉兆だ。



 この恋は僕らが共に失った平穏を、幸せを、夢を。

 取り戻してまた歩みを進めるためのきっかけ。



 互いを望んで、求めて、そして手を取りあった。

 自らが失ったモノ全てを取り戻すために。



 そこまで考えたところで、僅かに笑みが漏れた。


「どうかしましたか?」


「いや、何でもない」


 純恋のことが好きすぎて……なんて事、言えるわけがない。


「何か心配事でもあるんでしたら私に話してくださいよ?1人で抱え込まないでくださいね。心配です」


 彼女に秘密を作って、隠そうとする彼氏に文句の一つも言わずに、そうやって心配してくれることが何よりも嬉しくて。

 それだけ僕を想ってくれていることが何よりも嬉しくて。


「大したことじゃない。たださ、純恋が彼女でよかったなあ、って」


 今度は迷うことなく本心を伝える。


 純恋への想いを全部込めて。


「ありがとう。僕も今、とても幸せだ」




そろそろ戦いが書きたい……ってことで恋愛ストーリーはあと1話+余談!次は学園入学までのレベルアップです。組織の介入が増え、謎が一気に高まるパートに突入です!!

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