3ー27 鑑定の魔術具
僕たち日本人にとっていこの異世界の物はとにかく珍しい。
国が違えば文化が違う。
ならば、世界が違えばそれ以上のことが違うのは自明の理だろう。
実際、地球の国々と比べるとこの世界では言葉も文字も宗教も違うし、それどころか生物の身体構造まで異なって、魔力とかいう電気と全く違った別種のエネルギーを保持している。
そして、独自の無限のエネルギーを用いて発展してきた。
それも召喚された者が、この世界は遅れていると一概に言えないくらいに。
ここには電化製品はないし、車や電車といった移動のための道具はない。
しかし、それらを魔力から作られる魔術具で代用し、身体強化魔法や回復系統の魔法で肉体性能の底上げや疲労回復によって長距離の生身での移動を可能にした。
それに、一部の高位魔法使いやスキル持ちが使う転移魔法や転移スキルは現代の乗り物の価値を大きく凌駕する。
それだけの価値を秘めている。
ダラダラと話したが結局のところ、この世界には現代人が欲しがる物が掃いて捨てるほどある、ということだ。
それは今魔術具店にいる僕らにも当然当てはまり、ぶっちゃけると店の物全部買い取りたくなるほどだった。
ただ、全部を買い取るだけのお金は持ち合わせてないだろうし、効果が重複した物もあるだろうから無駄になる物も多いだろう。
ならば何を優先させるかという話なのだが、真っ先に思いついたのは鑑定の魔術具だった。
「いいですよね、あれ。私も欲しいです」
無くしちゃったんです、と純恋が苦笑いをする。
もらった物をうっかり壊すとかではなくてただただ無くすとは珍しい。
これでも純恋は高校ではしっかり者だったのだ。
発言の端々にうっかりしたポンコツなものもあったが、基本的にはしっかりしていた。
その彼女が無くすとは珍しい。
同じく無くした僕が言えたことではないが。
「鑑定の魔術具なら向こうにあるぞ。種類があるから好きなのを選べばええ」
そう言って連れてこられた棚にはレンズが付いた魔術具ばかりが陳列していた。
メガネ型の物や箱型の物、球状の物、モノクル型まで置いてあり、とにかく品数が豊富だった。
「ここらにあるのが鑑定の魔術具じゃが……ところで金はあるんじゃろうな!?ワシが負けてやることは絶対にないぞ!いくら相手が子供でもきっちり金は置いて行ってもらう!!」
いきなり初対面の人にキレるのはやめていただきたい。
なんだ?最近強盗にでも遭ったのか?
それで必要以上に客を警戒するようになったとか?
「お金ならありますよ。変なことはしないのでそんなに警戒しないでくださいよ。僕はズルが好きじゃないし、ルールはきっちり守ります」
つい最近まで金欠だった僕らだが、王都に来てからはそれなりにお金を持っていた。
その中で最も多かったのが帝国戦参加に対する礼として渡されたお金だ。
あの戦いにおいて、勇者は厳密には独立部隊だったのだ。
ヴァイスターク王国と隣国のルーンゼイト神聖国の協力要請に応じて2カ国に協力したに過ぎない。
だから客人へのもてなしと、これからもヴァイスタークを贔屓にするという国の下心から大金を受け取っていたのだ。
その金額はなんと小金貨10枚。
この世界での正確な効果の価値は聞いてないが、ずっと前に平民の兵士の月給が大銀貨2枚と聞いたからそれを30万……いや、平民の給料は低いし、計算が楽だから20万と仮定すると大銀貨1枚が10万円。
硬貨の価値は10倍ずつ上がるから、小金貨が100万で大金貨が1000万くらいだろう。
つまり、もらったお金は大体1000万円くらい。
大金貨一枚で渡さずに小金貨10枚で渡したのは、使いやすいように、という気遣いだろう。
大金貨は平民街は勿論、貴族街の店でも使いにくい。
それだけでなく、ギルドでの換金もなかなか出来ない。
大金貨で渡されていたら記念硬貨に成り果てていたことだろう。
今はギルドで換金を済ませて小金貨5枚と大銀貨50枚に変えている。
その時視界に映った球体が僕の目を引いた。
イルテンクロムの時の球体と似た、赤い炎が中に宿ったような半透明な球体だった。
「これなんですか?これも鑑定の魔術具ですよね」
「あぁ?それは補助スキル取得の宝玉だ。一生使えるから一番高いぞ」
つまり純恋達の【インフェルノ】みたいなものが手に入るってこと?
え?これほしいな。
「いくらなんですか?」
「小金貨1枚だ」
……マジ?これ一個で100万すんの?嘘だろ?え?何、ワンチャン詐欺?
そんな馬鹿なって言いたいけど純恋達のインフェルノを見たら案外アリな値段に見えるんだよなあ。
大銀貨数枚くらいなら買おうと思っていたが、小金貨は迷う。
どうしようかな。
とりあえず他の店を回ってみるのもアリだな。
「とりあえず保留にします。後で決めることにしますよ」
結局保留にすることを選んだ。
「私も……もうちょっと考えます。軽々と使える金額ではないので。それより他に見せて欲しい物があります。案内をお願いしてもいいですか」
純恋も同じように保留にしたようで、申し訳なさげに言うと、今度は別の物を指さした。
純恋は鑑定の魔術具をエラルシア城の自室に置きっぱなしにしています。本編には書いてないですが。