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星使いの勇者  作者: 星宮 燦
第三章 星と悪童
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3ー19 集団カンニング

「来たか。その辺の椅子に適当に掛けてくれ」


 会議室にまで書類を持ち込んだフェルテは目を上げることなくそう告げた。


 本気モードになっているのか、彼の右目にはモノクルが装着されており、いつも以上に邪魔しちゃいけない雰囲気が醸し出されていた。


 ……ご愁傷様。頑張って。




 召集されたクラスメイト18人全員が椅子に着く。

 そこでようやくフェルテは顔を上げてペンを置く。

 すぐさま側仕えの人が書類と筆記用具を回収すると後ろにあったワゴンにそれを置く。


 それからワゴンからティーカップを取り出すと全員の前に紅茶を用意した。

 これが普通なのか、この側仕えの人が殊更優秀なのか。

 実に気になる。


 それにしても手慣れてんなあ。

 側仕えの人も頑張って。






「では先に学園のことよりも、帝国戦の事後処理について話しておく」


 それは僕も気になっていた事だ。

 あの後僕らは遅れて到着した軍の指示に従ってローデリアに即帰還した。

 他の都市の攻撃もうまく行ったようで一応、ロルニタ帝国は滅亡という形になる。


「そこまでは良いのだがな、どうも帝国の内情に不審な点がある。まず、帝族の部屋と思われる場所が埃を被っていた。つまり、あの国は帝族ではない何者かが支配していたことになる」


 となると勇者か。

 あの謎の板を出していたのがボスかは分からないが、少なくともあれは幹部だろう。


 幹部以上であって欲しい。

 じゃないと敵は僕らが到底太刀打ちできない高みにいることになる。


「とはいっても、それ以上のことはまだ分かっていない。だからまあ、お前らはその事を一応知っておいてくれ」


 まあそうだろうな。

 僕はあの板の攻撃についての一切をヴァイスタークに伝えてない。

 不確定要素の大きすぎる曖昧な情報は混乱を招くだけだと思ったからだ。


 だから、国もそのくらいの事くらいまでしか分からないだろう。




 実際のところ、フェルテはあの謎の敵のことについて一切知らなかった。

 だが、アルトムートは【足跡解釈(ヴァーサイゴ)】の過去を見る力で板の存在は確認していた。




 だが、絶対的な知識把握を可能とする【足跡解釈(ヴァーサイゴ)】を用いても、アルトムートは敵を把握できなかった。

 つまり彼よりも圧倒的な格上、もしくは妨害・隠蔽に優れた敵がいるということ。


 この異常事態に対しアルトムートは一切を隠すことにした。

 理由は優人と同じく混乱を避けるため。


 そもそも彼のスキル所持はこの国でも極秘情報であり、知っているのは弟たちと自身の妻くらいだ。

 自身の子にすら言っていない情報筋から得た情報を勇者や他の臣民に伝えられるわけがなかった。

 しかも不確定で未完成な情報となると尚更だった。


 というわけでフェルテは一般兵士が知っている情報以上を何も知らない。


 だからフェルテは知っている事を包み隠さず話したとしても、大した情報は持ってなかった。




「まあ、そこまで気にすることはない。まだ確定したことは殆どないし、君らの力に頼る事態はそうそう起こらぬ」


 フラグっすか?

 絶対当たるパターンじゃん。

 何人かが胡散臭そうな目で見てるよ。


「ここからが本題だ。ラフィカノー王国にある魔法学園に入学希望するものは残ってくれ。希望しない者は帰ってくれて構わない」


 そう言うと、待ってましたと言わんばかりに西田と長利が立ち上がり、続いて安田と佐藤2人と国光がが立ち上がってそのまま退出した。



 残った勇者は12人。


「ちょっと多いな。もう4人くらい減って欲しいところなんだが」


 フェルテの呟きを耳ざとく聞き分けると宮原が行かない事を宣言する。

 まあ、学園に行ってもスキルはコピーできないだろうしね。

 迷宮を他の勇者と巡ってエラティディアのようなスキル持ちを見つけてコピーする方が余程効率的だ。


「もう3人」


「だったら俺抜けます」「私も抜けるから」


 律儀に挙手してから2人席を立つ。

 東雲と藤井だった。


 礼儀正しく礼をした2人もそそくさと部屋を出て、残ったのは9人。


「1人オーバーくらいならいいんじゃないのか……んですか」


「言い直せてないですよ優人くん」


 いいじゃんか、そのくらい。


「そうはいかぬ。ありがたいことに今回はお前ら勇者のために特別に席を用意してもらっているが、流石に全員分の席は用意できなかったらしい。それに全員行くとは限らなかったからな」


 ということは、用意できた席が8席しかないのか。


「8席しかないので8人が限界ということだ」


「なんか……くじ引きでもする?」


「どうせなら誰かの能力で決めたくね?」


 蒼弥の一言に全員が賛成を示す。


「だったら誰がいいって話になるけど……宮守の【奇跡煌淵(ラピスメノウ)】とか紗夜の【絶対領域(ヴァルネガイア)】とかか?あ、あと奏もできるか?」


 純恋も【奇跡煌淵(ラピスメノウ)】を持っていた気がするが、補助スキルのはずだ。

 普通に考えて補助スキルの力がオリジナルに勝つわけないんだから、純恋が何かをする必要はない。


「だったらアタシやっていい?私殆どこの力使ったことないから久しぶりに使いたくて」


 宮守加那。

 スキルは【奇跡煌淵(ラピスメノウ)】。

 その力はランダムで奇跡を起こすこと。


 あまり詳しいことは知らないが、本人が奇跡の方向性だけ決めて、後はスキルが勝手に動くらしい。


「まあいいんじゃないか?完全ランダムならセコいことも出来ないだろうし」


「私も賛成です」


「俺も」


 僕に続いて数人が賛成の声を上げ、残りも頷くなどして賛成の意を示す。


「んじゃあやるよ。【奇跡煌淵(ラピスメノウ)】!」


 部屋が金の光で包まれてその後結界で部屋が二分される。

 部屋の中央に膜が出来てそれを境に部屋にいた人間が分割される。



 そして、



 外れたのは奏だった。

 一瞬、何が起きたのか分からないというふうにポカンと放心状態に陥った奏は次の瞬間、信じられないという風な顔をする。

 ハブられた本人は絶望を顔に貼り付けて机に突っ伏し、呻き声を上げた。



「ま、これで決まりだな。奏もいいか?」


 まさかここでゴネることはないだろうが、一応聞いておく。

 だがその心配は杞憂だったようで、顔を上げた奏は軽く数回頷いた。


 その視界の端で当の宮守が少し青ざめていたのが妙に頭にこびりついた。



「それではメンバーが決まったところで、これからだ。当然、勇者といえど試験はある。試験はあからさまにバレなければスキルと魔法を使って良い。それも実力のうちだからなバレたら追い出されるが、あからさまでなければ見つかっても問題ない。なんせ学園が『露骨に能力を行使しなければ能力を使用して良い』と言ってるからな」


 何それ。

 学校公認の集団カンニング試験?


 学校も共犯(グル)の集団犯罪じゃん。


「ちなみに、答えの共有はアウトだ。他者との魔力の繋がりが探知された途端、追い出されるからな」


 何その変な決まり。

 いや、まあやりたい事は分かるけどさあ……。


「試験はそれほど難しくない。以前学園に通ったという勇者はスラスラ解いたらしい。スキルの恩恵かもしれんがな。まあ、過度に緊張する必要はない」


「フェルテさん、試験の科目は筆記だけという事ですか?」


 最近、フェルテの呼び方を『フェルテさん』に変えたのだ。

 理由は貴族としての面目と僕らの爵位が『男爵』で彼より低いからだ。


 それに、いくら勇者といえども国に喧嘩を売れば貴族からの反感を買う。

 まあつまり、争いを避けたかったという事だ。




「試験は算学の筆記と簡単なアンケートだな。アンケートは基本、何と答えても構わない。答えが狂気を孕んでいたら別だがな。それから後は、実技だ。スキルの使用は『可』だから攻撃スキルがある者は問題ない。だが、攻撃系のスキルを一切持ってない者は簡単な魔法をこれから教える。迷宮で魔物を倒して攻撃系の補助スキルを得てもいいのだが、確実性に欠けるからな」



 それはそうだろう。

 攻撃系の補助スキルなんて幻獣種の僕だって持ってない。

 純恋と遥香に【インフェルノ】はあげたからな。


 そんな不確実なものを頼って勇者の不合格を得るわけにはいかないんだろう。

 国が勇者を支援して、その勇者が不合格などすれば国の面目は丸潰れだ。


「というわけで、明日から試験まで実技の訓練とバレないようにスキルを使ったり学力を上げるぞ。基本的に私が面倒を見る。それでは解散!」


 こうして勇者の勇者による勇者のための特別講義が始まったのだ。




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