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星使いの勇者  作者: 星宮 燦
第三章 星と悪童
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3ー16 召喚の謎

ヴァイスターク国王・アルトムート視点



「それから、謎になっていたエルリア王国で起こった今代の勇者が大量に召喚された件についてもいくらか分かったことがある」


「なんだったのだ?」


 意外にも、メイドルファスはこの件に興味を引かれたらしい。

 別に面白いことでもなんでもないのだが。


「大した理由ではないぞ。単に、ロルニタ帝国の捧げた生贄が多すぎたという話だ」


 簡単に言えば、帝国のミスだ。

 必要量以上の(にえ)を捧げて、陣に取り残された余りの贄が大量の異世界人を呼んだというわけだ。


「思ったより単純だったのだな。気付かぬ私が馬鹿のようだ」


「それでは私も阿呆だな」


 フェルテの発言で苦笑が漏れる。

 例に漏れず、自分も阿呆だった。




 ところで、


「……我が国ではここ数十年召喚の儀を行なっていないが、召喚は神代の間で行われる……よな?」


 そうだったはずだ。

 私は実際に召喚をしたことがないので忘れがちな知識なのだ。


「よな?と言われてもな、私はそのことについて習っていない。王族のみの授業内容だったはずだ」


 そうだったか?

 そう考えたらそうだった気も……?


「当たり前だぞ、兄上。勇者召喚など極秘中の極秘事項だ。侯爵ごときに教えられる代物ではない」


「今の罵りは無意識か?」


「さあどうだろう?」



 メイドルファスの言うことはまあ、間違いではない。

 確かに気軽に普通の貴族には教えられない。

 使い方次第では国家転覆もあり得る。



「召喚は……」「待てアルトムート!」


 今から説明というところでフェルテが口を挟む。


「今侯爵に教えてはいけないと言ったばかりであろう。行動に気をつけるんだ」


 普通の貴族なら黙っておくだろうに。

 何も言わなかったら極秘情報が手に入ったぞ。

 代わりに信頼は失うがな。


 本当に慎重な男だ。


「私は話してもいいと思うが?ただの侯爵ならいざ知らず、其方は我らの親族だ。王弟()が良いなら王の義弟(フェルテ)も問題なかろう」


 それでいいのだ。

 学園でも、貴族に伝えるのを堅く禁じられたわけではない。

 禁忌というわけでもないしな。



「儀式が行われる神代の間はこの大陸にある主要国全ての星の間と繋がっている。まずこれが前提だ。召喚を行う神代の間にはどの国からも入れる」


 つまり、ロルニタが使った召喚の魔法陣とエルリアが使った召喚の魔法陣は同じなのだ。

 だから帝国の(にえ)の残り香がエルリアの勇者大量召喚の媒体となった。


「間には各国の監視の魔術具が置かれており、身勝手な者がでないようにしていた」


「ふむ。ここまで聞いて思ったのだが、神代の間を経由して他国へ攻め入れるということか?……その逆も(しか)りだが」


「いや、習っていない其方は知らぬだろうが、神代の間と城の中継部屋に星の間というものがある。簡単に言えば絡繰迷路だ。正しい手順で進めばすぐに行き来出来るが、間違った手順を踏むといつまで経っても目的地に着かないような迷路だ。王族が継承する魔術具が進行方向を教えてくれるのだが、残念ながら時たま道が変わる。星の神アゼプシュトリウの悪戯とされている現象だ」


「その悪戯とやらのお陰で侵攻を心配しなくても良い、ということか」


「そういうことだ」


「因みに兄上が迷路の中で道標となる魔術具を無くしたらどうなるのだ?」


「一生迷子だ」


 とはいえ、星の間で迷子になった間抜けの話など聞いたことがない。

 それに、道標を無くすほどの間抜けは大体衣服と魔術具をガッチリ固定している。

 だから間抜けな王でも迷った事例など無い。



 というか、さっきから話題が逸れてばかりいる。

 このままではいつまで経っても話し合いが終わらぬ。

 強引に戻そう。


「それで、召喚は十数年おきに各国で交代で行われる。交代で行う理由は無論、力の均衡を保つためだ」


 初めからスキルを使える勇者は強い。

 どこかの国が独占したら勇者によって国が滅ぼされる。


 ……だが、それ以前に召喚にかかる魔力が馬鹿にならないからな。


 一国で独占などしたくてもできないだろう。


「なぜそこまで頻繁に呼ぶ。別に勇者が必要な事態は起こってないだろう?そもそも勇者は対魔王のための存在だったはずだ。今はなぜ呼ぶのだ」


 王族以外の貴族がどこまで知っているのかと思ったら、勇者関連のことは殆ど教えられてないのだな。

 魔王についても知らないように見える。


「魔王は死んで無いぞ?封印されているだけだ。だから封印が解けた時のために勇者を召喚している。それから勇者を頻繁に呼ぶ理由は、勇者が魔王と組むことを防ぐためだ」


「魔王と!?どういうことだ!」


 やはり知らなかったか。


「『呪いの勇者』というのを知っているか?昔、魔王と組んでこの世界を滅ぼそうとした(やから)だ」


「名前だけは知っている。実際に何をしたかは知らぬ」


「私も知らんぞ。王族の講義でも習った気がしないが、いつ習ったんだ?」




「【足跡解釈(ヴァーサイゴ)】」


「そう言えば持っていたな。スキルを」




 私はスキルを持っている。

 補助スキルでは無い。

 正真正銘の本物のスキルだ。




 スキル・【足跡解釈(ヴァーサイゴ)


 その力は過去の読み解き。

 あらゆる痕跡を媒体に過去にあったことを知識として知ることができ、さらに過去の出来事に直接関わるものに残っている痕跡を媒体に、その過去の痕跡をいじることで過去を改変する。


 過去を変えるということは現在も変えられる。

 つまり、現実改変の力だ。



 天獣種に至り、この力を手に入れたのが3年前。

 そこから私は隙を見つけては各地へ赴き遺跡や古都を巡り、過去を変えた。


 ちなみに、勇者梶原と初めて会ったのはフェルテの娘のルーナの地方訪問に同行させてもらって古都に移動している時だ。

 あの時私は後ろの荷馬車で騎士に紛れて移動していた。


 いくら平民用の馬車でルーナが移動していたとしても、万が一窓から顔が見られでもしたら身が危険に晒される。

 特に、古都や遺跡などの建物の残骸が残っているような場所は盗賊のアジトになりやすい。

 そのため、近くを盗賊団の人間がうろついていてもおかしくなかった。

 そして、万が一でもバレないように細心の注意を払って移動して、街道で出会ったのが勇者梶原と綾井2人だった。


 まあそれは置いておいて。



 既に森の中の廃墟となっているが、遺跡にはちゃんと争いの痕跡があった。

 昔、ここでヴァイスターク王国軍とロルニタ帝国・エルリア王国連合軍がぶつかり、多くの人間が犠牲になった。

 だから来た。



 戦争の過去を変え、戦争で死んだ人間を生きていることにすることで、現在の人口を増やした。

 そして戦争で我が国が負った負担が消えて現在の国力が増加。

 ヴァイスタークは人口増加の影響もあって、かなりの発展を見せた。



 ……む?話がズレてる気がするな。確か呪いの勇者の話だったな。



 話をさっさと終わらせよう。

 もう集まってから半の鐘が過ぎそうな頃だ。


 眠い目を軽く擦ってあくびを噛み殺した。




 さてここからは真面目な話だ。




「呪いの勇者は300年前くらいであったか?その頃に召喚された勇者だ。本名は中山善。そして、呪いの勇者の二つ名で呼ばれた者だ。ああ、別に彼が呪われていたわけではない。寧ろ悪いのは我々で召喚された男は無害な男だった」


 本当に、これ程まで悲劇の英雄の名に相応しい者はいないだろう。

 召喚したのはヴァイスタークではないが、罪悪感を感じる。


「どのような者だったのだ?まさか……」


 ああ、それであっている。

 彼に罪は無かった。


 世界を救うと心に誓い、


 それなのに世界に、国に押しつぶされた者。



「彼のスキルは【呪】」


 2人の息を呑む音が聞こえる。


「その力は対象を呪殺すること」

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