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星使いの勇者  作者: 星宮 燦
第三章 星と悪童
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3ー12 記憶 終わり

 翌朝の教室は異常だった。


 僕が部屋に入った時、クラスメイトから送られて来たのは非難めいた眼差しと冷ややかな目、それから嘲笑だった。

 ざわついていた教室に一瞬で静寂が広がり、息苦しい空間に早変わりした。


 部屋の隅で僕を睨みつける者。

 仲良し同士でチラチラこちらを見ながら声を潜めて会話する者。

 そして、ただただこちらを見て嗤う者。


 明らかに自分に向けられたものだとわかるが、全くもって身に覚えがない。

 分からないものは仕方ないので、手に持っていたスマホを机に置くと、そのまま鞄も下ろして朝のルーティーンである読書を始める。

『本好きの下剋上』というタイトルの異世界ファンタジーのラノベだ。

 最近よく読むお気に入りのシリーズで、電子書籍でも読める。

 まあ、僕は書籍で読むのだが。


 本好きにならわかる人も居るのではないだろうか。

 電子書籍よりも紙の書籍の方が読んでる感があるし、紙の手触り感が良いのだ。



 バコッ!!



 前の方からいきなり黒板消しが飛んできて、3日前に買ったばかりの新刊を汚す。

 不幸中の幸いに、綺麗な黒板消しだったため、真っ白にはならなかった。


 が、この横暴には流石に少しイラッとした。



「おい。大切な本傷ついた気分はどうだよ。良い気分か?」


 そう言って近付いてきた名前を知らないクラスメイトは僕の本を床に落とす。


 なんだコイツ。

 頭沸いてんじゃねえのか?


「生意気なテメェの持ち物なんてこの程度のゴミなんだよ!」


 そう言いながら床に落ちたままの本を踏みつける。



 なんとなく察したかもしれないが、はっきり言ってこの学校は治安が悪かった。


 上階から机椅子が降ってくる程ではなかったが、教科書やら筆箱やらはしょっちゅう降って来ていた。

 不良は跋扈(ばっこ)するし頭の湧いてるような格好をしているギャルもいた。

 流石に中学校だからか、長期休暇でも妊娠するような救いようのないクズはいなかったが、不良もギャルも漫画の産物だと思っていたので、初めて見た時は驚いたし、忌避した。


 授業中にゲームするわ授業に関係ない話平気でするわでそれはもう酷かった。

 あまりの酷さに教師も半分黙認していた部分があった程だ。

 そういう奴らは授業参観でも怠惰なので母校が好評を得た話など聞いたこともなかった。



 そんな母校が嫌いだった。



 その魑魅魍魎(ちみもうりょう)跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)する終わった中学に在籍していた僕はと言うと、校内で希少な優等生だった。

 残りわずかの優等生の枠に僕程度が収まっていたのだ。


 そこが普通の中学だったならば、ただの生徒としてしか認識されなかったであろう僕が優等生として存在できた。

 もはや末世である。



 そんな学校だからこそ、油断があった。










 失望したよ。



 本当に。




「お前、石田さんに告白して振られた腹いせに殴ったんだってな。教室で泣いてたらしいぞ?」


 何を言ってるんだと聞くと、そう返って来た。



 全部、察せれた。

 なるほど、一昨日の振られた腹いせか。


 なるほどなるほど。


 それにしても僕が告白とはな。


 僕がアイツに好意を寄せているように周りに見えたのならば心外だ。



 でも、そうだな。

 イライラするな。




 ーーとはいえ。




 怒れども、理性はある。

 違和感はすでに感じ取っていた。


 ご本人の石田紗耶香が居ないのはいい。


 こういうバカな計画立てて僕を陥れておいて、怖くなって仮病ーーまあ、ありえない話ではない。


 ーーが。


 昨日は早めに帰った。

 だが、確かにクラスでは『石田紗耶香が梶原優人に告白した』という認識が広まっていたはずだ。


 それなのに、なんだ?


 なんで今更僕が告白したことになる。



 最後の涙。

 あれは何だったのか。


「石田紗耶香……」


 お前は一体何をした。




 一日中そのことばかりを考えていた。


 そして終礼が終わって帰り支度を済ませて校門を出たまさにその時。



「ざまあないな」


 聞き飽きた声が耳朶(みみたぶ)を揺らした。


「……なる、ほど」


 察した。

 なんとなく全てを。


「お前だな、堀川泰河」


 お前がやったんだな、これ全部。


「動機は?」


「石田紗耶香だよ」


 ーー意味が分からない。なぜお前が怒る。


「お前みたいな底辺があの人に告白されて!それで断った!?巫山戯るのも大概にしろ!俺含めてあの人のことが好きな人は五万といんだよ!!」


「あっそ」


 心底どうでもよかったのでスマホを取り出していじり始める。


「おいおいそんな余裕かましていいのか!?こんな時までスマホ触って!お前、明日から人権ねえんだぞ!奴隷だからなァ!」


「ここまで吠えると小物感が増すだけだ。もう黙れ」


「うるせェ(クズ)が!」



 もしかしたら、(ある)いは、初めは純粋な恋心だったのかもしれない。

 初めはこんなことをする予定は無かったのかもしれない。


 でもお前はそれをやった。


 僕はその過程なんか気にしない。


 あるのは僕を失望させた事実だけ。



「……残念だ。本当に」


「ハッ、俺は清々するぜ。お前はこれからいじめの的だ。もう終わりだよ、お前。ジ、エンドだって」


「ペラペラとよく喋る。よほど僕のことが怖いらしい」


「俺が、お前を?ハハッ!アホも度が過ぎると賞賛だな。状況考えろよ、状況を!お前は!クラスの標的!な!?」



 まあいいさ。

 お前との『お友達』の関係は今日で終わり。

 ただそれだけだ。



 ……にしても。ハハッ。




 やはり友達ほど信用ならないものはない。




 ***




 その日から僕に執拗ないじめが始まった。


 教師でさえ黙認するほどの荒れ度の学校だ。

 当然、正義を背負う生徒は現れず、その度合いは日に日に増していった。


 学校にはいじめについて報告した。

 どうせ何も変わらないと分かってはいたが、一応伝えた。


 まあ、辛くはない。

 過度な暴力を振るった奴には制裁を下したし、トラウマも植え付けてやった。

 煩わしかったが、元々感情と表情が死んでいる僕にとっては些事だった。



 毎日教材が消え、しょっちゅう制服が洗濯物行きを喰らってもまだいじめっ子たちに呼び出しも相談もない時点でお察しだ。

 学校に現状改善の意思はなかった。



 結局……というか案の定、僕の訴えは黙殺された。


 親に相談、という手段もあったのだろうが、ただでさえ家族仲が悪いのにここで親を頼る判断だけは採りたくなかった。

 それに、洗濯物が毎日異常なほど汚れているのに何も僕に聞いてこない時点で、相談は無意味だと判断した。




 ()()()()()()()()()()()()()






「プレゼントですよ。先生」


 馬鹿だ。


 本当に大馬鹿だ。


 頭の悪いクズども揃いも揃って頭の出来が終わってる。


 悪知恵が働く小悪党ならまだマシな結果になったかもしれない。

 だが僕の周りに集うのは欲求に身を任せて他者を貶めるだけの間抜け。

 堀川泰河含めて相手にもならない。



 殴れば、蹴れば、隠せば、捨てれば僕が泣いて縋るとでも思ったか?

 甘いな。

 甘すぎる。




 優等生って何か知ってるか?

 まさか優等生をイコール真面目な奴らとかって思ってたりはしないよな?



 優等生の称号は隠れ蓑。

 グレーなことをするときに周囲の信用を買うための水面下の準備。



「梶原くん?なんですか、これは。何か祝い事でもあったから?私の誕生日でもないし……」


「違いますよ。もっと大事なことです」


 誰がアンタに誕生日プレゼント渡すかよ、間抜け。

 頭沸いてんじゃねえの?


 幸せそうでなにより。

 ハッピーにしてるのはお前の頭だけだけどな。


「最近いじめが煩わしくなってきたんですよ。だから、いじめっ子摘発の証拠です」


 いやあ大変だった。

 いくら相手が間抜けでもあからさまに証拠集めするわけにはいかないし。

 イカれた連中ばっかだから、バレたら証拠消すし。

 しかも盗むとかじゃなくて普通にスマホ壊して隠滅しようとするし。



「いじめの証拠ですよ。預けるのでどうにかしてください。あ、僕も持ってるのでちゃんと然るべき機関に提出するなりしてくださいね。じゃないと僕の方から送らせてもらいますから」


 しっかり脅迫。


 お前らが隠避好きなのは知ってる。

 そして、我が身可愛さにすぐに保身にかかることも知っている。



 保身と隠蔽。

 その両立が不可能なとき、お前らは必ず……


「話は分かりました。これ以上のいじめは見過ごせません。学校の方から教育委員会に連絡します」


 だろうな。

 お前らは必ず保身を優先する。

 だって、たかが生徒のために自分の人生はかけられないから。

 教師というものは、ただの『仕事』だから。




 ーーさて。


 手は打った。

 学校は必ず動く。



 ならもう詰みだ。


 退学は無理でも、相応の罰はくだるだろう。


 最低でも泰河の人生は終わりにしてもらいたいところだ。




 ***




「よお、間抜け」


 中学校の門に向かって歩いてくるのは上辺だけの旧友だった。


「なんだよ、ドブカス」


「ダセェな、ボロボロになって。転校するんだって?」


「ああ、そこを退けよ」


「ハハッ、じゃあな」


 そう笑ってやると、泰河の顔が怒りに歪む。


「これ以上何か言ったら殺してやるからな」


 ハッ、誰がそんなの怖がるかよ。


「尻尾巻いて逃げてみっともねえな」


 そう言い放って校舎に向かって足を進める。


 そのとき、背後で地面を蹴る音が聞こえた。


「死ねよクズが!!」


(よえ)ぇなお前」


 軽く拳を躱すと、背後に回って腕を捻った。

 それだけで完封。

 いくらなんでも弱すぎる。


「じゃあな。もう2度と会わねえから」


「死ねよクズアホ間抜けドブカスがぁああああああッ!!」


 堀川泰河の最後のセリフはこれだった。

 

過去を思い出したら自分の性格も終わっていた件

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