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星使いの勇者  作者: 星宮 燦
第三章 星と悪童
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3ー10 だからこそ、

 どうにもああいった場所は居心地が悪い。


 1人で大広間をこそこそと抜け出した優人は小さくため息をついていた。


 本好きで、他者との関わりを最低限にしていたせいか、それともあの事件のせいか、いつも大勢が集まる場所を自然と避けていた。

 おそらくはその両方だろう。


 あの出来事は僕の心に大きな溝を作った。

 今更あれを悲劇だ災難だ、と騒いで弱者ぶる気は毛頭ないが、それでも今まで忘れようにも忘れられないくらいにはしっかりと刻み込まれた記憶だった。


 本当に皮肉だな。

 大切な事はすぐ忘れるのに、あんなどうでも良いことだけは今でもしっかり覚えてる。


 孤独で虚ろだった心の色だけは皮肉にも、今も鮮明に記憶に突き刺さっていた。








『独りぼっちは悪いことなのか』




 ボッチだボッチだと騒ぎ立てる学生諸君にこれを聞きたい。



 毎度毎度独りを嘲り、小判鮫の如くーーいや、それは小判鮫に失礼かーー強者に張り付いて所構わず胡麻をばら撒く奴らはどの学校にも一定数いるが、なぜそうしてまで強者に媚び(へつら)う。

 なんで確固(かっこ)たる自分をもとうとしない。

 なぜ勝手に社会の枠に自分から嵌りに行って自分の枠を狭めようとする。


 ついでに言うと、そんな奴に限ってなんで自分の責任を悲しい運命のように語ろうとする。

 自分で嵌りに行った場所だろう。

 責任くらい持つべきだろう。


 それをさも自分は悪くないという風に、宿命だ運命だ天運だ、と勝手に責任転嫁しようとする。




 そういうヤツらが嫌いだった。

 そしてソレが自分と同じ人間だと認識して、同族嫌悪をした。


 ただただ、『自分』のあり方を自分で決められる者を妬んだんだろう?

 自分より優れた者を許せなかったんだろう?



 自分が望んだ形を持つ者を、その努力も辛さも知らないまま否定したかったんだろう?



 だから社会という集団となって数の暴力で『個』を圧殺する。



 独りじゃいられないから、

 誰かが側に居ないと自分の形を生み出せないから、


 社会という反則(チート)を使う。


 数で白を黒にする。


 本当はそこに黒も白も存在しないのに。

 身勝手な感情で理不尽に個人を色分けする。



 そんな奴らが心の底から嫌いだった。





 そして、自分のソレを否定しきれない自分を更に深く嫌悪した。






 最寄りの広いベランダに出て、そこにあった白い豪奢な椅子に腰掛ける。


 灯りの少ないベランダから見えた城下の家々の灯りを見て暫くぼんやりと物思いに耽る。



 今日の街の夜景も美しかった。



 少なくとも、修学旅行の東京で見た鬱陶しいくらいに燈された高層ビル群の明かりよりは美しかった。

 光の量は明らかに劣っているが、この国の夜景には温かさがあった。


「綺麗だなぁ……」


 明かりを見て温かいというのもおかしなことだが、それでもただ光量を()ぎ込んだなだけの風景の何倍も美しいと思った。




「純恋も……そう思う?」


 背後に向かって振り向くことなく問いかける。

 背後で扉がガタンと大きな音を立てた。




 彼女が尾行してきていたのには気付いていた。


 随分と気をつけて足音を忍ばせていたようだが、残念ながら僕は常に周囲を空間探知で把握している。

 広間を出て20歩の時点で尾行だと確信していた。


 なんたる無駄足、なんたる徒労。

 尾行するんだったら30メートルは離れるべきだったな。

 尤も、そこまで距離を取ったらどこかで見失っていただろうが。


「こっち来たら?」


 ローテーブルを挟んで反対側にある椅子を指さして、入り口の柱の影に向かって問いかける。


「あの………ごめん、なさい」


 観念したのだろう。

 項垂れた様子で予想通りの人物が顔を出した。


「別に怒ってないんだけど」


 本当だ。

 この程度で怒りを覚えるほど愚かでも小心でもない。


 それに、


「純恋と話したいこともあったんだ」


 入り口で項垂れたまま動かない純恋を強制転移させて椅子の前まで連れてくる。


 視線を向けると小さく頷いた彼女はゆっくりと腰を下ろした。


「話っていうのは……」


「僕の過去について。それを話さないと僕は純恋の気持ちには向き合えない」


 彼女の好意について。

 返事を妨げる面倒ごとはもうほとんど消えた。


 ならば、向き合わない理由はない。



 今日、決める。


 ーー否、今日決まる。



 返答次第では、もしかしたら今日から彼女と距離を取るようになるかもしれない。


 もう、仲間としての距離も保てないかもしれない。



 ()()()()()()()



 もしそうなるんだったら、なればいい。

 他でもない、僕自身の過去だ。

 自分の望み通りの返答を寄越せというのはただの傲慢であり、我儘だろう。

 どう思うかは純恋の自由だ。


 あとは僕の気持ちの問題。

 純恋は何も悪くない。



「いいんですか?辛かったりは……」


 ……やっぱり、気づいていたか。話しにくいことがあることに。


「辛かったら最初から話そうだなんて思わない」


「そう、ですよね」


 同情が欲しいわけでもない。

 共感が欲しいわけでもない。


 そんな偽りの心なんて聞きたくない。


 もしそれを返してきたら、悪いが彼女を忌避するだろう。



 でも。


 それでも話そうと思うのは、そういうことなんだろう。


 最後の警告だ。


「どうする?聴く?」


 ここで断ったら今までの関係が崩れる事はないだろう。

 ここで拒否するのも一つの手だろう。


 今まで築いた良好な関係がこれからも継続される。



 ただし、()()()



 決して更に深くはならない。

 ずっとこのままだ。

 彼女が望む未来はそこにはない。

 進化も退化もない、ただの現状維持。


 それでも、崩れる事はない。


「聴く?」


 傲慢な問いだ。

 自分勝手な考えを他人に強要する。

 でも、それでも、聞きたかった。


「聴きます」


 一泊置いて、真剣な光を目に宿した純恋が顔を上げる。



 うん。

 そうだよ。


 わかってたよ。

 君ならそう言うと思ってたよ。



 だからこそ、僕は君に恋をしたんだろうね。


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