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星使いの勇者  作者: 星宮 燦
第三章 星と悪童
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3ー8 叙爵

「この国に多くの勇者が(つど)ったことを祝って神に感謝を!」


 この言葉から式典は始まった。

 まあ、式典とは言っても目的は勇者と王族の顔合わせと今回の帝国戦の褒章受け渡しだ。

 別にそこまで堅苦しいものではない。



 ……いや、違うな。アルトムートがあんなだから堅苦しくないだけだな。


 最高位に君臨している王が適度にふざけるお陰で、貴族の間にも多少の無礼講的な雰囲気が流れているのだろう。

 エルリアの王ならばこうはならない。



 部下が部下なら王も王か。

 そして逆もまた(しか)り。

 もちろん良い意味で言っている。



「勇者全員に名誉男爵位を与え、特に活躍が著しかった者には更に何か願いを聞いてやろう」


 そうはっきりと言い切った後で慌てたように『常識の範囲内で』と付け加える。

 貴族の中で僅かに笑いが起こった。

 勿論、嘲笑ではなく微笑ましいものを見るような穏やかな笑いだ。


 いっつもこんなドジしてんのかなあ……


 それはそれで心配なんだが。


「さあ、勇者は前に出よ。そんな後ろにいては見えぬぞ」


 アルトムートの催促が聞こえた

 こちらを振り返ったフェルテも軽く頷いた。


 誰が先に出るのかという睨み合いに飽きた西田が最初に前に出たのを皮切りにぞろぞろとクラスメイト達が前に出る。

 ちなみにここにいる勇者はクラスメイトと奏だけだ。

 奏以外の帝国勇者はここにはいない。



「さて、ここにいる全ての勇者を名誉男爵とし、其方らの命が尽きるまでの爵位を与えよう」


『名誉』がつく爵位はどれも一代限りの爵位を指す。

 多くの場合輝かしい成果を残した冒険者に与えられ、子に受け継がせることのできない特殊な爵位である。



「では爵位を与え、彼ら勇者を男爵位を持つ者として我が国に歓迎する」


 実は、式典の前に爵位が欲しい者は誰かと聞かれたのだ。

『名誉』がつくとは言え爵位を持つということはこの国の貴族になるということ。

 そして、貴族になれば今までなかった柵が増える。


 爵位とはあればいいものではないのだ。


 例えば、僕ら勇者は一生この国の貴族としてこの国のために生きることを命ぜられる。

 完全に行動を制限されるわけではないが、できる限りこの国に有利なように動く必要がある。

 そして、僕らの場合は騎士団への入団か、ヴァイスターク王国直属の冒険者として働くか、どちらかを強要される。


 領主として生きる道も無くはないが、そのためには学園に通い、好成績を収め、アルトムートに勇者贔屓なしで認められ、『名誉』のつかない爵位を受けて世襲制の家を持たなければならない。


 難題が多すぎる。




 だが、


 とはいえ、僕も爵位は欲しい。

 貴族のデメリットばかりまとめて述べたが、当然メリットも大きい。


 貴族になると多くの特権が付いてくるのだ。

 それが欲しい。



 貴族としての義務も付いてくるが、それを差し引いたとしても貴族の位は魅力的な光を放つ。

 それに、勇者の称号に加えて爵位まであれば侯爵や公爵、王族といった上級貴族と関わりを持ちやすくなる。

 今の所この国から離れる予定はないから、伝手はいくらあっても困らない。



 ふと顔を上げると、叙爵したクラスメイトたちが順に礼をするところだった。

 思考から回帰し、すぐさま状況を把握してクラスメイト達に(なら)って礼をする。


「大陸の秩序を守った彼らに爵位を与えた!彼らは本日よりこの国の貴族である!」



 おぉおおおおおお……と歓声が大広間に木霊し、続いて拍手が沸き起こる。

 つられて僕の頬にも笑みが浮かぶ。



 僕の隣にいた純恋がそっと口元を僕の耳に近づけた。

 何を言うのかと思って僕の方からも耳を近づけて、


「おめでといございます。これからは優人くんに養ってもらいますね」


 冗談混じりにそう言われた。


 なんでだよ。


 僅かに膨らんだ期待が一気に萎んだ。




 ***




 叙爵の件は一旦終わりになり、普通のパーティーが始まった。

 とは言っても、ダンスパーティーなので僕らにできることはない。


 そう考えて壁際でぼーっとしているとフェルテが、王族への挨拶を忘れていると不気味なくらいにニコニコ笑顔で迫ってきた。


 ……あ、これキレてるやつだ。


 言われる前に全て察した。




 そのまま勇者全員でアルトムートの前まで連行され、跪くことになった。

 僕だけがっしりと襟を掴まれているのはなぜだろう。

 解せぬ。


「お初にお目にかかります、アルトムート様、アウレシア様、オルテノート様、アルメフィア様」


 フェルテに言われた通りに全員で声を揃えて挨拶を送る。


 実際のところアルトムートに会うのは初めてではないが、あれは彼の独断専行。

 正式に会うのは今回が初めてのため、挨拶が必要らしい。


 勇者全員で王族の名前を言うと、そのあとはフェルテが貴族の挨拶の定型分をずらずらと並べ立てる。


 たまに明らかに声が少ないところもあったが、それはまあしょうがない。

 僕だって子供2人の名前は忘れてた。

 このくらいはセーフだ。

 なにしろあからさまにバレたわけじゃないんだから。



 ……フェルテ採点なら完全アウトだろうなぁ。



 そんなことを考えているうちにいつのまにか王族から返事の定型挨拶も終わったようで、みんなが立ち上がった。

 それに合わせて僕も立ち上がり、さも話は聞いてましたという風を装う。

 大丈夫、バレなきゃ失敗じゃない。


 あ、フェルテがこっち睨んでる。

 もしかしてバレた?

 よくわかったな。


「先ほど言った活躍が著しかった者とは勇者梶原、勇者九重、勇者安田の3人だ。其方らには後で……今でも良いが、望みを聞く。考えておけ」


「今言っt……申しても?」


 言い直した後で、言い直さずにそのまま押し切れば良かったと思った。

 でも、そんなことはおくびに出さずにポーカーフェイスを貼り付ける。



「良い、言ってみろ」


 僕には目的がある。


ーーいや、違うな。ククッ、目的は冗談だろ。


目的じゃない。



『夢』だ。



この世界から理不尽を取り除く。


不当に殺される人を救う。

そして守る。


それからもう一つ。


「…………」




権力が()る。


それも、この国だけじゃなく世界ーーいや、せめてこの大陸で通じる権力が欲しい。



だがそれは無理だ。


「僕はこの大陸中で通じる権力が欲しい」


「却下する」


……だと思ったよ。


だってそれは"王"だけだから。


だから。



「知っています。だから、別のものをいただきたい」




二つだ。


まずはーー


「この世界の魔法を学びたいです」


「いいだろう。ミズガルズへの入学を申請しておいてやる。どうせ、入れるつもりだったからな」



強くなりたい。

遥か遠くにぼんやりと見える、大きすぎる夢を手に取れるくらいに。


この壮大すぎる戯言(たわごと)を口にできるくらいに。




そしてもう一つ。

王になれない僕が、権力を手にできる最大限。



「それからもう一つ。アルトムート様に後ろ盾になっていただきたい」



僕は強くなる。

夢を夢で終わらせないために。


そろそろ2度目の登場人物紹介しようと思います。勇者+ヴァイスターク王国貴族が増えた感じですね。ロルニタ帝国勇者もちょろっと紹介するかもしれません。

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