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星使いの勇者  作者: 星宮 燦
第三章 星と悪童
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3ー6 やばい奴

「この私がヴァイスターク王国の主だ!私を崇めよ!」


 それから何故か自慢げに胸を張る。

 対する僕らはポカンとして何も言えずにいた。

 それを自分に恐縮していると勘違いしたらしく、再びニヤリと笑って、


(かしこ)まらずともよい。私は勇者がどんなものか見にきただけだ。ゆるりとせよ」


 畏まるのは儀式の時だけで良いとはっきり言い切って軽く全員を見回した。


(おさ)は誰だ、話がしたい。居ないのならば構わぬが」


「長は決まっておりません。つい先日まで各自で行動していたもので」


 あんまりでしゃばるのもどうかと思ってしばらく黙っていたのだが、誰も何も言わないので結局僕が返事した。

 返事を返しながらチラリと自称王様の姿を観察する。



 髪は純白。

 長さは少し長め。

 後ろで金の髪留めで軽くまとめている。

 よく手入れされているようで艶があるのがわかる。

 こんなことを言ったら怒られるだろうが、女子の髪みたいだ。



 フェルテも結構髪が綺麗だったがここまでの艶はなかった。

 つまり、こいつの方が地位が高いんだろう。

 王というのもあながち間違いではないのかもしれない。


「ふむ、そうか。では其方が答えよ。まず初めに……ふむ、そうだな。私に名を当ててみよ」


 は?バカじゃねえの?コイツ。

 あ、間違えた。


 この方はどうやら頭がお悪いようです。


 言葉使いには注意しないとね。

 自称だけど王様だもん。


『アルトムートだ。アルトムート・フォン・ヴァイスターク。それが彼の名前。ヴァイスタークってことは間違いなくこの国の王だ』


 突如として奏から声が届いた。

 確か……念話っていう技だったと思う。


 って言うか個人情報ダダ漏れじゃん。

 別にこの国が個人情報に厳しいわけじゃないと思うけどさ。

 苦笑いを漏らしながら顔を上げて口を開く。



「アルトムート・フォン・ヴァイスターク様ですね。お初にお目にかかります」


 はっきりと答えてやるとアルトムートは意表をつかれたようで、僅かに目を見開いた。


「ふむ、当てたか。もしや、それがスキルの力というわけか?興味深いな」


 めんどくさいなこの人。

 さっさと大広間行けよ。


 そもそも何でここに来てんだよ。


「陛下は……」


「アルトムートでよい」



 そうは言うが、ここで馬鹿正直にアルトムートと呼ぶのはバカだ。

 これは『アルトムート様と呼べ』という意味だ。

 因みに、ここに着くまでの道中で教えられたことである。


 本当に貴族は面倒臭い。


「アルトムート様、この(たび)は何故こちらに?お忙しいのではありませんか?」


 言外に『勝手に来るな』と嫌味を込めて疑問を投げかける。

 城の主が私なんだから来るなと言われる筋合いはない、と言われるとそれまでなのだが、正直言って邪魔だ。


「そう邪険にするな。わざわざ大広間から遠いここまでこうして来てやったのだぞ?もう少し労うべきではないのか?」


「……」


 フェルテ曰く、この王様は偶に笑えない冗談を言うらしい。

 本人にとっては冗談の一環らしいが、こちらからするとどの反応が正しいのか分からないことを言うようだ。


 エルリアの王様(名前は忘れた)が厳格そうな感じの人だったので、その話を聞いた時は冗談を言う王様が思い浮かべれずに、フェルテ(コイツ)何言ってんだみたいなことを考えたこともあったが、なるほど、これは笑えない。



 素直に労えば良いのかそれとも適当に流せば良いのか。



 って言うか労うも何も、アルトムートが来なければ済む話じゃんか。

 もうさっさと出ていけよ。

 暇人か。



「忙しいのでは?」


「安心せよ。溜まった仕事はフェルテが処理する。見た目に反してあいつは私と同じくらい有能だぞ」



『見た目通りに私より有能』の間違いでは?

 それから、どこに安心できる要素があると言うのか。

 全く安心できない。



「フッ、そんなに私を見つめるな。私は既婚者だぞ」


 お前は何を言ってるんだ。



 と、そこでアルトムートが視線をあげ、勇者全員を見渡した後


「私はもう少し時間がある。話したいのなら遠慮なく話せ!」


 時間があるならフェルテ手伝えよ。

 いや違うな、そもそもそれはお前の仕事だろうが。



「おいアルト!」


「おう、なんだ!」


 呼び捨はやめろバカ。

 それからアルトムートも調子に乗るな。


「王妃ってどんな奴なんだよ」


「フハハハっ!やはり私の妻のことは気になるのだな」


 全く気にならんな。


「いいだろう。秘密のことだが特別に教えてやる」


 紙より軽い秘密だな。


「この世で一番美しい!私のカッコよさと釣り合う、いやそれ以上の美しさだ!」



 それは……当たり前じゃないのか?世界一の美女がお前のダサさと釣り合うわけないからな。

 もし釣り合ったらそれは美女ではない。


「どうだ?羨ましくないか?羨ましいと言うのだ」


 こんなところで嫌な冗談は勘弁してくれ。


 っていうか、誰かさっさとコイツを外に摘み出せ。




 そんな願いが通じたのか、扉が勢いよく開いた。


「アルトムートオォォオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 現れたのはフェルテだった。

 水色の正装に着替えていて、身なりがピシッとした代わりに少しやつれて見えた。

 この短時間で何があったんだ?


「なんだあの書類の量は!?其方は仕事をしているのか!?」


「そう慌てるな。なに、お前のために少し多めに仕事を残しておいただけのことだ」


人差し指を上に掲げ、キメ顔。



 コイツ……やべえ奴だ。



「取り組む人数が変わったのだ。振り分けを考え直す必要があろう?」


「つべこべ言わずにさっさと来い!其方がおらぬとなにも始まらぬ!式までに少し終わらせておかねば私が帰るまでに片付かぬぞ!」


 なんだか会話がフェルテの手伝い前提になっているのが酷だ。

 でもまあ、せいぜい頑張ってくれ。


 その間僕たちはフェルテの分まで王都観光を楽しむからさ。




 フェルテと連れてこられた騎士によって引きずられて去っていくアルトムートを見て、微笑を浮かべた。


「おいアルト!」は西田翔吾のセリフです。

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