3ー5 控え室にて
しばらく話ばっかりのエピソードが続きます。でも話ばかりでも結構面白いと思います。
「この部屋で待機だしておけ。じきに下働きの者が呼びに来る」
廊下の先にあった控え室に入った途端、そう告げられた。
「絶対に部屋から出るなよ。出たら……わかってるな?」
それが分からないんだなあ。
仕方ない、確かめてみるしかない。
「何でそこまで注意するんですか。そんなに僕が信用ならないですか?」
「ああ。全く信用できんな。本当なら魔法で縛っておきたいところだが、一応来客扱いするせいでそれもできん。私の心労が理解できるか?」
「すみません。全く理解できません」
でも、フェルテが疲れてることだけは理解できた。
よかったね、僕が理解が早い勇者で。
「全く……これでもし勝手にお前らがウロウロしていたら叱られるのは私なのだぞ。わかっているのか?」
「それなら僕らが動き回っても問題ないですね」
だって僕らは困らないんでしょ?
「馬鹿者ぉぉおおおおおお!!!」
相も変わらず愉快な領主さんだ。
話していて飽きることがない。
「はあ………私は着替えがある。其方らは今回は服装指定がないが、貴族にはあるのだ。時間がないので私はもう行く。くれぐれも不可解なことはするなよ」
もう何を言っても無駄だと悟ったらしく、深いため息だけを残して部屋を出て行ったフェルテ。
直後、再び扉が開き、フェルテが顔を覗かせる。
「私にも威厳というもの必要だ。貴族としての体面を守るためにも、王の前では言葉遣いを配慮しろ。大目に見てはもらえるだろうが、気をつけるに越したことはない。……それから絶対に、王にそんな口はきくなよ。これは領主命令だ。絶対に守れ」
フェルテは僕を一体なんだと思ってるんだ。
いくら僕でも王に向かってタメ口をきくほど愚かじゃない。
そのくらいの分別はあるつもりだ。
「それでさ、いつまで僕の手握ってるつもり?もう部屋に着いたんだけど」
「え!?え、えーーっと……そうです!この後一緒に式に行くんですから問題ありません!」
問題ないならなんだという話なのだが。
「そしたら可哀想な男子いっぱい生産されるな」
ほらみろ。
純恋がそんなこと言うから男子にめっちゃ睨まれてるじゃないか。
特に西田と宮原に。
まあ、告白紛いの宣言をずっとスルーと無視で決め込んでいる自分にも非があるとも言えるが。
これが終わったら真剣に向き合うかなあ……
正直向き合うのは辛いが、そうは言ってもずっと駄々こねて状況を停滞させるべきではないだろう。
自分だけが置いていかれるのは嫌だ。
そんなことを考えているとさっきまでこっちを睨みつけていた西田から疑問が飛んできた。
「なあ梶原。お前の能力結局なんになったんだ?俺ら殺してゲットしたくせに、なんになったか聞いてねぇんだけど?」
説明しろよと凄まれる。
そう言えばそうだったな。
【星】になってすぐ6人で城外に出て模擬戦やったからな。
なんだかんだ言って言う機会逃してたな。
別に隠していたわけでもないんだから言ってもいいだろう。
一応奏と純恋に視線を向けるが、2人とも気にした風はない。
「僕のスキルは【進化】で今の保有スキルは【星】。星のあらゆる現象を操るスキル。あんまり使ったことないし、どちらかと言うと操作が面倒なんだけど、一応自然現象も操れる」
そうなのだ。
一応、自然現象も操れるのだ。
例えば、氷とか雷とか。
勿論、火とか水とか風も操れる。
ただし、行使にかかる精神負担が大きいのだ。
優人は闇、水、火、雷、氷、風の六種類の加護があり、その中でも主神の加護を得ている氷や闇の力が強い。
そして、それに次いで雷と風そして、水が強い。
加護を与えているのが第一神だからだ。
そして、それらに僅かに劣って火が強い。
いや、この場合火が一番弱いと言うべきか。
とはいえ、あからさまに力の差があるわけではない。
火が弱いとは言っても第二神の加護を得ている。
十分強いの範疇だ。
だが、そもそも自然操作が負担が大きい。
それなのに、主神の加護持ちの氷はまだしも、それ以外は今はお世辞にも便利とは言えない。
魔力と精神負担がその効果と全く釣り合わないのだ。
赤字経営にも程がある。
因みに、自然操作に闇を操る力はないので闇は除外される。
と、言うわけで優人は未だに自然の力をほとんど使ってないのだ。
今のままでも十分強いと言うのが一番の理由というわけであるが。
「ふーん。で、どんくらい強いんだ?」
「出力は大分上がったな。操作が面倒になった代わりに火力が一気に上がった感じだな」
今みたいな西田は助かる。
たまにめんどくさいキャラになるだけで、根は結構良い奴なのだ。
「破壊技ばっかってことか?」
「そうだな。とにかく破壊する技が多いな」
全ての質問に正直に答える必要はない。
【日蝕】や【月蝕】の存在は隠し通す。
【小宇宙】内限定で使える【ユングフラウ】の類の技や、まだ使ったことのない残り二種の技についても黙秘する。
僕だって切り札くらいは用意する。
……って言うか、残り二つのうち一つは魔力不足でまだ使えないし。
目玉が飛び出るくらいに馬鹿げてる魔力消費量を誇る大技があるのだ。
皆んなにはまた今度紹介しよう。
そんな会話を繰り広げていたところ、いきなり扉が開け放たれた。
件の下働きの人が来たのかと思って振り返るが、違った。
入ってきたのはいかにも貴族ですと言うふうな豪奢な衣装をきた青年。
白を基調とし、金の刺繍が複雑に編み込まれているぱっと見で儀式用の正装だとわかるものだ。
素人目でも高級品だとわかる。
ズカズカと部屋に入ってきた彼はさっきまでフェルテが座っていた椅子にどっかと勢いよく座ると、ニヤリと笑って口を開いた。
「この私がヴァイスターク王国の主だ!私を崇めよ!!」
いきなり爆弾発言が勇者の間に投下された。
西田翔吾は不良っぽいところがありますが、理性と知性は一定以上あります。