3ー4 城の歴史
エスコートの件が一応の終わりになり、僕らは歩き始めた。
馬車は正面玄関前に止まっており、すぐ目の前に階段があった。
この城ーー名前はそのまんまで、ゼトロノーム城というらしいーーは4階建ての建造物らしい。
但し、一階は下働きの人たちが出入りする階なので公的には3階建てということになる。
平民の下働きが働く階層を1階分とは考えないらしい。
こんな些細なことからも平民蔑視の社会風潮が伺える。
嫌な世界だ。
まあ、この世界ではそれが当然みたいな雰囲気があるのだが。
白亜の大階段を1階分上がると白地に金の装飾を施した大扉が見えて来る。
何かの素材というわけではなく、創造魔法で作られたものらしい。
つまり、魔力が籠った扉というわけだ。
元は木と石でできた城だったらしいが、魔法の発達とともに創造魔法による城の創造が主流になってきた。
但し、どこの城も魔法製というわけではない。
そもそもの話、創造魔法が上級魔法に分類されていて、行使に大量の魔力を必要とする。
それを城のサイズで構築しようと考えると、その必要魔力量はとてもじゃないが一世代で用意できるものではなかった。
そのため、部分的な改修工事を行った。
まず王族の部屋を、そして次に、よく使われる大広間や会議室やお茶会室を…………と言った感じで順々に城を普通の素材から魔法製に変えていった。
それで、数世代かけて改修を終え、今から数えて100年弱前くらいの時に完成したらしい。
魔法による城の構築には一般素材にはない大きな利点がいくつかある。
当然だ。
でなければ、膨大な魔力と時間を使ってまで改修工事なんてしない。
幾つか長所はあるが、そのいくつか紹介すると、まず最初に、魔法素材部分は汚れない。
まあ、お茶をこぼしたからといってそのお茶が消えるわけではない。
シミがつかない程度のものだ。
それに、考えたくもないが血痕とかも綺麗さっぱり消えるらしい。
だから、その気になれば犯罪の抹消も出来るというわけだ。
ただ、誰でも出来るというわけではない。
城に供給されている魔力を消費して行う作業のため、王が直接儀式の間にて魔法行使をする必要がある。
その条件によって場内での事件抹殺は簡単に出来なくなっている。
それから二つ目。
素材そのものが魔力障壁やら結界やらを発動して、自動で城を守るようになる。
これが最大の特徴であり、城を魔法で作り替えた最大の理由でもある。
つまりは城の防御性能を上げるためだ。
今までの城だとあまりにも防衛が軟弱だったらしい。
なにしろ、木と石でできていたものだから、魔法をぶち込まれたらそのまま壊されるほどだったそう。
申し訳程度に城に常駐している魔法使いが防御魔法を使いやすいように補助魔法陣は敷かれていたようだが、それだけだ。
到底、敵から守ることなんて出来なかった。
それに、その設備だと城以外の施設を守れなかった。
城本体は僅かなら守れたが、城の外の王都は僅かすらも守れなかった。
故に城全体を巨大な魔術具のように作り替え、そこを中心に描かれた魔法陣に沿って王都結界を張れるようになった。
これが城改修の理由というわけだ。
街を守るならば真っ先に魔法陣と城の魔力を維持する核の部分を完成させなければならなかったのだが、そうはいかない。
貴族の体面という面倒な問題があるのだ。
平民が王よりも先に魔法の恩恵に与るなんて許されない。
王とは何でも真っ先に恩恵を得るべきだった。
というか、貴族の力のみで作られたのだから真っ先に恩恵を与るのは貴族で当然、ということになった訳である。
平民も貴族側の考えは至極当然のものだと考えたし、自分たちは何もしていないのだから文句は言えない。
それに文句を言ったところで、実際に作るのは貴族だ。
文句が有ろうと無かろうと、貴族の考え通りに事業は進む。
結果、大きな混乱も不満もなく、改修は進んだ。
そして100年ほど前、ようやく念願の新・ゼトロノーム城が完成したのである。
今も少しずつ他の城も工事が進められていて、先日第二都市の工事が終わり、もう直ぐ自慢のフレーデンの城が着工する。
そうやって少しずつ国は強く、進化していくのだ。
「ふう〜〜」
そうやって一通り城の歴史について語ったフェルテはというと、大きな満足げなため息をついて自慢げにこちらを振り返った。
自分の先祖の功績だからといって偉そうだった。
ちょっとウザかった。
「わかったか?この城がどれだけ優れているのかが。今話したことをよく考えながら、控室に着くまでこの城をじっくり見るといい。よいな」
「すまない。全く聞いてなかった」
勇者はほとんど全員長すぎて途中から聞き流していた。
具体的には『〜〜部分的な改修工事を行った〜〜』あたりから全部聞き流していたl
つまり、ほとんど全部というわけだ。
結果、フェルテは時間を無駄にした。
知ってて損はない。でも得も大してない。そんなレベルの情報です。