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星使いの勇者  作者: 星宮 燦
第三章 星と悪童
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3ー3 エスコート

テスカとの模擬戦の後は特に何もなく王都まで来れた。

偶に馬車を抜け出して模擬戦をやったが、それだけだ。

特に問題行動は起こしていない。



その脱走こそがフェルテの悩みの種なのだが、優人がそのことに気付く気配はない。

今日も苦労する可哀想なフェルテである。





さて、ここはヴァイスターク王国の王都、ゼトロノーム。

何だかメトロノームみたいな首都だな。

ずっとチクタクしてる首都みたいな?

音楽都市みたいな?


……何言ってんだ僕?





勇者の王都来訪はあまり周知されていないようで、王都の門を馬車で潜っても人は(まばら)だ。

正直に言うと、過度に歓迎されると疲れるのでこの配慮はありがたい。

やっぱりうるさいのは苦手なようだ。


もしかして到着を知らせ忘れたのか、とも考えたが、あのフェルテに限ってそれはないだろう。





「ふむ。到着の報告を忘れていたな。以後気を付けよう」


フェルテの呟きが優人に届くことはなかった。





王城前の最後の門を侯爵の顔パスで通過すると一気に視界が開けた。

目の前ではベルサイユ宮殿のような3階建ての巨大構造物が威風堂々とその存在を主張していた。


「着いたぞ。馬車を降りろ」


先に馬車を降りたらしいフェルテの声が聞こえた。

本来ならこの中で一番身分の高い侯爵は最後に降りなければならないらしいが、今回は勇者がいるので別だ。



因みに、勇者がいない平時に侯爵が真っ先に降りたら、礼儀知らずということで嘲笑の的になるらしい。

今回は特別だ。

勇者は異世界人のため、平民にも貴族にも分類されない。

だからこその特別措置。




フェルテの横にいた使用人らしき人が馬車の扉を開けて、改めて出てくるように指示をする。

馬車の扉を開ける動作一つでも、身分が高い者はしてはいけないらしい。

めんどくさいね、ホント。


一番扉に近かったのでさっさと降りると、フェルテが僕の耳元で


「姫君のエスコートをしろ」


と言った。


姫君ってだれ?

って言うかそんな大事なことなら先に言ってほしい。

いきなりエスコートとか言われても困るだけなんだが。

そもそも何で僕なのさ。


「女性のことだ!誰でもいいからさっさとエスコートしろっ!」


「あ、そういうことか」


納得はしたものの、そんな無茶苦茶な。

生まれてこのかたエスコートなんてしたことがない。

どうしろというのだ。


チラリと馬車を盗み見ると、横にいた使用人の人にまだ降りないように足止めされたみんながいた。

僕だけ降りてフェルテと話をしているものだから、不審がる視線を僕に向けている。


仕方ない。

やるしかないか。



ここで問題になるのが、誰をエスコートするのかだが、そこまで難しい選択ではない。


答えは即答。

純恋だ。


あれだけあからさまに好意を伝えてきているのに、それを無碍にはできないし、僕も彼女を好ましく思っている。


ここで紗夜は選べない。



え?遥香?

論外だよ、論外。






「んじゃ、エスコートするから」


そっと掌を上に、左手を差し出す。


純恋の顔は赤かった。


「えっと……エスコート、お願い、します?」


「あれ?緊張しちゃってる?」


「してません!」


小さく苦笑して、手を差し出した。


「降りるよ。いい?」


純恋がこの手を軽く握って恐る恐るという風に地に足をつける。

そして、ふうと一息。

さも大仕事をしたかのようだ。



「さあ出原、九重、2人もさっさとエスコートするんだ。時間はない。さっさとするんだ」


こんな時間ギリギリになるように出発したのはあなたですよね、というツッコミは心に留めておく。


不毛な争いが始まるだけだ。


「さっさとやるんだ。どっちでもいいぞ」


調子に乗って僕も声をかける。


暫し顔を見合わせる2人。

そのままずっと見つめ合う。


「お前ら……そういう感じだったのか……」


「「違うっ!!」」


何だ、違うのか。

そんな視線で見つめ合うからてっきりそういう感じかと思った。

ちぇ、おもんな。




「エスコートすりゃいいんだろ!すりゃあ!」


「キレんなよ」


「キレてねェ!!」


意地張らなくていいのに。

一目瞭然じゃん。



結局、奏が遥香、蒼弥が紗夜をエスコートすることになった。


「何でお前らがエスコートしているかわかるか?」


「フェルテの気まぐれとか?」


いやホント、何でなんだろう。

本当に心当たりがない。


「その顔……本気で分からないんだな……」


なぜかガックリと肩を落とすフェルテ。

仕方ないじゃない。分からないんだから。


他の生徒は誰1人としてエスコートしてないから、何かの罰かもしくは褒美だと思うけど、何をやったのかわからない。


「褒美なわけあるか、馬鹿者。罰に決まっておろう」


「これが罰ならいくらでも悪いことできるな」


なぜか大袈裟にため息をつかれた。

解せぬ。


「お前らが勝手に馬車交換をしていることだ。なぜ女性用に用意した馬車からお前らが降りてきた」


「ああ、そういうことか。隠しもしないで堂々と転移したのにいつまでたっても注意してこないからいいのかと思ってたな」


「勘違いするな、これは慈悲だ。戦争で疲れただろうから、着いた時に元通りになっていればいいと思ったのだ。だがお前らは隠すそぶりさえなかった。だからこれだ。他の者は黙認しただけのため、何もせぬ。……それから綾井純恋、其方が梶原優人ら一部の男を馬車に読んだことは知っている」


「今の今まで黙認したならこの話いらないじゃないですか」


「やかましい梶原優人。とにかく、式典にはエスコートしてくるように。……ああ、他の者でしたい者がいればするといい。貴族社会では常識だ」

男性は女性をエスコートする。常識です。僕は未経験ですが。

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