3ー1 あの後のこと
あの後、僕らはボロボロだった奏をこき使って体を癒し、復帰した。
ボロボロだったとは言っても窮地に陥ることはなく、普通に戦って普通に勝ったらしい。
とにかく敵の数が多かったせいで魔力が不足気味になりはしたが、うまくカバーして勝ったと言っていた。
純恋の方は一度魔力切れになりそうになったらしいが、遥香が自分の持っている【魔力超速回復】の補助スキルを【代行祝福】の補助スキルで一時的に譲渡したことでことなきをえたらしい。
どうせ大丈夫だと軽く見ていたが、遥香がいてよかった。
このメンバーの誰か1人でも操られたら敗率が一気に上昇してしまう。
そうなってしまうといよいよ危うい。
一時撤退も視野に入れる必要が出てきただろう。
今回一番頑張ったのは純恋だと満場一致で決まったので、何かご褒美でも……と思っていたら、彼女が所望したのは僕が彼女との時間を作ることだった。
無碍にはできないし、自分が言い出した『ご褒美』だ。
この日はちゃんと叶えてやった。
添い寝を所望しなかっただけの分別はつくようで安心した。
普通に会話を楽しんで自室に戻る時にそう感じた。
クラスメイトとは帝都を落としたその日に合流した。
純恋とのおしゃべりがあったのはこの日の夜だ。
幸い、メンバーは誰1人として欠けておらず、全員が5体満足の状態で再会を果たした。
さすが、あの日を乗り切った人たちというだけある。
その日は普通に再会して普通に1日を過ごした。
大変なのはそこから。
主にフェルテが。
あの胡散臭いおじさん、結構優秀らしく、国から大量の仕事を押し付けられたらしい。
義兄の頼みを無碍にはできず、私がやりますと大見得切って全部引き受け、呆気なく仕事に忙殺されていた。
御愁傷様。
ざまあみろ。
とはいえ僕らは大して大変ではないので、この日もこの日とて訓練に勤しんだ。
特に語ることはなく、普通に訓練した。
何か語るとしたら、藤井さんが【万剣召喚】で召喚した剣の一つである『無形剣』を使っているところを偶然見かけたことくらいだろうか。
『無形剣』はガラス細工のような見た目で、無色透明。
形がはっきりと定まっておらず、自在に変形できる剣だ。
変形、という点ではイルテンクロム製の剣も同じだが、僕は無形剣の見た目に惹かれた。
ガラス細工のような美しい見た目。
どの形の時もはっきりと彫刻が刻み込まれていて、どんな変形でも美しさを損なわなかった。
変形の仕方も流麗で神秘的なものを感じたほどだ。
とまあ、語ることはないと言いながら長々と語ってしまったが結局のところ、言いたいことは一つだけ。
『無形剣は美しかった』
それだけだ。
そんな感じで1週間が経過して今日。
既に帝国領から王国領に移動していた僕らに出番が来たらしい。
僕らはフェルテに鮨詰めの馬車に詰め込まれて王都に向かって出発した。
どうやら王都で表彰があるらしい。
あれだけやればそりゃあ表彰もあるか。
そりゃそうだな。
憂鬱だ。
日本の頃から表彰は好きじゃない。
そもそもの話、騒がしいのが好きではない。
全校集会など大っ嫌いだった。
「やりたくないなあ……僕1人くらいいなくてもいいよなあ、別に」
「ダメだと思いますよ。寧ろ一番いないといけないでしょう」
「綾井さんと同感」
「お前らこういう時だけ調子いいよな」
ちなみに現在地はフレーデン郊外の原っぱだ。
帝国戦を通して、まだまだ弱いと気付いたので久しぶりにテスカも交えて訓練でも……という流れになったのだ。
帰ったらフェルテに怒られるかもしれないが、若気の至りで許してもらおう。
どうせあいつなら許してくれる。
随分と舐められているフェルテである。
「来い、テスカ」
短い詠唱と共に地面に魔法陣が浮かび上がり、そこから光が漏れる。
次の瞬間、目の前にはテスカが。
「主よ、久しぶりなのである」
この、である口調にももう慣れた。
である、と聞くとテスカの無事が確認できて安心する。
まあ、テスカが無事でなかったとしても僕らにできることは殆どないが。
「なんなのこの子?触っていい?」
「ああいいぞ。好きなだけ触ってくれ」
こういう反応もいい。
綾井の姉妹は驚愕だけで、こういう反応なかったから女子はテスカみたいな魔物は苦手なのかと思っていた。
ただ単に綾井姉妹の反応が薄かっただけのようだ。
「テスカ。今日は6対1だ。死なないように手加減してくれよ。じゃあ初めてくれ」
「全力で行くのである」
……へ?
「ちょ、ちょっと待ってよ!?紗夜は!?」
「自分でどうにかしてくれ!こっちは精一杯だ!」
テスカとの戦いで他人を援護できるわけがない。
さっさとダメージ無効化の結界でも張って耐えてくれ。
6対1。
こうなるとどちらが悪魔かわからない。
まあ僕は全力でやるさ。
それで敵わなかったら、そういうことだ。
テスカって天獣種でなまじ地力が高い上に、スキルもかなり凶悪なので使い所が難しいんですよね。
ずっと優人の側に置きたいけど、それをしたら優人の活躍が全部とられる。
要は、うまい具合に2人(頭)を引き離すことが大切というわけです。