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星使いの勇者  作者: 星宮 燦
第二章 幻帝戴天
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エピローグ 舞台の裏側

「では皆さん、指示通りに」


「了解しました」


 ロルニタ帝城の一室。

 そこにはこの国の幹部が集められていた。


 ーー否、この国を統べる組織の幹部が集められていた。


 年齢も性別も様々。

 老人もいれば、まだ二十歳にもなってなさそうな少年も混じっている。

 男性もいれば、女性もいる。


 見た目だけではなんのまとまりもなさそうな面子だった。

 だがそこには確かに、硬く強い繋がりがあった。


 1人の男が口を開く。


「よろしいんですか?我々が戦えば敵の勇者は追い返せるでしょうに。このままこの国を明け渡すのはちと惜しい気が致しますが」


「構いません。元々ここは出て行くつもりでしたし。それに……いいサンプルも出来ましたしね」


「天野竜聖のことですか?」


「いいえ、論外ですよ。この国の勇者のことです」


「お主が何をやっているのかは知らぬし、興味もないが、考えがあるんじゃったらワシらは構わん。計画通りに進めてくれ」


「ええ。言われなくてもそうしますよ」


 そう言って小さく微笑んだのはまだ年端のいかない少女だった。

 年齢にしておよそ13歳ほど。

 だが正確な歳はわからない。

 使われている、その年齢にしては難解な語句がその予想が間違いだということを物語っていた。


 仮に本当に13歳やそこらならばそれはそれで不気味だ。



「では我らはさっさと出て行くとしますかな」


「ええ、一旦本拠地に戻ります。分裂体を残すので愛斗は適当に時間稼ぎをし頼みますね」


「いいぜ」


「帰るのです。私、いなくてもよい、ですか?」


「結構です。貴女はさっさと指示通り研究を進めなさい。というか、真っ先に帰還すべきはここにいる誰よりも貴女でしょう」


「寂しくない。です?」


「鬱陶しいだけですよ。さっさと行ってください」


 ぷくー、と頬を膨らませた生気のない目をした少女は不満顔のまま席を立った。

 そして、次の瞬間にはもう姿はない。


 その様子を見ていた1人の老人が席を立ち、微笑ましいものを見るように好好爺のような笑みを浮かべた。


「ワシもそろそろ行きますぞ。か弱い老人にこの硬い椅子は無理じゃて。これから帰ってちょいと休憩をしてきますぞ。ほれ、ワシのペットも退屈そうにしておる」


「ペット、ですか。ただの従魔でしょう。そんなものをペットと同列に考えられては困ります」


 瞬間、怒声が響いた。


「何をいうか!カノア貴様、ワシのペットの価値が分からぬともうすか!?ああ、うぬに期待したワシが愚かであった。審美感のない……」


「殺しますよ」


「やってみろ!」


 ーーしかし、待てども戦いは起きない。


 老人ははピリピリとした火花を散らしつつも動かなかった。

 やがてーー


「フッ、フッ、フハハハハっ!うぬもやるではないか。いいだろう、その態度に免じて引いてやる」


 ーー脂汗をたらしながらそう叫んだ。

 どう見ても怯えている。

 カーディガンのポケットから顔を覗かせていた天獣種ガネーシャでさえ、少女から放たれる底なしの魔力の波動に怖気付いていた。


 対する少女に緊張などかけらもなく、


「では本拠地で仕事を頼みます」


 そんなことを言って無邪気に手を振った

 老人は乾笑いのまま普通に扉から出て行った。




 ***




「んで、用事ってなんだよ」


 声を発したのは先ほど愛斗と呼ばれた黒髪の青年だった。

 歳はおそらく30代くらい。


「洗脳の古代魔術具(アーティファクト)のファレインタルムについてですね。あれの処分をどうしようかと思いまして」


「そこら辺に捨てればいいだろ。あんなうぜえもん、誰が使うってんだ」


「ええ。わたくしだから使えるものの、正直要りませんね。貴方でさえ数日が限界でしたもの」


「相性の問題だ。場合によっては俺はお前を殺せる」


 すぐにそれに噛み付く。


「ええ、わたくしも貴方を弱いとは思っていませんよ。この件に関してはわたくしの方が得意というだけです」


「で、キッショい複製体は適当に使うぜ?壊してもいいんだろ?」


「愛斗の思うように。壊すのはやめていただきたいですが。いらなければいらないで、自分のスキル使ってもいいですよ?ですが、天獣種の異天児が紛れ込んでいたら流石の貴方でも分が悪いでしょう?特に攻めてくるのはヴァイスターク王国ですから相性が悪いロキエラとかがくるかもしれません。遠くから時間稼ぎ程度にのらりくらりとやってください」


 任せた結果、のらりくらりどころか複製体が壊れるまで本気で運用してしまったのだが、今の彼女にそれを知る(すべ)はない。



愛斗と呼ばれる男が手をひらひら降って会話の終わりを告げると、別の男が口を開いた。


「そんなより勇者の話じゃないのか?」


「はいはい。……勇者に関しては、愛斗に一任します。クセのあるスキルですが、攻めてくる人を迎え打つには十分でしょう。それから、多分ここに残してもやられると思いますから、勇者は最低限残してあとは連れて行ってください。連れて行く人数は大雑把でいいので後で報告してくださいね」


「じゃ、それは俺がやる」


「お好きにどうぞ。くれぐれも変な呪いはかけないように」


 そう言いながらリーダーの少女はため息をつきながら立ち上がる。

 毎度毎度なぜこうも会議は疲れるのだろうか。

 昔は会議があったとしても楽しかったのに。


 ……まあ、思い当たる節は一つしかありませんね。



 権能によって長い時を渡り、幼稚な夢を叶えるために、組織を築いた。

 もしかして、少し疲れたのでしょうか。


 胸に手を当て鼓動を感じる。


 まだだ。

 せめてあと2年……いや、3年。

 それまでは止まれない。

 ようやく準備が整ったのだ。


 やめない。

 このまま最後までやり切る。

 やりきってみせる。



「では。皆様、頼みましたよ」


「ああ」


「かしこまりました、カノア様」




 これが帝都戦の2日前の会話である。


少し雑ですが、これをエピローグにして第二章を終わります。ここから週一投稿の予定でしたが、ストックに余裕があるので、もうしばらく毎日投稿やっていきたいと思います。


では、第三章の導入です。




***




壊したいな、と思った。


だから壊した。


それだけだ。


崇高な理由なんてねェ。

お高い理想の世界なんてものもねェ。


ただ全てを否定したくなった。

全部ぶち壊してみたくなった。


ただそんだけだ。




ミズガルズに入学した優人たち。

何も知らない彼らは一度は忘れたそれぞれの青春を取り戻す。


しかし。


「勇者が死んだ?」


突然の訃報。

蘇る亡者の屍。

そして現れた伝説の灰獣。


混沌と化した学園騒動は、組織でさえ知らぬ謎の男の介入により、誰もが予想だにしなかった方向へ転がり始める。


歴史に残るミズガルズの灰獣事件。

それは後に起こる、対組織の戦争の前哨戦であった。





それではどうぞ。

第三章【星と悪童】

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