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星使いの勇者  作者: 星宮 燦
第一章 ようこそ、異世界へ
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1ー10 平和の在処

「おいおいどうしたんだよお前、優人〜」

「いや別に。ただ、ちょっと残念だな、って」

「ま、宮原と綾井がいりゃなんとかなんだろ」


 そういうポジティブなところが羨ましい。


 胸中でそう呟いた。


 言い争いは嫌いだ。

 僕の過去とは関係なく、見ていると虫唾が走る。


 まあ、それを止めずに傍観者に徹する僕も、はたから見れば同罪なんだろうけどさ。


 無益だ。

 何も生み出せない。

 強いて言うならば、憎しみを生むだろうか。


 ただ、僕だって普段ならこんなことにイライラしなかっただろう。

 普段からじゃれ合いとも取れなくないこのやり取りに怒りを覚えるほど冗談のきかない人間になった覚えはない。

 今の時期の高校生のふざけ合いくらいならば、青春のひとかけらとして思い出に残せるはずだ。


 だけど、今の僕らはただの高校生じゃない。


 僕らは、力を持ちすぎた。

 はっきり言って、スキルは高校生が持って良いものじゃない。



 散々スキルへの憧れのようなものを語っておいて、これを言うのもどうかとは思うが、それでもスキルは僕らには大きすぎるものだと思う。


 言い争う奴らに聞いてみたい。

 今までどれだけの命を奪ったのかを。

 自ら手に凶器を握りしめて奪った命など数えるほどもないだろう。


 そんな僕らが世界を守れと迫られている。

 今は人間に害をなす魔物を倒せと言われている。

 魔物ならクマ退治だとでも思えばできるかもしれない。

 だけど、もしかしたらいつか、人を殺せと言われるかもしれない。



 夢を見ることがある。

 鋭利なナイフで誰かの心臓を突き刺す自分の夢。

 べっとりと手を包む血の温もりがあまりに生々しく、悲鳴をあげて飛び起きたこともあった。


 今は訓練だから、日々を楽しいと感じている。

 刀を振り回すのは好きだし、レベルアップは夢があって胸が高鳴る。

 だけど、いざ命あるものを前にして、果たして自分は刃を振るえるだろうか。


『世界を守る』


 その言葉が、今は思い鎖のように感じる。

 まだこの世界について分からないことは多いが、僕は国の操り人形にはならない。


 誰かに言われるがまま力を振るう存在になんてなりたくない。


 世界を守れと言われたが、それを鵜呑みにする気はない。


 例えそれによって世界から嫌われようと。

 例え居場所を無くしたとしても。

 僕は僕の道を行く。


 居場所なんて元の世界に一つあればそれで十分だ。



 自分の手のひらを見つめる。

 一瞬、そこに血飛沫の幻を見て、優人は近くの布で乱暴に拭った。


「このクラスが分裂したら……多分その時は操り人形になる時かな」


 瞳にはわずかに翳りがあった。



「まぁーた辛気臭い顔してやがる。もうすんなって言ったろ?今のオマエ、入学式の時みたいだぞ?」


 僕の肩をぽんぽん叩きながら蓮斗が苦笑を浮かべる。

 優人ははっと目を見開いた。

 流石に初対面の時ほどと言うのは冗談だと思うが、辛気臭かったのはそうかもしれない。


「悩むのも結構だけどよ、今は考えてもしょうがねぇだろ?俺もオマエも含めてみんな初めてなんだよ、こういうのは。気が立って当然だ」

 「それはそうだと思うけど」

「どうにもならなくなったら俺が間に入るぞ。だから、なんとかなる。少なくともクラス内にヒビは入れない」

「……悪いな、手伝えなくて」

「いいって、いいって。得意不得意はあるもんだろ」


 そう言うと、蓮斗はいまだに揉めている彼らの方に向かっていった。


「ありがとう」


 改めて感謝を。

 多分聞こえてないと思うけど。



 優人は大きく息を吐き出して、気持ちを整理した。


 あまり悲観的になるな。

 心から信頼できる人間はいる。

 この国も完全に信用できないわけじゃない。


 クラスメイトも悪い奴はいない。

 西田でさえ、やっていいことと悪いことの線引きはしっかり引いている。



 そう、大丈夫だ。


 「気が立ってたのは僕の方か」


 なんで僕は問題が起こる前提の話をしてるんだ。

 クラスメイトを信頼しなくて誰を信頼する。


 もっと仲間を信じろ。



 多くの友といくらかの親友。

 それだけあれば大抵のことはなんとかなる。


 あの日の死んだような僕を救ったのも、彼らだった。




 ふと、蓮斗が乱入した揉め事の場に視線をやる。

 流石にまだ終わってないようだが、それでも少しは落ち着いたように見える。

 それを見て僅かに微笑を浮かべる。


 落ち着きを取り戻した、穏やかな笑みだった。


「梶原くんは参加しないんですか?」


 背後からよく知る声が聞こえた。


 何に参加させる気だと問いただしたい気持ちを抑えて振り返る。


「どうした綾井……純恋さん」


 優人は近くにいる遥香に気付き、慌てて名前を付け足した。


 学年でトップクラスの美少女。

 運動は苦手なようだが、成績は優良。

 クラスでアイドルだかなんだかとチヤホヤされている女子だ。


「いえ、用があるわけではないんですけど、一人だったので」


 なんだ?ぼっちへの当てつけか?


「ああ、蓮斗が向こうに行ったからな。しばらくぼっちだよ」


 ただ、優人はこの少女が苦手だった。

 彼女が悪いわけではないが、少し雰囲気が知り合いに似ているから。


「あの……梶原くんは文句とかないんですか?皆さん言い争ってますけど」


 冷たくあしらった後水をちょびちょび飲んでいると、おずおずと純恋は切り出した。


「あの言い争いに参加しろと?」

「そうではなくて、召喚されたことに文句とかないんですか?梶原くんってあんまり文句とか言うイメージありませんけど」


 小さく息を吐き、優人は純恋の方に体の向きを変えた。


「……あの争いに加わる気はないけど文句はあるよ。正直なところ、今すぐ日本に帰りたい」


 しかし、昨日の座学で教師役の貴族から日本に帰す手段がないことを聞いている。

 だからこの願いが叶うことはない。


「梶原くんは結構ネガティブなんですね。私はこの世界で生きていくのも楽しそうだなって思ってますよ」


 お花畑で楽しそうだな。


 そう思う気持ちを押し隠し、優人は無難な言葉を返した。


「なんで?」

「親のいないところで自由にしたいからです」

「割としょうもな───」


 その時、荒っぽい声が聞こえたきた。


「おい梶原!何姉さんと喋ってんだ!」


言いかけた言葉は、野太い怒声にかき消された。

 優人は顔を顰めた。


出たな、シスコン綾井遥香。

姉に寄ってくる悪い虫を追い払うことにしか存在意義を見出だせない、厄介な生き物だ。


「別に何も」


 そう言ってそっぽを向いた優人をフォローするかのように、純恋が慌てて付け足す。


「私が話しかけたんです。一人でいたので気になって……」

「気になって……!?まさか梶原のことが……」

「違います」


 コントのような軽いやり取りを横目に、優人は少し水を口に含んだ。

 その顔に自然と笑みが浮かんでくる。


 遥香が起こすこの程度のやり取りは、クラスでは日常茶飯事なので、目を留める者はどこにもいない。

 皆揃ってスルーする。



 いいな、この時間。

 騒がしいけど少しだけ笑えるこの時。


 こういう日が続くといいな。


 そう、素直に思った。


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