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星使いの勇者  作者: 星宮 燦
第二章 幻帝戴天
109/247

2ー92 堕天使の音詩

なんとなく今日はルビ多め

<勇者・九重蒼弥視点> 



 俺と出原が共に並んで空を飛ぶと、彼方にある城壁を飛び越えて羽付き機械馬みたいなのに乗った奴らが出てくる。

 帝都騎士団だ。

 帝国内でも最強の武を誇る騎士団である。

 団員全員が黒の甲冑と金の魔導馬(まどうば)に乗る『黒金(くろがね)騎士団』という名を高々と掲げ、国内外で有名な騎士団だ。



 黄金色に輝く馬に乗った奴らは空を駆けてこちらに急接近する。

 金色とかいう生物に似つかわしくない色のせいでどうしても生物というより機械感が出てしまっているが、見た目は完全にペガサスだ。

 これで白一色だったら完璧見間違えていたことだろう。


 大鷲のような巨大な翼がはためき、暴風を巻き起こす。

 馬たちは小さく(いなな)きながら主の(めい)で突進をする。

 一糸乱れぬその行軍は一つの芸術作品のようにも見えた。



 遠目から見れば敵ながら写真に残したい美しいシャッターチャンスだが、残念なことに近づくほどにその気持ちは失せていく。


 ……目が真っ赤。いくら何でも充血しすぎだろ。


 洗脳の影響かどうかは知らないが、誰も彼も鬼の形相を貼り付けて目までも真っ赤に染まっていた。

 最早(もはや)芸術云々(うんぬん)どころではない。

 どちらかと言うとホラー映画の一コマだ。



 ……もしかして寝不足なのか?



 倒すのは簡単だ。

 僕が『堕ちろ』と言えば全部地面に叩きつけられるだろう。

 恐らく魔法か何かで防御はするだろうが、そこまで難しくはない……はずだ。


 ここはそれなりに高度が高い。

 何も対策しなければ落下だけでもそれなりの怪我を負う。



 自分は優人ほど戦い好きではないのだが、仕方ない。

 さっさと終わらせよう。


「あの敵、九重に任せていい?」


 戦いを終わらすことばかり考えていたら、何やら出原から声が飛んでくる。

 いつもならすぐに返事をしただろうが、今回はそう出来なかった。


 高所に吹き付ける風によって声がうまく聞き取れないのだ。


 今自分は飛行スキルでもない、むしろ飛行とは真逆の落と専スキルの【堕天】で自身を上に落としているのだ。

 普段はしない行動をとったためか集中力がゴリゴリ削り取られていき、今の姿勢を維持するのも大変である。


 そんな状態で掠れ掠れの声など聞こえるはずもなく。




 ん〜………『あの敵カッコいいよね』って言われた気がする。


 あってるか?

 多分あっているだろう。


「ああ、そうだな」


 取り敢えず無難な返事(こたえ)を返しておく。


 確かにカッコいい。

 俺もいつか乗ってみたいと思ったくらいだ。

 その心に間違いはない。


 もう少し欲を言えば、色がもっと控えめだと良かったのだが、ペンキでもぶっ掛けたら即解決だろう。

 ペンキという名前かは分からないが、少なくとも塗装用の道具はあるはずだ。

 それをぶっ掛ければ万事解決。



 ……なのだが。



 だが、今ではないだろう。



 まったく。

 こんな時に何を考えてるんだ?

 無視するのもどうかと思うから返事はするけど、もうすぐ戦闘だぞ。


 敵のカッコよさは後でもいいだろ。



 奏が聞いたら憤慨しそうな盛大な誤解を蒼弥はかまししていた。

 優人ならば普段との違いに困惑して聞き返しただろうが、奏と出会って1週間足らずの蒼弥は気付かない。

 そして残念ことに、奏も気付かない。

 質問と返答が簡素すぎたせいだ。



「じゃあ俺はあっちに行くから」


「なんでだ?時間が無いぞ?」


 蒼弥が言うのは『戦闘開始までの時間』である。


「時間はないけど、あっちに強いやつがいる感じがするんだよ」


 奏が言うのは『純恋の浄化が切れるまでの時間』である。



 両者の会話は微妙にかみ合ってなかった。




 じゃあなと言われてからようやく、自分が騎士全員を任されたことに気が付いて微妙に怒りの火を灯す。

 理由は奏が自分に騎士を任せることを伝えなかったからだ。


 言うまでもなく、奏は蒼弥にちゃんと伝えているし、蒼弥も蒼弥で意味は違うが、了承の言葉を発している。

 だがそのことに気付いていない蒼弥は、既に姿の見えなくなっている戦友に向かって悪態(あくたい)()いた。



 だが、いつまでも身勝手に怒っているわけにもいくまい。

 二人がくだらない茶番を繰り広げている間に、敵はもうすぐそこまで迫ってきていたからだ。


「やるかぁ……」


 できれば捕まえろと優人は言っていた。

 なんでも、彼らは洗脳されている可能性が有るとか無いとか。


 たしかに、洗脳されて無理やり行動を支配されているのならば救済は必要だ。




 だが、敵の幹部は恐らく、戦闘において俺たち勇者の介入が必要となる奴らだ。

 その力に、有効な手札なく抗うのは並大抵のことではない。


 はっきり言って、洗脳の対応はスキルのない貴族で構成された騎士団の受け入れレベルを大きく超える無茶な要求だった。



 だから彼ら彼女らに救済の逃げ道を作ることには蒼弥も賛成なのだが……





「捕まえろなんて無茶なんだよ!!」


 既に戦闘は始まっており、蒼弥の周りでは騎士たちの悲鳴と自身の叫び声が響いていた。



 今すぐ優人(アイツ)呼び出してぶん殴ってやりてぇ!

 騎士って結構強いんだぞ!?そりゃタイマンなら負けないけどさ!

 それなのにこんなに騎士がたくさんいる中に放りこみやがって!!

 俺を殺す気か!


 それに奏!アイツが逃げたせいで俺が死にそうなんだよ!さっさと敵倒して戻ってこいや、あの馬鹿が!!



 心の中で悪態を()く。

 ーー否、最早吐くと言うレベルではなく、常時垂れ流しの罵詈雑言のオンパレード状態だ。

 心の中で吐いたつもりが、いつのまにか口に流れていたようで口からもダラダラ文句が垂れ流される。

 本当に嫌になってくるぜ。




 ***




 とにかく数が多すぎた。

 8とか10の対処なら造作もなかっただろうが30を超えるとなると話が変わってくる。

 既に戦線は大きく後退していて、随分離れていたはずなのに視界の端で轟く雷光が捉えられるほどになっていた。



「不味いな……」


 騎士団の一部が別行動で綾井の方に行っていたらしく、あちらでも戦闘が始まっている。

 今は妹の方だけで対処できているようだが、俺が負ければここにいる30を超える騎士たちが2人の元に殺到することになる。

 いくらレベルが高い上に勇者の立場にいるとは言っても2人のスキルは非戦闘系。

 この数が殺到すればあっという間に2人揃って倒されてしまうだろう。


 そして、姉が倒れるということはこちらの戦力全てが崩れるということ。

 ひいては、この帝国の打倒計画すべてが水泡に帰すということに繋がる。


「詠唱……やるか……?」



 詠唱を覚えて1週間が過ぎたが未だに仕組みが把握しきれていない。

 唯一、魔力を込めながら呪文を唱えれば発動するということだけはわかっている。

 そのため発動自体はできるのだが、どうにも操作が効かない。


 そして魔力消費の効率が悪すぎる。


 ()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()


 ーー否、終わらせられないと言った方が正しいか。


 詠唱の攻撃の効果は文字通り、()()()()()()


 その強力さ故に大きい魔力消費のせいで持続時間はそれほど長くはないのだが、如何(いかん)せん魔力を全部使い切るというデメリットがデカすぎる。

 魔力を全て使い切るということは、それ以降の戦闘の持続が困難になるということ。

 もしここにいるのが騎士団の全てではないのなら、その時点で詰みだ。


 だから後のことを考えると、安易には使えない……




 ……なのだが。


「やばいっ死ぬっ!ホントにっ、殺されるっ!!」


 今自分は絶体絶命のピンチ。


 今にも死にそうな自分に後も先もクソもなく、()にも(かく)にもやるしかなかった。


 結局のところ、初めから取れる選択肢は初めから一つしかなかったのである。



「【()くて楼は終わりを告げ (くろ)(かむり)(ふち)へと沈む 天上天下に相違なく 夢の(うつつ)現世(うつしよ)に】」


 既視感のある漆黒の片翼と光輪が顕現し、あたり一面に靄を吐き出す。




 それは世界の終わりの(うた)

 万物を堕とし、終わりをもたらす堕天使の音詩(うた)


 どこからともなく穏やかな鐘の音が聞こえ、音が大きくなるのに伴い、騎士の体に異常が起きる。

 次々と趣味の悪い黄金のペガサスが消えていき、乗っていた者たちが地面に落ちる。

 死んでいるのかと思うほど自然な動きで落下運動を始め、頭から真っ逆さまに落ちる。


「落ちろ」


 頭の片隅に辛うじて残っていた『捕まえろ』のメッセージを思い出し、彼らが地面に激突する前に上向きに力を働かせる。

 身体的……というか物理的にありえない速度と力で強引に引き上げたせいか、何人か首がおかしな方向に曲がっている奴らもいたが、そのくらいは許してもらおう。


 俺は戦闘を優人ほどは好まない。

 だが、覚悟はできている。

 さらに手を汚す覚悟も既にある。


 降りかかる火の粉は迷いなく払う。


「そんなことよりこっちだな」


 そこら中で陸に打ち上げられた瀕死の魚のようにビチビチと小刻みに震えている奴らを一瞥し、四肢をスキルで地面に押し付けるようにして拘束する。

 これで自分の仕事は全部終わりだ。


 だが、まだもう少し魔力が残っているのにこのまま何もしないのも勿体無い気がして(おもむろ)に歩くと、いつの間にか近くなっていた街の結界に触れる。


 万物を落とす今の【堕天】(この力)に落とせないものはない。

 それが物体ではなく、概念だとしても、因果だとしても。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()


「落ちろ」


 結界の効果を落とす。


 今までは壊さないと通れなかった境の壁を当たり前のように通れるようになる。

 側に倒れているまだ息のある気絶中の騎士の奴らの体を一括で落とし、全員外に排出する。

 そしてそのまま自身の身体も結界の外に押し出し、そのまま倒れ込む。


「疲れたぁーー」


 もう魔力がすっからかんだ。

 さっき落とした結界効果も今はすっかり元通り。


 騎士たちに掛けていた重力による拘束も今は無く、彼らが目が覚めればいつでも自分を殺せる構図が出来上がっていた。


 今ならスキル無しの戦いの素人でも自分を余裕で殺せるだろう。




 パチッ、という危うい音を耳が拾った。



 いつの間にか捕虜の四肢には拘束具が装着されており、捕獲が完了したことが分かった。


「九重。お疲れ。ハハッ、ボロボロだなお前」


「うるせぇシスコン」


 倒れこんでいる自分の前には子憎たらしいニヤけ(ヅラ)をした綾井遥香。

 その隣には思った通り、優人にお熱の美少女がいた。


「あの……癒しましょうか?」


 みんなの浄化でそれどころではないであろう綾井姉が俺に問いかける。

 それを聞いて頭に疑問符が浮かんだ。


 なんでだ?魔力に余裕があるのか?いやそんなはずは……


 もうすぐ30分が経過する。

 限界が50分と言っていたから、むしろ魔力残量は心許ないと思うのだが……



 ……なるほど、優人がポンコツと言ったのはこういう所か。


 唐突に理解した。


 自分の負担を考えずに発言するあたり、ポンコツというより自己犠牲か、安直な思考回路をしているように見える。

 今まではそれらが目立つ場面に出会ってなかったから俺も、他のクラスの奴らも知らなかったのか。



 何も考えずに発言したのならポンコツ……というよりただの馬鹿(うましか)

 自分の負担が分かって言ったのなら、それはそれで馬と鹿。



 ……危ういって感じがするな。優人と付き合えばもうちょい、いい感じにおもろくなるか?……いや、いっそこのままの方が良いのか?


 そんなどうでも良いことが思い浮かんだ。


「癒しはいい。魔力がないだけで、目立った怪我はないからな。まだ動けるし、俺のとこに来た騎士団は取り敢えず、この通り始末した」


 出原がいつ帰ってくるのかは分からないが、あいつに限って死ぬことは無いだろう。

 だから、大丈夫。


 俺が洗脳の範囲から出たことで僅かに浄化の負担も減ったはずだ。


「大丈夫。俺たちは勝てる」


『【絶対に裏切らないし、裏切られない】それで僕らは最強になれる』


 ここに着く前、優人(アイツ)が言っていた言葉を思い出す。


 ククッ……あれだけ言ってお前が負けたら許さねえぞ。



 こっちは片付いた。

 あとはお前らだ。




 見えない親友(とも)に笑いかけた。


元々閑話にしていたエピソードなんですが、どう考えても閑話じゃないと思ってメインストーリーに入れました。明日、第二章エピローグです。そして新しい登場人物が一気に増えます。



次回【舞台の裏側】

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