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星使いの勇者  作者: 星宮 燦
第二章 幻帝戴天
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2ー89 いずれ背負って

ちょっと重めの話です。


それから、見る人によってはアレのせいで気分が悪くなるかもしれません。気持ち悪い表現は結構消したので多分大丈夫だと思いますけど。

「くっ、来るな!!」


 男は怯えていた。

 誰の目から見ても明らかに。


「お前は……洗脳されてないのか?」


 奏の情報に洗脳を逃れた者はいなかった。

 もしかして情報に齟齬があったのか?もし奏が本に書いてある文章を適当に省いて読んだんだったら、あり得なくはない……


 それに、目が虚ろじゃない。

 ちゃんと焦点があった目だ。


「洗脳されてないんだな?僕は……」


「【黒き悪魔の爆弾(グレネード・ジー)】」


「ーーは?」


 味方のほとんどいない戦場。

 (ゆえ)に望んでしまった新たな仲間の可能性。


 だからこそ、対応が遅れた。


 ズドンッ!!




「ーーっ!【日蝕(サン・エクリプス)】!!」


 衝撃と共に何かが体内に打ち込まれる。

 すぐさまスキルを発動し、再生を始める。


「ふっ、ざけんなっ!!」


 出会い頭にそのまま切ればよかった。

 さっきの敵との見た目の差に騙された!


 ……でもまだ大丈夫。回復で魔力が多めに消えたけどまだどうにでもなる。


 しかし。


 ーーーーージ、ジジジッーーーーーパキ、パキパキ……パキーージジジッーーー



 黒き現代の悪魔は解き放たれた。




 ーーーーーーーア゛ア゛ア゛ーーあ゛あ゛ア゛ア゛!!ーーア゛ア゛アアアアアアアアアア!!!!



 僕の表皮を突き破って這い出るソレが何かは分からない。

 だが、危険なことは分かった。



「【月蝕(ルナ・エクリプス)】っっ!!」


日蝕(サン・エクリプス)】使用直後の【月蝕(ルナ・エクリプス)】。

 通常時の倍近くの魔力を消費してでも体内の生物を排除することが優先事項だと優人は判断。

 そして、その判断は限りなく正解に近かった。



 僅か1秒足らずで体内の謎のソレは死滅する。






 ーーしかし、あくまで()()()()()()()()()()()




 ただ一つ、間違いがあったとすれば。



 ーーージ、ジジジジジジジジジジジッ、ァァァアアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛!!!ーー


 終わってない!?殺しきれなかったのか!?


 その間違いは、虫が住み着いた右手を即座に切り落とさなかったこと。


 そして、体内で虫が発生するという異常事態によって、敵の存在が頭から抜け落ちてしまったこと。




 ドォォォオオオオオオオオンッ!!!



 右手が爆発する。

 そして、その衝撃は不自然に全身に伝播し、骨を砕く。


「っうーーー!!【日蝕(サン・エクリプス)】」


 相性最悪なやつを交互に使用だなんて無茶なことだとは分かっている。

 だが、ーー


「何やってんだ雑魚侵略者ァア!下手な演技に騙されて瀕死になって情けねぇなア!」


 クソッ!僕が対応しきれないのを見越して待ってたな!!


「【宙の箱庭】!!」


 足止めしかできない。

 紗夜の救援をーー



 振り向くとそこには真っ白な結界が。


 何で!?……しくった!!そういうことか!



 僕は門に集まった騎士団を殺してない。

 なぜなら十分足止めが可能だと思ったから。


 不必要な殺害はしたくなかったから。


 ここまで追いかけてきたのか!?そんな馬鹿な、あり得ない!


 あらゆるものが空間を飛び越えるという性質故に、仕組みを理解すればするほど破壊という選択肢が遠ざかり、脱出が困難となる。

 即座に打てる手はスキルのみ。

 でもフェルテは勇者以外にスキル持ちはいないと断言した。

 そして、根拠もあると言った。


 何があった?ーーいや、それよりも先に……


「おいおいおい!もう攻略できそうだぞ!ヤベえんじゃねえのか!?」


 コイツっーーもう正しい攻略法看破しやがった!!



【宙の箱庭】の正しい攻略法。


 それは大量の何かを空中に流して空間のつながりを把握すること。


 術者が【宙の箱庭】の範囲外にいる今、敵を閉じ込めたまま再度空間をシャッフルするのは極めて困難。

 そのため攻略法が分かれば数十秒で攻略される。



 ……だが、代わりに敵の能力も把握できた。



「お前、スキルは『爆発する蜚蠊(ゴキブリ)の操作』だな?」


 スキル名は【黒き悪魔の爆弾(グレネード・ジー)】。


 グレネードは爆弾。

 ジーはGで、ゴキブリのことだな?


 そしてさっき、【宙の箱庭】攻略のためにばら撒いたアレがゴキブリ爆弾だな?


「ああそうだよ。もう遅いけどな!【黒き悪魔の爆弾(グレネード・ジー)】」



 ……いや、遅くはない。まだ勝てる!


「領域構築【小宇宙(コスモス)】っ!!」


 だってお前は知らないだろう?


「【インタステラ】」


 数の弱点。


 それは一個体ずつの強度。


 ……やっぱりだ。ゴキブリ一体一体は強くない。僕のスキルに抵抗できてない。


【インタステラ】は【小宇宙(コスモス)】内でのみ使える位置操作術式。

 僕が狙ったのは敵の大量のゴキブリによる敵の圧殺。

 そして、敵が死をゴキブリの収納によって回避した時のための僕自身の敵からの遮蔽。


 そして黒い霧が晴れる。

 僕の拳が敵の顔面へ吸い込まれていく。



 ーーその前に。


最高統治者(スプリーム・ルーラー)


 広がる銀の壁。

 直後、黒い悪魔が爆散し、閃光が駆け抜ける。



「知ってたよ。隠れて不意打ち狙ってることくらい」


「キッッッショ」


 首が宙を飛んだ。



 千を超えるゴキブリを収納。

 ゴキブリの手札は無いと思わせて、隠した1匹での不意打ち爆殺。


 もろに食らえば重傷は免れない。

 死もありうる。


 仮に生き残ってもこれ以上の回復は計画の半壊につながる。

 洗脳という手札があるからこその戦法。


『死んでも殺す』ではなく『死ぬけど殺す』。


 似て非なる二つの言葉。

 例え自分が消え去っても支配主のために惜しみなく死を引き換えとした手段を選ぶ。

 その行動に思わず涙がでそうになった。


 誰かに尽くす行動への賞賛?そんなわけないだろ。

 思考さえ許されず、命を散らすことを非情に命じられる彼らの行動への憐憫だ。



「安心するといい。洗脳を施す悲劇の根源は僕が壊す」


 これは覚悟。

 そして、人を殺した僕にできる唯一の贖罪。



 きっと僕はいつまでも後悔はしない。

 理不尽な召喚のせいとは言えど、僕は蓮斗を殺したお前らが憎いし、許す気はない。




 ーーただ。


 僕は彼と同じ人殺し。

 許す気はなくても、許される権利はなくても、その罪を背負うことはできる。


「僕がお前らの分まで戦うよ」


 戦って、戦って、戦って、死んだら今度は罪を背負って歩いてやる。



 ーーだから今はまだ……どうか許してほしい。



 ピロリンというレベルアップを知らせる薄っぺらい音が頭の中で何度も響いた。


もし、未来に分岐点なんてものがあるんだとしたら、それは多分、今日だったんだろう。

この日の出来事を経て、物語は一つの道の形を成した。


その未来が日の目を見るのはいつの日か。

炎は今も燃えている。

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