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星使いの勇者  作者: 星宮 燦
第二章 幻帝戴天
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2ー88 初戦

「敵が侵入したぞぉぉぉおおおおおおおおお!!」


 ドアを開けた途端に大音声(だいおんじょう)が響いた。

 同時に空や門の上から降りてくる騎士団。

 追加で城本体からも数人だけだが人が駆けてきた。


 走ってくる3人の男女の顔には妙な懐かしさがあって、その違和感を優人は即座に見破った。


「勇者か」


 銀色に鈍く輝く全身鎧をガッチリ着込んだ男だ。

 男とは言っても16、7歳程度でまだ青年の部類に入るような容姿だ。

 漆黒の髪色は男の異質さを表すようで、どこか違和感を感じる。


 純白の衣装に身を包んだ女は腰にショートソードを身につけている。

 革のベルトで固定されたそれはヒラヒラしたこの世界特有の衣装と合わさって不思議な見た目を作り出している。

 背中まで伸ばされた髪は黒で、清楚な印象がありそうなものだが目が(うつろ)だった。

 目と清楚な装いが相まって不気味な雰囲気を醸し出している。



 3人目はオレンジ色の髪の女子。

 明るいポニーテールが後ろで軽やかに揺れている。

 髪色は綺麗なのだが、衣装が青だからか、似合ってないーーというより違和感が凄まじい。

 なんで暖色系の衣装を選ばなかったんだ、とつい言いたくなる。

 とにかく服選びのセンスが酷かった。



「騎士団じゃないみたい。勇者かな?」


「多分。スキル使ってくるかも」


 騎士団と鎧の形が違うし、3人とも装いがちぐはぐだ。

 これでもし本物の騎士団だったら失笑を送ってやろう。



 それと、


「オレンジ……か……」


 髪色が気になった。

 あの髪は祝福なんだろうか。


 オレンジなら火と土の祝福だろうが……


「西田は染めてただけだったからなあ……」


 西田は金髪だったが普通に日本で染めてたやつの名残(なごり)だった。

 染めたのか、祝福なのか、どっちだろう。




 ***




 ぴくりと視界の端で動く人影が見えた。

 それと同時に【宙の箱庭】を発動する。

 範囲は騎士団の周りだけにし、魔力の減りを最低限にする。


 同時にこれは、勇者を先に倒すという意思表示だ。


 そしてその考えを敵も理解する。


 ダッ、と男が駆け出す。

 それに対して【固形大気】を発動する。


 しかし、止まらない。


「紗夜下がれ!」


 そう叫ぶと即座に【固形大気】で剣を生み出して敵の大剣を受け止める。

 ガキィイイイインと音が部屋に木霊した。





「【固形大気】」


 この戦いでイルテンクロムの力は借りない。

 なぜならもしもの時に一番役に立つからだ。

 そして、間違いなく敵が知らない切り札だからだ。


 僕はこの力をこの戦場にいる仲間以外の前で使ったことがほとんどない。

 ヴァイスターク王国でも人前では使っていない。

 帝国で使ったのはさっきの着地の時だけだ。


 それなら敵がこの魔術具の効果を知っているはずはない。

 故に切り札になる。


 優人は魔力消費の比較的少ないスキルの技のみで初戦をくぐることにした。



 ……にしても剣が鋭い。


 素人目でもわかるほどの素晴らしい剣術だ。

 スキルの牽制がなければもう負けている。


 ……いや、違うな。剣術スキルみたいな能力か。


 たまに下手な剣捌きがある。

 それがスキルの切れ目だろう。



 その切れ目を狙って確実に仕留める。


 優人は覚悟を決めた。




 ***




「僕たち、人殺せると思うか?」


 帝都戦の数日前の深夜。

 偶然一緒に目を覚ました蒼弥と僕は少し喋っていた。


「何だ?急に」


 少し驚いたふうに返す蒼弥。


「僕らは1ヶ月くらい前まで日本にいた。そんな僕らが人を殺せると思うか?戦闘の時、躊躇せずに命を奪えると思うか?」


 それだけが数日後への不安だった。


「俺はもう人を殺した」


「そう、か」


「俺は殺すぞ。ここは日本じゃない。弱肉強食の世界だ。俺はこの世界で生き抜いてみせる」


「そっか」


 少し安心した。


「そういうお前はどうなんだ?不安か?」


 その本気で心配する声を聞いて悪いがちょっと笑ってしまった。


「ハハッ……僕も殺人者だよ。蓮斗が殺された時に殺したやつを()り返した。ほんと、クズだよ。親友殺されたからって人殺していいわけないのにさ、怒りに任せて殺したよ」


 後悔はない。

 でも、申し訳なかったとは思ってる。

 その罪悪感で押しつぶされそうなくらいに。


「殺すよ、僕も」


 だってもう僕の手は穢れてるから。


「純恋とか、遥香とか、紗夜とか。アイツらはまだそういうことをしてない。だから僕は矢面に立つつもりだ。全部殺して責任とか、罪悪感とか、そういうもんは僕が背負うよ。まだアイツらは純粋でいい。まだ、その手を汚さなくていい。少しでも長く、純粋なままでいられるように、僕は死力を尽くすよ」


「ハッ、何水臭いこと言ってんだよ。遠慮なく俺も巻き込め。そしたら少しは楽になるだろ?」


 ニカッと笑いかけた親友に小さな笑みを返した。




 ***




 ああ、そうだ。

 僕は躊躇しない。



 巨大な石が飛んでくるのが見えた。

 なるほど、物を操る感じのスキルだな。


「【空間転移】」


 飛んできた巨石を後ろで何やらこそこそやってる敵の勇者に飛ばす。

 同時に男を上空に転移して駆け出す。


 剣使いの女の子が石を割ろうと剣を振るった瞬間、彼女を僕の目の前に転移させる。


 直後、首が宙を舞う。



 落下中の男に適当に弾丸を飛ばしながら即座に転移。

 着弾直前の石と場所替えすると、その後すぐに目の前の念動力使いと場所入れ替え。



「知ってたよ。他の石も動かせることくらい」


 たった一つの石程度で容量いっぱいになるスキルなんてあるはずがない。

 窮地に陥った今、周囲の石で僕を圧殺しようとすることくらい、ちょっと考えれば予測できる。



 背後で轟音。

 同時に気絶した少女が岩の間から現れる。


 彼女に向かって剣を振り上げ、振り下ろす直前に転移を行った。


 直後、目の前には頭蓋に剣が突き刺さった男の死体があった。





「……終わったの?」


「ああ、終わった」




 ……ただ、変だ。


 自分が今季の勇者の中で強いことは知っている。

 不意打ちされない限りは、今季の勇者の中で最強を名乗っていいだろう。


 だが、奏ら帝国勇者が呼ばれたのは2年前。

 奏によると時間の大半を精神支配に慣らすために使ったようだが、違法に他国を攻め滅ぼしたのなら報復も当然想定内のはず。

 にも関わらず弱すぎる。


 奏の僕と出会った当初のレベルが低かったからこうしてレベルを試してみたのだが、あまりにも弱い。


 …… そう、まるで罠が敷かれているみたいに。


 でも奏から罠の情報はない。

 なら何だ?


 まさかのまさか、破滅願望でもあったのか?


「紗夜、計画変更だ。勇者殺害より洗脳の魔術具破壊を優先……」


 視界の端で何かがキラリと光った。

 直後に響くガラスが砕けるような音。


「え?」

「ーーっ!伏せろ小見山!」


 咄嗟に紗夜の頭を床に叩きつけるようにして姿勢を下げさせる。


 同時に頭上を通過する巨大な何か。



「【空間転移】!」


 一息で殺す。

 コイツは危険だ。


 防御の要である【モノリス】を一撃で破壊して余りある出力。

 弱いと切り捨てていい敵ではない。


 空気の剣を振り上げる。


「ーーえ?」


 しかし、振り切れなかった。


「……何で……」


 廊下の先には怯える1人の男がいた。

 

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