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星使いの勇者  作者: 星宮 燦
第二章 幻帝戴天
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2ー86 無の拒絶

 特に何もなく、遥香の絵の暴露会から2日が経過した。



 僕らは一度の戦闘もせずに、ロルニタ帝都・ロラドノムを視界に収めた。


「早かったですねえ」


「徒歩だったらホントは2週間は余裕でかかるからな」


「戦闘はもう始める?朝だけど」


 ここが問題だ。

 本来なら夜の方がいい。

 多くの人間が眠りについているはずだし、姿を隠しやすい。


 だが、奏のクラスメイトを連れ出すのなら朝の方がいい。

 因みに昼は論外だ。


「でもなあ……洗脳の…………………」


「あ!」


 ここにきてやっと思い出した。

 洗脳にかかっちゃうじゃん。


「それから……テスカって洗脳かかるのか?」


「テスカっていうと……あの真っ赤な魔獣のこと?」


「そうそう。アイツ洗脳されるんなら連れていけないし」


「どうしようもなくなったら召喚すればいいんじゃないですか?」


「このままだと死ぬって時にね」


「それが無難だろうなあ……」



 アイツと戦っていたら救出どころかこっちが捕まる。

 最悪、死ぬのもあり得る。


 味方に負けて逃げ帰ったなど、目も当てられない。



「それで俺らの洗脳はどうすんだよ」



 今現在確実に洗脳に耐えられるのは純恋と奏のみだ。

 流石にこの2人だけで洗脳を止めてこいなどとは言えない。


「でしたら……ここから私が皆さんにずっと浄化をかけ続けましょうか?」


「ちなみにどのくらい保つ?」


「多分1時間……余裕をもって50分が限界でしょうか」


「護衛に私もそばに居ようか?」


 姉のことが心配らしく、純恋に向ける瞳が微かに揺れている。

 本当に、姉思いのできた妹だ。

 ここまで仲のいい姉妹もそうはいまい。


「じゃあ任せてもいいか?」


「僕に浄化はいらないからね。それから祝福もあげとく。【世界の書(セルノ・アゼイシア)】。ーー星の神の祝福を純恋に。」


 魔力増幅効果のある星の神の祝福が宣言され、純恋の頭上に黒い光の結晶が現れて降り注ぐ。

 色が色なのでちょっと邪悪な雰囲気があった。

 失礼だけど。


「じゃあもう行くか」


「いいよ。結界は俺が壊すから」


 結界破壊担当に名乗り出たのは奏。

 一度壊しているらしいのでここは任せた方がいいだろう。


「梶原。敵の数がいまいちわからない。多分結界のせい。何があるかわからないから気をつけて」


「珍しいな、そんなこと言うなんて。変なもんでも食ったか?」


「違うし!ただ!……その……遺憾ながら姉さんがアンタのこと好きらしいから一応!」


「そんなこと言わなくてもいいんですよ。遥香はみんなのことが心配なんですよね」


「大丈夫だよ。紗夜も頑張るし。みんな助けるから」


「ありがと紗夜ちゃん。じゃ、行ってらっしゃい」


「「「「行ってきます!!」」」」




 帝都攻略戦が幕を開けた。





 ***





 場所は変わってエルリア王国都・エラルシア。


「結界の拒絶」


 元から存在しなかったかのように緑の半透明の膜が音もなく消滅する。


「相変わらずザルだねえ、ここの警備」


 そう言いつつ、一瞬感じた違和感に思考を巡らす。


 ーー何だ?この魔力は。懐かしいけど思い出せないこの魔力は。


 知ってるけど、知らない。

 ……なるほど、蘇生時の記憶障害のせいか。


 結果、脳は危険性を否定した。

 ならば考えるのはやめだ。



 ーーさて。


 最近から帝国が支配を始めたと言うからどれだけ強くなったのか楽しみにしてたのだ。

 なのにこのザマはどういうことだ。


 なんで3つも結界抜けたのに雑魚兵士しか来ないのかな。

 さっさと騎士団出せばいいのに。

 このまま雑魚をいくら繰り出しても屍の山が高くなるだけだ。

 何も戦況を動かせない。



 それとも本国の方に強い奴ら纏まってるのかな?

 もしそうならまた今度、こっちの用事が終わり次第あの国に戻ってみるのも悪くないかもね。


「門は邪魔」


 門が消し飛ぶ。


 最近、移動中に【拒絶】(この力)の新しい使い方を考えていた。

 初めはカウンタータイプのスキルだと思っていた。

 敵の動きを、魔法を、スキルを制限して、乱し、遠ざけ、無かったことにする。



 敵の力を暴走させたり敵の能力を逆手に取った戦術を主に使うものだと思っていた。



 でも、



 この力が森羅万象全てを掌握し、その全てを自由自在に拒絶できると言うのなら。




『無を有にすることだってできるんじゃないか?』




 明確な理由はない。

 明確な根拠もない。

 でも、できると思った。


 だって、【創造】でも出来たんだから。


 あれに出来たんならこれにもできる。

 そうに違いない。



 そう考えた。

 故に、


「僕が剣を持ってない状況の拒絶」


 確かな自信を

 右手に銀色に鈍く輝く剣が召喚された。


「うん。思った通り。やっぱりいいね、この力は」


 蘇生条件として天野竜聖は創造系統の全てのスキルと魔法を使用できない。

 しかし、これは拒絶。

 問題なく作動した。





 スキルに良し悪しは殆どない。

 勿論多少の誤差はあるし、【創造】をはじめとした極々僅かなスキルは最上位に並べられるが、基本的にどれも力に差はない。


 どのスキルも『正しい』使い方ができれば最強へと至れる。


 特にスキルの詠唱。

 基本的に最上位以外のスキルの詠唱は第一詠唱発現しないが、ないわけではない。

 可能性は無限大。

 みんながそれを知らないだけだ。


 まあ、それ以前に扱いが下手くそな人が多すぎるんだけど。




 スキル保持者で弱い奴は使い方がわかっていない奴だ。

 使い方がわかってないから弱い。

 勿論、相性もあるだろうが、一番の要因は使い方を知っているかどうか。


 それでけで最上位スキルだって最弱になれる。


 それがスキルというもの。


 誰かに聞いたわけではないし、確固たる証拠があるわけではないのだが、少なくとも竜聖はそう思っている。

 いや、確信している。


「う〜ん……でも難しいな。魔剣とか聖剣は無理か。神剣はもっての外としても……魔剣すら無理かあ……」


 尚、魔剣は魔族の剣ではない。

 魔力を特に多く内包した剣のことだ。

 その魔力量は聖剣を上回る。


 因みに、聖剣は魔剣よりも付与能力が秀でていて、神剣とは魔剣と聖剣のいいとこ取りをした完璧な剣のことだ。



 剣としてのランクが数段階上がる神剣は無理だとしても、構造が単純で使用者の魔力量によって強さが変わり、術者自身が術式付与ができる魔剣ならなんとか出せれるかと思ったが、どうやら無理らしい。

 仕方がないな。



「まあ、今回の目的達成くらいなら普通の剣でも余裕だろうから、別にいいけどね」


 うっすらと薄気味悪い微笑を浮かべて門をくぐる。


 目的地は城の宝物庫。


 そこにこっそりと保管されているであろう過去の遺物を回収する。


 どこにあるかは把握済みだ。

 道案内は必要ない。


 なんせ、僕が作って、隠したんだから。


 万が一を想定して宝物庫にこっそり隠し部屋を創っておいたがまさかそこに再び入る日が来るとは思わなかった。


 でも結果は重畳。

 やっておいてよかった。



 敵にはあの熾星終晶刀を持っている奴がいる。

 あれと敵対するのに神器はなくてはならないものだ。


 別に、人間が作った神器ーーいや、神器もどきだから、スキルがあれば何とかならないこともない。

 だが、保険として持っておいて損はない。



 他の対抗手段としては強いスタッドだが、あれはミズガルズの貴族学園に行かないと手に入らない。

 そして、僕は学園に行きたくない。

 今更誰かと仲良くお勉強など虫唾が走る。





「お出ましか、騎士団」



 どこからともなく湧き出す雑魚どもが。

 分を弁えてさっさと退けろ


「道を開けて。邪魔だから」


 そう呟いてから息を吸う。


「【鑠天(しょうてん) 生濁(せいだく) 熾火の(かたど)り ()(ともがら)は 背理の(かそけし)】」







 その日、エルリア王国首都・エラルシアは再び陥落した。


僕は全てを否定する。

目的のためなら何も厭わない。


全てを捨てて、夢を拾う。

光を退け、闇を呑む。


それが救いになるのなら、

それが祈りになるのなら、


どんなことでもしてやるよ。

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