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大好きだよ!

 雷電丸は静川さんを背負いながら歩いている。向かう先は我が家、ではなく静川さんの住むアパートだ。


「本当に家には来んのか?」


「うん、お誘いは嬉しいけど、こんな格好で双葉っちのお家にお邪魔するのは気が引けるから」


 静川さんの全身は泥まみれで、あいつらに暴行を受けたせいで身体中青あざだらけになっていることだろう。


 先程、雷電丸は静川さんを食事に誘ったのだが、ボロボロの姿を私の両親に見せて驚かせたくない、と丁重に断って来たのだ。


「ならば儂の家で風呂に入って行けばいいじゃろ。背中位流してやるぞ?」


「ふ、双葉っちとお風呂!? あわわわわ、それはちょっと急すぎるっていうか、いきなりそれはダメだし!」


 静川さんは顔を真っ赤にしながら、酷く狼狽えた様子で、はわはわと悶える様に声を吐き洩らした。


 双葉っちがどうしてもって言うなら考えてもいいし、と静川さんが小さく呟いた様な気がしたが、内容が内容だけに訊き返すのもはばかられ、私は聞こえなかったフリをした。


『雷電丸! 貴方は男子でしょう⁉ 静川さんは女の子なの。それだけは絶対にダメよ⁉』


 というか、私だっていきなり静川さんと一緒にお風呂に入るには色々と覚悟とか準備が必要だ。ここは絶対に阻止する必要がある。ちょっと残念な気もするが……。


「そっか。うむ、分かった。それでは家までは送らせてもらうぞ」


「双葉っち、あたし歩けるから降ろしてもらって大丈夫だよ?」


「よいよい。友なんじゃし、こういう時位は素直に甘えるもんじゃぞ」


「でも、あたし、最近太っちゃって重たいでしょう? 無理しなくていいんだよ、双葉っち」


 太った? 何処がですか、静川さん⁉ 腰はくびれていて足も長いし、噂ではモデルにスカウトされたこともあるという小顔の美少女。彼女にとって『太る』という定義は私みたいな一般人とは大分かけ離れているようだった。


 すかさず雷電丸が反論する。


「その逆じゃ。軽すぎるわい。もそっと飯を食って肉をつけろ。儂は細身の女子よりぽっちゃりした女子の方が好みじゃぞ」


「双葉っちはぽっちゃりめがタイプなんだ。うん、分かったし!」


 何が分かったんだし? と私は心の裡でとっさに返してしまった。


 静川さんは嬉しそうに笑うと、掴んでいた肩から手を離し、雷電丸の首にしがみつくように両腕を回してくる。その仕草がなんだか恋人に甘えている様な気がして私は思わず赤面する。


「大好きだよ、双葉っち」と、静川さんは耳元に囁きかけて来る。


 はうあ⁉ と私の鼓動が大きく弾けた。今のは友人として、という意味よね? 


「何か言ったかの、のぞみ?」


「ううん、別に。双葉っちの好きな食べ物はなに? って聞いたの」そう言って静川さんはクスクスと微笑む。


「ほうほう、儂の好物が聞きたいか? 儂の好物はだの……」


 そうして、アパートに向かう間、雷電丸と静川さんは好きな食べ物の話で大いに盛り上がった。


 不思議なもので楽しい時間はあっという間に終わる。私達はすぐに静川さんのアパートに到着した。


「ほう、ここがのぞみの家か」


 そこはくたびれた二階建てのアパートだった。


「うん、あたし、ここでお父さんと二人で暮らしているの」


 私、てっきり静川さんは良い所のお嬢様か何かと思っていた。取り巻きの娘達がそうだったので、そのリーダー格の静川さんが一番お嬢様だと思っていた。


 友達のことをだんだん分かって行く感覚がこんなにも楽しくて嬉しいとは思いもしなかった。


「良かったらちょっと寄ってく?」と静川さんは目を輝かせながら誘って来る。


「のぞみも色々と今日は大変じゃったろう。残念じゃが、今宵はこれで帰るとしよう。それに、いきなりおしかけては父君にもご迷惑がかかるしの」


「別にそんなの気にする必要ないのに。でも、あたしもお風呂に入りたいし、今日は解散した方がよさげだね」


 静川さんは雷電丸の背中から降りると、一言「ばいばい、またね」と言って来る。


 それに対して雷電丸も「また明日な」と笑顔で返す。


 私達が振り返って歩き始めると、後ろから静川さんの声が聞こえて来た。


「また明日ね、双葉っち。今日は本当にありがとう!」


 静川さんはずっと私達に手を振り続けていた。


 これが友達か、と私は胸が熱くなる思いだった。


 羨ましいな、と私は雷電丸を見つめながらそう思った。


 何故なら、彼女が好意を抱いているのは私ではなく、雷電丸だけなのだから。


 勘違いしてはいけない、と私は自分にそう言い聞かせた。

 

 その後、帰宅した私達は食事を済ませて入浴した後、早めに就寝することになった。


 今日も色々とあり過ぎて私の体力が限界を迎えたのだ。早く眠って心と体を回復させたいと思った。


 明日も無事に一日を過ごせます様に、と願いながら私は眠りにつく。


 だが、この時、私は知る由もない。大事件が間もなく訪れようとしていることに。

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