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recar  作者: あめり
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止まっていた歴史は、ひとつの物語として新しく綴られる。

神々の眠る大地と詠われるアズカルド。

この世界には時という概念はなく、ずっと明るいままだった。

陽が昇っていても熱はなく、風も吹かなければ、空の移り変わりはない。

見上げればどこまでも続く途方もない蒼窮、ほんのわずかな喧騒もいさかいもなく、広大な大地は青く芽吹く。

のびのびと天を仰ぐ草花が揺れることはない。世の理から切り離されたように、動植物らだけは成長し、自らの意思を持ち、それを原動力に動き、しっかり機能していた。

彼の誰かが願い、誰もが祈った世界を象り、実に安穏とした世の在り方。


生きとしい生けるものは息をする。背景配置の変わらない舞台の上で。

世界の歴史は止まったままで、確固たる運命も存在しなかった。

続きのない物語は、またふりだしに戻る──。


---


静寂な空間。

微睡みの中で、子守唄のような心地よい音色が鼓膜を揺さぶった。

揺蕩う光にそっと瞼を開ければ、ぼんやりと浮かぶ、その景色。

パチ、パチ。

木が弾ける音がする。

温もりが肌から伝わって、じんわりと馴染んでいった。それはほんの一部だけだったので、すぐにまた冷たさが肌に刺さる。

───ここはどこだ?

うすら寒くなって思わず身震いをし、体を縮こませる。

滲んだ色は段々と鮮明さを増して、やっと、脳が覚醒した。


「目が覚めたか」


ふと、人の声。

ぼうっとしてた瞳を動かせば、見覚えのあるブライトイエローとシアンブルー。

───ああ、そうか…。


「…ああ、おはよう」


身を起こして、まずは挨拶。それからまた、地面を見つめる。暗闇は、寡黙な怪物みたいだ。こちらの様子を虎視眈々と窺い、隙あらば襲い掛かってきそうだ。

辺りは木々ばかりで、生き物の気配すらないというのに。

たたただ、そこにあるのは、闇だ。


「随分長く眠っていたな。疲れていたのか?」


静かな声。その声の主は、問うたにも関わらず、少年の方を見ない。彼も、手持ち無沙汰に足元にあった枝を弄りながら言ったのだ。


「───…、どれくらい寝てた?」

「半日だ」

「あ、そんなに」


漸く彼は少年を見た。


「起こしてくれればよかったのに」

「なんだ、蹴り起こせばよかったのか」

「いや、それは困る」


また眼前にいる彼から視線を外して、地面を見つめる。


「…、どうする?」

「何がだ?」

「これから。どこに向かうかって」

「…ああ」


彼は立ち上がると、少年を見た。


「…まぁ、まず、歩こう」

「そうだな」


少年も腰を上げる。ザリ、砂を踏み締める音がした。それだけが木々にこだまして、再び静まり返る。


「さて、行くか」


彼は燃え尽きそうになっていた焚き火を消して、そう言った。

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