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聖女の顔は何度まで  作者: かたつむり3号
第二章 時、満ちて。
8/25

04


 破壊と蹂躙。

 それらは、魔である彼らの本能が求めることである。魔族として独立しても、根源に根づく衝動であることには変わらない。エレオノールはそれらを許すと約束した。

 聖王国の防衛その要、国の最終防衛ラインたる聖女が、魔族に対して国家の破壊と蹂躙を許可した。


『わたくしたちは国に飼い殺されている、聖女と呼ばれる生き物です』『鼠だって死線に立てば猫を噛みますのよ』『自由を奪って死ぬまで閉じ込めようというのだもの、ペットに噛み殺される覚悟くらいあるでしょう』


 幾度目かの訪問。

 魔族を訪ねては言葉を重ね、国へ戻っては聖女たちと議論を重ね、そうしてまた訪ねては言葉を重ねる。

 1人でもやめようと言い出せば、やめるつもりだった。

 優しい彼女たちの誰か1人でも、荒っぽい手段は避けようと言えば。歴代の聖女たちの誰か1人でも、それでもここは故郷だからと嘆けば。

 そんなことはなかった。


 こんな国はもう、要らない。


 彼女たちの意見は一致していた。

 何も無計画に破壊の限りを尽くして、土地を蹂躙させようというのではない。助けるべくは助け、逃がすべきは逃がす。守るべき命はきちんと守る。

 これは聖女たちの復讐で、これは彼女たちの自己満足だ。正義のためでも、大義のためでもない。ひどいことをされたから、ひどいことをやり返す。ただそれだけだ。そのために国民全員を巻き込もうなどと、そんな野蛮なことを考えているわけではない。


 会話のできる相手だから、対話の成り立つ相手だから。心を通わせ、言葉を通じて、慎重に話を詰めていった。国は崩壊するだろう。民は混乱するだろう。それでも、聖女(わたしたち)の苦しみに比べれば、大したことない。

 彼女たちはもう、許さないと決めていた。


「さて、と」


 エレオノールは微笑んだ。

 伝令に走らせていた聖女たちが、頬を薔薇色に染めながら戻ってきた。避難は滞りなく。これでいつでも、すぐにでも。

 エミリがエレオノールの袖を引く。早く、早く。

 待ち焦がれた瞬間に、聖女たちは浮足立つ。もう待てない。誰の顔にも同じことが書いてあった。


「では旦那様、そろそろ始めましょうか」


 わたくしたちを、どうか、助けて。


「君のためなら、喜んで」


 歓声があがる。聖女たちが、魔族が、手に手をとり合って、喜びを分かち合う。

 破壊と蹂躙の時間だ。

 華やぐ聖女たち、猛る魔族。そのそばで、あげる悲鳴も尽きかけたジョセフが身じろいだ。身をねじり、頭を振り、その拍子に噛まされた猿轡が緩んだ。


「化け物が!」


 シン、と場が静まり返る。


「貴様ら、自分たちが何をしているのか理解しているのか!」


 国を裏切り、魔を招いた。否。あれらは魔ですらない。それよりも恐ろしい、得体の知れない怪物だ。許されない。許されることではない。

 声の限り叫ぶ。彼女たちは、神に裁かれる。このままで済むはずがない。恐怖よりも何よりも、先立つ怒りに任せ、彼は叫んだ。


「悪魔に魂を売った化け物どもが! これは神への反逆だぞ!」

「それが、なんだというの?」

「っ、――は?」


 ゆっくりと瞬き、エレオノールは頬に手を添えた。わずかに首を傾げる様子は、本心から理解できないと訴えかける。

 お前は一体、何を言っているんだ。

 そう言わんばかりの、態度であった。


「反逆されねば気づかぬ愚鈍にいまさら、わたくしたちが怖気づくとでも思っているの?」


 ハッとして周囲を見回す。

 ずらりと揃った聖女はみな、エレオノールと同じ顔をしていた。

 わからない。彼女たちはみな、ジョセフの言葉を理解できていない。


「裁くというのなら勝手にどうぞ。わたくしたちは止まらない」

「な、なぜ……」

「怒っているから」


 端的な返事を、ジョセフは理解できない。


「わたくしたちはもうずっと、ずっと怒っているのよ」


 微笑む姿は正しく、国を守る聖女の姿。


「気がつかなかったのね、おまぬけさん」

「そんなことで、……国を、国がどうなっても――」

「構わないわ」


 だって、と。笑む姿は反して、国を亡ぼす悪魔の姿。


「こんな国、わたくしたちは要らないもの」


 要らないものは処分する。普通のことでしょう?

 当たり前のように、彼女は言う。腐った芋を捨てるような、折れたペンを捨てるような。そんな当たり前の顔をして、彼女は国を亡ぼすと言う。

 救いのない状況で、それでも捨てきれず視線を泳がせると、エミリと目が合った。

 魔術師協会が招いた少女。異なる世界から招かれ、この国の大聖女となった乙女。神聖な魔力を内に秘めた、清らかな聖女。

 エミリはジョセフの視線に気づくとにっこり笑んだ。そこには一切の穢れがない。無垢な笑みを浮かべたまま口を開いた彼女は言う。


「世界を奪われた私の復讐が国1つって、私って実はすごく優しいのかもしれませんね!」


 目の前が暗くなる。ぐるん、と世界が引っくり返って、ジョセフは気を失った。くずおれた体を支えてくれる誰かは、この場のどこにもいなかった。

 

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