06
「エレオノール、本気か!?」
エドワードは絶叫した。破壊と蹂躙のおかげで昂ってきた気持ちが一気に冷え込む。
『申し訳ありません、旦那様。待ちに待った瞬間を目前に、どうしても我慢できなくなってしまいまして』
エレオノールたち聖女の側から入った緊急の通信は、「待ちきれないからもう仕上げやっちゃうね」という驚愕の連絡だった。血湧き肉躍る最高の夜を過ごしていた魔族たちは戦慄する。
最後の仕上げ。
進撃する魔族を、国中の聖女たちが渾身の魔法で退ける。あくまで演出だが、実際に彼女たちは魔法を放つ。魔族の侵入を許すほどに損傷した結界を、聖女たちが新たに張った結界で補強するという設定だ。
結界は渾身の一撃で放たれる。魔族が触れれば当然ながら消滅する威力だ。だから王宮まで駆けた魔族は城内の一室に身を隠し、仕上げが済むまで待機することになっていた。
『みなさまはこのまま王宮まで駆けてください。聖女の魔法は天へ向けて放出します。使い魔の鴉だけ回収してください。大丈夫です。魔族のみなさまへ当てるようなミスは致しません』
「それは……信用しているが……」
聖女の技術や信頼を疑っているのではない。
結界を張る。その事実にただビビっている。避けてくれると知っていても、当たらないとわかっていても、当たり前に狙われていなくても、怖いものは怖いのだ。
『申し訳ありません……』
「……わかった。やってくれ」
エドワードは腹を括ることにした。惚れた弱みともいう。エレオノールがあまりに寂しい声を出すので、彼は愛する妻のために頑張ることにした。怖いけれど、膝が震えてつい余分なところまで土地を抉ってしまったけれど。それでも頑張ることにした。
使い魔たちを呼び集め、各地の魔族へ伝令を飛ばす。……不安や恐怖の声はあがったが、猛る聖女に『待って』をかけられるものなどいない。最終的にみな頑張ろうということで合意した。
頑張ろう。こんなにも愉しい夜なのだから。
頑張ろう。これからもっと楽しい日々になるのだから。
頑張ろう。新たな時代の幕開けに相応しく、精一杯頑張ろう。
――星が瞬いた。
活性化した魔力の粒子が弾け、流星のように夜空を彩る。地上から、天へ。流れ上っていく流れ星。
「綺麗だ……」
この日、魔族は生まれて初めて――魔として蠢いていた時代から数えても初めて、聖女の魔法を美しいと思った。




