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聖女の顔は何度まで  作者: かたつむり3号
第一章 聖女様の侍女
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02


 リリアージュ聖王国は、魔が蠢く土地と隣接する小国である。他国による侵攻がない代わりに、この地は古くから魔による蹂躙の危機にさらされてきた。その対策としてこの国は常に多くの聖女を擁し、国を覆う結界によって民を守り、浄化によって魔を祓ってきた。

 結界を維持するのは聖女の役割である。国全体を覆う結界は彼女たちが日に3度、祈りを通して神聖な魔力を流すことで保たれている。彼女たちは国の生命線であった。


「おかえりなさいませ、聖女様」


 エレオノールが侍女として仕えるのは、聖王国が抱える聖女の最高峰、大聖女と呼ばれる少女エミリであった。


 かつて、あふれ返った瘴気によって魔が増幅し、押し寄せる邪悪を聖女たちの結界だけでは防ぎきれず、前線の軍も壊滅し、あわや国の滅亡かと思われた時代。最後の手段として、魔術師協会が生き残った人員を総動員して行使した召喚の儀によって、異世界より1人の少女が招かれた。

 後光が差す程の芳醇な魔力は、目が眩む程に神聖で、一夜にして形勢は逆転したという。大聖女ヨシコは今なお国の歴史に名を刻む大恩人である。

 以来、聖王国ではたびたび、異世界から聖女を招くようになった。

 当時は大魔術だった召喚魔法も、協会の研鑽により難易度はぐっと低くなり、より安全な召喚が可能になったことも拍車をかけたのだろう。異世界の聖女は、今ではそう珍しくない存在となっていた。


 エミリもその1人である。召喚の儀が行われたのは5年前、瘴気の異常発生の報せが入ってすぐのことだった。

 問題ない、と進言した。今、教会に所属している聖女たちだけで処理できる、と。当時、大聖女の任を仰せつかっていたエレオノールは、すぐに召喚の儀を執り行うと息巻く魔術師協会の会長へ、そして国王へ、すぐに鎮静化できるとはっきり言った。教会が擁している聖女は総勢20名。全員が膨大な魔力と屈強な心の持ち主ばかりである。異常発生の原因すら調査せぬ間に、異世界の住人を拉致してこなければならない理由など1つもなかった。

 しかしエレオノールの言葉は無視され、そうしてエミリが招かれた。まだ14歳の少女だった。混乱も拭い切れぬ間に彼女は瘴気を祓うよう強要され、それでも見事に役目を果たした。


 怯えながら、泣きながら。

 付き添ったエレオノールは謝罪することしかできなかった。ごめんなさい。守れなかった。本当にごめんなさい。泣きじゃくるエミリの肩を抱き、背を撫で、浄化の作法を伝えることしかできなかった。

 エミリが披露した浄化に王と協会の連中は満足したらしかった。けれどエレオノールにはわかった。やはり異世界から聖女を招く程の事態ではなかった、と。エレオノールたちだけで事足りた、と。実際、その時のエミリが披露した浄化は、エレオノール1人でも実行できる程度のものだった。(はらわた)が煮えくり返る。あの時ほど、鮮烈にその言葉を実感した瞬間はない。

 召喚された聖女は通例そのまま大聖女の地位を引き継ぐが、まだ幼く未成年ということで、エミリが18歳で成人するまで、という期限付きで、エレオノールは大聖女の地位に座り続けた。


 あの時の後悔を、エレオノールは今でも夢に見る。


「ただいま戻りました、エレオノールさん」

「お疲れ様でした。すぐに朝食の準備をいたしますので、大聖女様は少しでもお休みになってください」

「はい、いつもありがとうございます」


 力ないエミリの笑みに、奥歯をぐっと噛みしめる。

 疲労の色が濃い。エミリはもうずっと無理を続けている。このままでは身が持たない。心が先か、肉体が先か。どちらにせよ、現状を打開しなければエミリはいつか倒れる。

 急がなければ、と決意を新たに、エレオノールは朝食の準備のためにエミリへ背を向けた。

 

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