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聖女の顔は何度まで  作者: かたつむり3号
第四章 頂の椅子
18/25

05


 聖女たちの言葉は続く。


「国は滅びます」


 完膚なきまでに。綺麗さっぱり。

 エレオノールは高らかに宣言する。


「王家が代々、大事に猫可愛がりしてきたリリアージュ聖王国は、今日をもって瓦解します」


 彼女は王を囲う結界、カエデの張った結界の内側に当たり前のように踏み込んで、座り込む王の首根っこを掴み立たせる。それからポイッと玉座へ体を放り投げ、座らせた。


「あなたには王という役割を演じさせてあげましょう。権力が何よりもお好きでしたものね。取り上げたりいたしませんわ」


 多くの人間に囲まれて、あらゆる人間を跪かせて。贅を貪り偉ぶって、聖女という贄を捧げて安寧の上に胡坐をかく。血筋と、歴史の積み重ねだけで己が頂点なのだと勘違いした愚か者。

 臆病な本性を隠すため、崇高な意思の元に集う存在であったはずの聖女を貶めた。神聖な魔力を持つ乙女をかき集め、教会へと収容し、国の守りを厚くし危険を遠ざける。歴代の王が強いてきたことを、この王もまた当たり前のものとして己の治世に敷いた。


 エレオノール1人で、所属している聖女の半数分は賄える。望まずここにいる聖女をせめて半数、解放してほしい。度重なるエレオノールの訴えを、鼻で笑った。

 決してエレオノールの力を侮っていたわけではない。知っていた。王はエレオノールの実力をきちんと把握していた。

 カエデが、王妃が証明した。エレオノールは本物である、と。

 王はカエデの言葉であれば疑わない。嘘でも信じて呑み込む。

 王は知っていた。知ったうえで、彼はエレオノールの訴えを笑い飛ばしたのだ。来るともしれぬ魔の襲来、結界によって阻まれているはずの彼らの侵攻を、恐れるあまり。


「か、――」


 王が唇を震わせる。いつの間にか彼は泣いていた。


「カエ、デは……?」


 恐怖で泣きながら、彼が呼んだのは己の妻の名であった。


「あら、驚いた」


 エレオノールは素直に驚いた。びっくりした。カエデのほうを振り返る。彼女もまた、目を丸くしていた。


「呆れた……」


 言葉は勝手に、カエデの口端からこぼれ落ちていった。

 呆れた。

 大聖女になってすぐ、カエデは王子の婚約者に据えられた。王子は2人。彼女が嫁ぐことになったのは第一王子。……第一王子のはずだった。

 傲慢な王子だった。異世界の女を娶るなどごめんだと、隠さず吐き捨てるような男だった。人間の皮を被っていても、中身には何が詰まっているか知れない、と。そんな男であったから、カエデの扱いは当然のようにひどいものだった。大聖女という立場がなければ殺されていた。異世界へ招かれたことで、回復魔法が使えるようになったことは果たして、幸福であったのか不幸であったのか。

 殴っても勝手に治るのだからこれは都合がいい。

 嗤う王子の言葉が今も、耳の奥にこびりついて離れない。


「あなた、まだ私のことが好きなの……?」


 ある日、カエデの婚約者は第二王子になった。第一王子は死んだのだと、後になって聞かされた。なぜそうなったかは、聞いていない。

 彼もまた傲慢であった。カエデのことを愛しているのだと、隠さず言い募るような男だった。愛おしくてしかたがないのだ、と。そんな男であったから、カエデの扱いは当然のようにひどいもので、それは第一王子が婚約者であった頃から変わらなかった。

 カエデはそのまま第二王子と結婚し、王妃となった。第二王子は死んでくれなかったから、しかたない。


「そんなに、私のことが好きなの……?」

「わ、わしは……お前をあい、愛して……愛しているんだ!」

「私は愛していないわ、あんたのことなんて」

「ぇ、……?」


 愛している。王はそう言うばかりであった。それは拳を振るった第一王子に負わされた傷よりも、ずっと深く、カエデの心を抉ってきた。カエデにとって愛は、暴力と、そう違わない。

 

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