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エレオノールは激怒した。マジギレである。
必ずやかの厚顔無恥な王子をぶん殴ってやると決意した。握りしめた拳を振るい、実際に殴る予行練習もしている。狙うは鼻だ。自他共に認め、エレオノール自身も認めていたあの端正な横顔を、一切の手加減なくぶん殴って文字通り鼻っ柱をへし折ってやると毎朝、早起きして練習している。イメージトレーニングはばっちりである。
エレオノールはもともとメリハリのはっきりした体つきをしていたが、日々の訓練のおかげかますます整い、しっかりと引き締まった。心なしか体調もいいような気がする。
柘榴色の双眸が鋭利に煌めく。所詮は女の細腕と侮っているところを一閃。脳内で王子の体が吹き飛んだ。軌道に散る赤い飛沫が美しい。
「……ふぅ」
拳を解き、背筋を伸ばす。きっちりと結った黒髪から数本こぼれ、頬をくすぐった。さっと撫でつけ振り返る。
階段を上ってくる足音を耳が拾った。主人のお帰りである。疲労が積み重なっているのだろう、その足取りは重い。
エレオノールは心身共にへとへとであろう主人を迎えるべく、口元に笑みを貼りつけた。