屋根裏のない家で自然に生きる
ジャンル:SF(空想科学)
「このようにスケルトン化したソーラーパネルの設置により、屋根裏のない家ができます」
「つまり、屋根付き屋上ができるってこと?」
「はい。こちらの分譲地では、ほとんどの方が設置を希望されてまして」
『自然に生きる家』と銘打った住宅が新興住宅地に並んだ。
その新興住宅地の中で、同じような家を建てたR氏とY氏は、良き隣人となった。
R氏は隣人のY氏と共に、屋根裏のない家を活用すべく、野菜作りに精を出した。
「おお、立派な小松菜ですな」
「Yさんこそ、きれいなほうれん草で」
互いにスマホを耳に当てながら、温室と化した屋根裏部屋の窓から、野菜の出来を褒め合った。
数年後、野菜を作り続けたR氏は、今度は果樹を育ててみたくなった。
手始めに林檎を育てようと苗を植えた。
しかし、何年経っても実がならない。
「どうしても、できないんですよ」
「ブルーベリーはどうですか?大きめのプランターで」
「いえ、何年もかけたのです。ソーラーパネルのスケルトンだってできてるんです。ここで諦めるわけにはいきません」
「できるもので、いいじゃないですか」
「いえ、やればできるものですよ。諦めちゃいけません」
Y氏は肩をすくめただけだった。
R氏が林檎に熱中する隣で、Y氏は土に触れることで充分に満ち足りたため、変わらずに野菜だけを作り続けた。
R氏はなぜ林檎がならないのかと、必死になって手を尽くした。
肥料が足りないかと、腐葉土の他に、牛ふん、鶏ふんを混ぜてみた。
そもそもの土の量が足りないのかと、土も増やした。
そして林檎の木は、R氏の期待に応えるべく、すくすくと育った。
嬉しそうにスマホ越しに報告するR氏。
しかし、Y氏には林檎の葉に覆われた屋根裏部屋のどこにR氏がいるのか、見えなかった。
その年の秋、ついにR氏は林檎の実を収穫することができた。
「やったぞ!ついにできたぞ!」
R氏は飛び上がって喜び、林檎の実を食べた。
それはあまり美味しいとはいえない味だったが、R氏にとっては長年の苦労が報われた瞬間だった。
「諦めなければできるぞ!」
R氏は、もう一つ食べようと、少し上になっている林檎をとろうとジャンプした。
林檎をもぎ取り、着地した途端、重さと劣化に耐えかねた天井が崩れた。
R氏は野菜をお裾分けにきたY氏の通報により、一命を取り留めたが、林檎はもう二度と食べようとはしなかった。