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駅周辺探索〜ついてくる男

 あー、足が信じられないくらい痛い。名古屋駅まで10分くらい歩かないと。痛いなぁ。痛いなぁ。真っ赤でパンパンな足痛いなぁ。


 名古屋駅は平日にも関わらず賑わっていた。何曜日の何時に来てもこうだもんなぁ。日曜日はさすがにもっと多いけど。


『どーけーよどーけーよこーろーすーぞ〜』


 名鉄のミュージックホーンだ。この歌詞を考えたのは誰なのだろうか。賞状を贈ってあげたい。


 満員電車で地元の駅まで戻る。なぜいつも座れないのだろうか。


 さ、地元に帰ってきたぞーっ! なんか食べるぞーっ!

 現在時刻17時25分。早い人ならもう夜ご飯の時間だ。さすがに混んではいないと思うが。


 肉が食べたい。腹が減っているのでガッツリと肉が食べたい。このへんで牛肉が食べられるお店は⋯⋯すき家くらいか。


 もう今月だけで5回くらい食べてるんだよなぁ。でも一応行ってみるか。


 うーん、混んでるなぁ。いや、混んでないか? 微妙だなぁ。やめとこ。

 それにしても、駅の近くは居酒屋しかないなぁ。足痛いけど少し歩くか⋯⋯


 1キロほど歩いたが、ビビっと来る店がない。患部をかばいながら歩いているので靴擦れしてしまった。サンダルなのに。


 とりあえず駅から離れすぎないようにしよう。バスで帰りたいからね。


 あ! 猫カフェある! こんなとこにあるんだぁ。


 隣に変な店がある。露出の多い2次元キャラが描かれた看板が気になる。リラクゼーションと書いてある。エッチなお店なのだろうか。60分7000円。極上体験。高いなぁ。


 またしばらく歩いていると、巨人が目に入った。突然だったのでビックリしてしまったが、よく見ると樽に乗ったおじさんだった。


 樽に乗ったおじさん? そんなことある?


 もっとよく見てみると、樽に乗ったおじさんは銅像だった。バーの看板なのね。ビックリして損した。この損失は国家の存続に関わるぞ。1ビックリ6兆円だからな。


 んー、なんもなくなった。駅から離れすぎたか⋯⋯


 あ、キモイ街灯がある。私はこういうものを見ると写真を撮りたくなってしまう。この時はキモ街灯の写真を友達に送った。この実況は夜まで続いたのだが、友達は嫌な顔ひとつせずに返事を返してくれた。ごめんね。


 このキモ街灯、めちゃくちゃ細長い首なし白馬の上半身が円盤状のモザイクアートを携えているような形をしている。超キモイ。


 やっぱり探検は楽しいな。足痛くない時にやりたいねぇ。お腹減ったなぁ。

 このへんから私の怒涛のLINEが友達を襲う。


 ○○亭と書かれたのれんのある古そうなお店。その写真を撮って友達に送った。


「高いかな?」


 という言葉を添えて。当然のように「高そう」という言葉が返ってくる。なんか嬉しい。


 安くてガッツリした食べ物売ってるとこないかなぁ。足の甲をかばいすぎてふくらはぎの変な筋肉使ってるからもう疲れてきた。いや、変な筋肉なんてないんだけどね。変っていうか、普段使わないとこの筋肉。


 適当に歩いて見つけたものを食べる。そんな簡単なことが叶わないとは。もう30分も歩いてるぞ。こんなに足痛いのに。これ読んでる人は多分「そんなに歩けるなら大したことないんやろ」って思ってると思うけど、マジで真っ赤で激痛よ。叫びながら歩いてるもん。


 あ! あそこにあるのは!


 昔うつ病だった頃に通ってた病院!(今年いっぱいで閉院するそうです) ここに出るのか! ⋯⋯って、歩いてこんなとこまで来て大丈夫か? 駅まで戻れるか?


 セブンイレブンならあるんだけどなぁ。さすがにこんだけ歩き回ってセブンはなぁ。セブンなら駅の近くで良かったやん! ってなるもんなぁ。


 あ、謎の店の死体だ。不動産屋かな。名古屋はこういうの多いけど、このへんでは珍しいなぁ。あ、そういえばこのへんに⋯⋯


 あーっ! 去年まであそこにかっぱ寿司あったのに! そうやん、ここ潰れたんやん!


 それからまたしばらく歩いた。あてもなく彷徨った。LOUDNESSのThe Night Beastを歌いながら。


 そして、見たことのない道に出た。駅の近くなのに知らない道があるとは。

 独り言で「迷った!」と叫んだら左からおじさんが自転車で走ってきて、私の顔をジロジロ見ながら通り過ぎていった。尾田栄一郎にそっくりだった。


 あ、派手な色の店がある。うどん市と書いてある。よほどうどんに自信があるのだろう。あまりうどんは好きではないが、ここで食べるか⋯⋯よし、年中無休って書いてあるな。


 暗い。店の前まで来て初めて気づいたけど、中真っ暗だ。絶対やってないじゃん。

 入口に張り紙が貼ってあった。


「誠に恐れ入りますが、本日は15時で営業を終了させていただきました」


 あ、そう。⋯⋯歩こ。


 あ、「庭」ってでっかく書いてある店の看板の上に人形が座ってる。面白いな。

 そんなことを思いながら写真を撮った。その時前から歩いてきていた女子高生が少し怪訝そうな表情をしていた。


 もしかして、盗撮してると思われてる? まぁ何か言われたとしても写真フォルダを見せればいいか。そう思って私はそのまま歩いた。

 すれ違った時、女子高生は特に話しかけては来なかった。

 それから数秒後、私は真後ろから足音がしていることに気が付いた。


 もしかして、さっきの子が何か言おうと引き返してきたのか?


 そう思った私は歩きながらチラッと後ろを確認した。完全に後ろを向くわけではなく、横を向いて視界の縁っこで確認する感じだ。


 私の目に映ったのは女子高生の姿ではなく、水色っぽいシャツを着た男性だった。私のすぐ後ろをベッタリついてきているのだ。

 

 もしや、女子高生のあの表情は私が写真を撮っていることに対してではなく、私の後ろにベッタリついてきているこの男性を見ての反応だったのでは?


 男性は帽子を被っていた。水色っぽいシャツに帽子⋯⋯もしかして警察!?


 ということは今の私の行動を見ていた? 盗撮していると思われた? だから後ろをつけて、どこかで職務質問しようとしているのか?


 生まれてこの方職務質問などされたことがなかったので、私は軽いパニックに陥っていた。

 しかし、後ろの警官に悟られる訳にはいかない。平常心を保たねば。不審に思われてしまうかもしれないからな。


 普通の顔をして普通に歩いていた私だが、心臓はバクバクだった。警官が真後ろにいるとこんなにも緊張するのか。特に悪いことをしたわけでもないのに、職務質問をされると思うとこんなにも心臓に来るものなのか。


 しかし、それから2、3分歩いても一向に話しかけてこなかった。ずっとベッタリついてくるだけだ。

 なんなんだ、泳がせてるのか? 次スマホを構えたら現行犯逮捕するつもりででもいるのか? 私は面白いものを撮ってるだけだぞ?


 マジでなんなんだよこの人。そんなことを思った時だった。後ろから声が聞こえた。


「ヒィ〜ン」


 とても高くか細い声だった。


 これ、後ろの人が言ったのか? そう思い、私は耳を澄ましてみた。

 すると、


「えへ、えへ、えべべべべべべ」


 今度は低い声で言っている。声量は先ほどと変わらず小さかった。


 警官よりヤバいやつに背後取られてんじゃねーか! と私は心の中で叫んだ。


「えへへへ、えへへへへへへへ」


「ひ〜〜ん」


 刃物で後ろから襲われる可能性がある。痰を飛ばされる可能性がある。おしっこをかけられる可能性もある。何かを投げつけられるかもしれない。

 そんなことを考えてしまうほど、この男は異常だった。


 ヤバイヤバイヤバイヤバイと思いながら歩いていると、ついに立ち止まらなければならない場面に遭遇してしまった。

 横断歩道が赤なのだ。


 どうする? 私が立ち止まったら後ろの男も立ち止まるのだろうか。それとも私にぶつかってくるだろうか。凶器で襲ってくるのだろうか。


 いや、でもこんな車がたくさん通っている道で人を刺したら問題になるぞ。


 いやいや、そんな常識が通用するような奴か? 変な声を出しながら私の1.5メートル後ろを延々とつけてきてるんだぞ?


 いろいろ考えた私は、横断歩道の手前で左を向き、そのまま円を描くように歩くことにした。半径5メートルほどの円を描きながらこの歩道と薬局の駐車場を歩き回るのだ。


 なぜ私がこんな作戦を立てたかというと、止まるのが怖いのはもちろん、残された選択肢である「左折」が正解かどうか分からなかったからだ。


 私が左に行ったとして、後ろの男もついてくるかもしれない。私をつけているのか、ただ行く方向が同じなだけかは分からないが、とにかく撒きたかったのだ。


 作戦通り円を描き始める私。


 そのまま赤信号の横断歩道を渡る男。


 急ブレーキで止まる自動車。


 幸いその車のすぐ後ろに車はいなかったので、事故にはならなかった。


 周りなど見えていないかのように前を向いたまま横断歩道を渡り切り、男は夕闇に消えていった。


 私は心臓がはち切れそうな思いだった。さっきまで刃物で刺されるんじゃないかと気が気でなくて、今度は目の前で人が轢かれそうになる。心臓がいくつあっても足りやしない。

 まだまだ続くぞぉぉぉッ!!

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― 新着の感想 ―
 自意識過剰。  でも、ついそんな風に思ってしまうことってありますよね。
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