激痛に耐えながら床屋に行く
飼い猫に足を本気で噛まれてボンボンのボンに腫れていた私は革靴を履くことが出来ず、仕方なく仕事を休んだ。
かといって具合が悪いわけではないので、その日は遊ぼうと思った。
足の甲がパンパンだったので普通の靴を履くことはせず、以前100均で買ったクロックスもどきで出かけることにした(本当は足の甲にダメージのないビーチサンダルなどがよかったが、持っていなかった)。
さっそくサンダルに足を入れた。
あまりの痛さに息が乱れる。
なんだこれ、遊びどころじゃないぞ⋯⋯
どうしたものか。サンダルなら多少は大丈夫だと思っていたが、患部が少し触れるだけで激痛が走る。完全に舐めていた。
しかし、家にいてはやることがない! こうして駄文を書くくらいしかやることがなくなってしまう!
そう思った私は歯を食いしばり、サンダルを履いた。
ちなみに私は絆創膏が心の底から嫌いなので、この時も当然貼っていなかった。
歩く度に深淵のような4つの傷口にクロックス特有の丸い穴の輪郭が当たる。まさに地獄だ。
こんな足では自動車の運転など出来るわけもないので、バス停まで歩くことにした。幸い私の家からバス停までは歩いて5分もかからないので、5分弱地獄を味わうだけで乗ることが出来る。
バスで最寄りの大きめの駅まで向かう。その間に今日のプランを考える。
さて、何をして遊ぼうか、何を食べようか、どこに行こうか。
だいたい私が遊びに行くところといえば、銀色の玉が飛ぶ楽しい場所である。例によってその日もそこで遊ぶことにした。
とその前に、朝ごはんが食べたい。久しぶりに朝マックを食べようかな。今なら月見マフィンもあるし。
そういえば髭がマスクにチクチク刺さって引っ張られて痛い。最近髭を剃っていなかったため、2センチほど伸びていたからだ。
最近剃っていなかった理由は、「めんどくさいから」である。私は極度のめんどくさがり屋なので、この世のほとんどをめんどくさく感じているのだ。
ただ、今回は剃るのが面倒だったというより、髭剃りを充電するのが面倒だったのだ。ちなみに、充電器を失くしたわけではない。充電器をコンセントと髭剃りに挿して、何分か待ってから使うというのが面倒だったのだ。
気になりだしたらとことん気になる性格でもあるので、まずは床屋に向かうことにした。
マックの近くにたまたま床屋があったので、そこに入ってみた。老夫婦が営む小さな床屋だった。先客が1人いたが、ご主人が「どうぞ」と椅子に案内してくれた。
「顔剃りだけって出来ますか?」
多分OKだとは思うが、念の為に聞いてみる。
「出来るよー」
ご主人が柔らかい口調で答えた。良かった。
「椅子倒すね〜」
「はーい」
よくある床屋の光景だ。平和な平日、いいねぇ。
「お疲れ様でした〜」
隣の客の対応をしていた奥さんが言った。ちょうどすれ違いになったな。本当はもっと長くいて欲しかったのに。私1人になってしまう。
「7000円お願いします」
ファッ!?
ここ床屋だよね!? あのおじさんどんな注文したの? 普通の髪型に見えるけど、黒髪だし⋯⋯マジで何?
「すみません、顔剃り単品っていくらになります?」
すでに顔に泡を塗りたくられているので逃げ出すことは出来ないが、心の準備をするために聞いてみた。
「2400円だよ〜、大丈夫?」
うーん、床屋の基準で言ったら高いけど、ギリギリ払えるな。初めてのお店ということもあるし、探検という楽しさに支払おう。
「もみあげは三角でいい?」
三角? 三角になるの?
「三角以外には何があるんですか?」
「四角」
四角!? どゆこと?
「四角ってどんな感じですか?」
「バスっと切っちゃう感じだね」
「じゃあ三角で」
三角四角で聞かれたのは初めてだったので少し動揺してしまった。だいたいいつもは「自然な感じでいいですか?」とか聞かれる。
「よし、じゃあ剃ってくよ〜」
「お願いします」
手際よく作業が進んでいく。
「今日は何か良い予定でもあるのかな?」
良い予定とは? あ、顔剃っておめかししてるからか。
「特に予定はないですよ」
なんかパチ屋行くって言いにくいんだよな。
「じゃあなんでわざわざ顔だけ剃りに来たの?」
なんなん。そんな気になるの? そんな気になるんなら言うけどさ。
「あの、信じてもらえないと思うんですけど、髭剃りを充電するのがめんどくさくて来ました」
まあ理解はしてもらえないだろうな。だって、充電がめんどくさいのにわざわざ床屋に来るのはめんどくさくないんかよって自分でも思うもん。パチ屋のついでなんて言えんしなぁ。
「あーたまにそういうお客さんいるよ」
いんのかよ。世の中めんどくさがり屋って案外多いんだな。
「眉毛の下剃るね〜」
眠くなってきた。
「あの、目瞑ったまま瞬きするのやめてくれる?」
目瞑ったまま瞬き? 何言ってんの? ⋯⋯あ、ほんとだ、してるわ。目閉じた状態でまぶたをギュッてしちゃってたわ。
「ごめんなさい」
不便をかけてしまった。
「はいお疲れ様〜」
そんなこんなで顔剃りは終わった。自分で髭剃りをするだけでは行き届かないところも綺麗に出来るので、わざわざ床屋に来るのも悪くないな。
そう思いながら私はマクドナルドへ向かった。まだギリギリ朝マックに間に合う。今日はいい日だ。